【完結】【R18】ハロウィンナイトで融け合って 〜訳あり女子と生真面目男子のハロウィンいちゃラブ話〜

船橋ひろみ

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ハロウィンナイトで融け合って 3

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 夕方のピークが過ぎたからだろうか。駅に向かう大通りは人通りが少ない。

「ねぇ……もう少し、ゆっくり歩いてよ」

 右手が引っ張られる。その先には風間さんの左手があった。
 ギュッと握られた手と手。
『話を聴かせて』と誘った僕の方が、緊張して興奮していた。風邪にでもかかったように身体が熱くなり、困ったことに微妙に勃起している。
 早く、どこかのファミレスでも喫茶店でもいい。話せる場所に入りたかった。

「ごめん……あんまり遅くなると、そっちの家も心配するかなって……」

 もっともらしいことを言ってごまかす。本当は股間の膨らみがバレたら、どうしようもないからだ。
 グイ、と右手が引っ張られる。振り返ると、うつむいて立ち止まっている風間さんがいた。

「……ないもん」

 周囲の音で聞き取れない。右手をたぐるように彼女に近づく。
 意識的だろうか。制服のシャツのボタンが外れ、白い弾力のありそうな肌が覗いている。
 わざと緩めているリボンが、はだけたシャツと相まって、半端ないエロさだ。股間のドクドクが30%くらいアップして、本格的にヤバい。
 僕の視線を知ってか知らずか、風間さんは声を張って、僕を見てはっきり言った。

「うちの親、心配なんてしないもんっ!!  知ったようなこと言わないで!!」

「そんな……」

 彼女の表情を見て、僕の身体と股間の熱が急激に下がっていく。こんな風間さんの寂しそうな顔、見たことがない。

 少しでいい、そばにいてあげたい。そう思った。

 キョロキョロと見回すと、馬をかたどった看板に「喫茶 マレンゴ」と書かれた渋めの喫茶店が目についた。騒がしいチェーン店のカフェよりも、こっちの方が落ち着いて話が聞けそうだ。彼女の手を引いて、飛び込むようにお店に入る。予想通り、お店は静かで彼女からたくさん話が聞けた。

 お家のこと、八重樫先生のこと。
 
 そして、最近失恋してしまったこと。お相手は他校の生徒だという。
 
 ちょっと痛い出費だったけど、美味しいモンブランとコーヒーが絶品だった。
 スイーツを頬張ってテンションのあがった風間さんは、僕を『しゃべり倒した』。
 マスターとおぼしき渋いおじさんから閉店を告げられて、僕たちが追い出されるようにお店を出るまで、ずっと風間さんがしゃべっていたのだった。
 さっきと打って変わって、人影がまばらになった大通りを、手をつないで黙って歩く。
 ギュッと少し力を入れて手を握ると、握り返してくれた。それだけで、話さなくても彼女の言いたいことはなんとなくわかった。
 駅に入る。お店でしゃべり尽くしたのか、風間さんは押し黙ったままだ。僕も会話が切り出せず、結局、改札を通ってしまった。
 最寄り駅のホームは、登りと下りで別になっている。
 彼女とは向かう方向が反対なので、駅でバイバイだ。名残惜しいけど、つないだ手を、ゆっくりほどく。

「キィ先生を心配させたくないから、帰るね」

 お店で話を聞いた今では、その意味がわかる。
 家に居場所がない、だけど、大切な先生に迷惑かけたくないから、つまらない家に仕方なく帰る。

 本当は、帰りたくないのだ。

 彼女が背負い込んでいる暗い陰を、僕は知ってしまった。
 はにかみ笑いをして、おずおずと手のひらを僕に向ける。離したばかりなのに、もう触れたくなる。
 ぬくもりを確かめるように、ペタペタとハイタッチ。僕も笑顔を作るが、ぎこちないのが自分でもわかる。
 鏡があったら見てみたい。さぞかし微妙な表情をしているのだろう。

 ガタンガタン、と電車がホームに滑り込む音。風間さんの方だ。

 手が離れる。

 そして彼女はくるりと回れ右して小走りにホームに降りる階段を駆け下りていった。ハイタッチのマヌケなポーズのまま、僕は彼女が消えていった階段をしばらく眺めていた。

 帰宅すると、母親が遅くなったことなど、いろいろ聞いてきたが、遅い夕飯を頬張りながら聞き流した。
 戸塚先生のアドバイスでは、聞き流す中で大事な事が耳に入るはずだが、まるで入ってこない。
 自室に閉じこもると、風間さんの別れ際のはにかみ笑いが頭をよぎり、急にムラムラし始めた。
 思わずスマホでいつものエロ動画サイトにアクセスする。見慣れたサイトなのに、サムネイルの色白の女の子がみんな風間さんに見える。
 画面では、いろんな風間さんが弄ばれ、絶頂し、悶えまくっていた。
 身体の奥で、赤紫色の何かが弾けた。その後は、あまりよく覚えていない。
 しかし、翌朝、ベッドに大量の丸まったティッシュと、ジンジンとする股間で、何をしたか、理解できた。

 その日の夜は、ホテルでイチャつく素人投稿動画。
 次の日は、有名セクシー女優の制服もの。
 次の日は、かわいい女子大生のナンパもの……
 駅でペタペタとハイタッチしてから、あの肌の感触がありありと残っていて、毎日痛くなるくらい自慰しまくった。出すまでは動画の女の子が風間さんに見えた。
 正常位で、バックで、松葉くずしで……淫れに淫れる彼女を妄想し、抜きまくった。
 ドクドクと精液を出してティッシュで後始末をしながら、改めて動画見ると、全くの別人が喘いでいるのにハッとする。
 そんな夜を過ごす日々だが、日中の学校では、実物の風間さんと中庭で話をするようになった。
 他愛ない話で、あまり盛り上がらない会話だが、それでも彼女は中庭にやってきた。相変わらず瞳の奥に「壁」はあるけど、ほんの少し薄くなった気がする。
 そんなことを繰り返すうち、今では来ることを期待して、そわそわしている僕がいる。
 そして動画で妄想しすぎたのか、会話の最中に彼女が突然脱ぎ出すのでは、というあり得ない心配までしてしまうのだった。
 そんなアホな想像をよそに、今日も彼女はやってきた。はにかみ笑いで小さく手を振って、ちょこんと僕の隣に座る。

ハッサン8番機、頑張って売ってくれてる?」

 隣でトマトジュースを一口すする風間さんは、以前の僕の発言を思い出し、8番機をハッサンと呼ぶようになった。
 それはそれで嬉しいのだが、それ以降、8番機がターバンを巻いてヒゲを生やしたおじさんに思えてしかたない。
 そのうち、突然魔法のランプでも吐き出してくるのではないだろうか。
 まてまて、戸塚先生にカレースープを売ってみたいと言ってみようか。
 実にくだらないけど、彼女との距離が近くなったように感じて、思わず僕の顔がほころぶ。

 8番機に耳を済ませるポーズをして、訳知り顔にニコニコとうなづく彼女。

「ほう……売れ筋と死に筋が変わってきたのに、担当が品揃え変えてくれないのですか……」

 そうか、そういえば、夏を過ぎて涼しくなってきたので、売上本数が以前より減ってきたのだった。
 一方、風間さんは、僕を真似て自分で研究するようになり、少しずつだが売上本数が増えてきた。

「……だ、そうですよ、担当さん」

 ニンマリと笑って風間さんは僕の様子を伺う。
 呆気に取られていると、スカートのポケットからたたまれたチラシを取り出し、僕の前に広げた。

「あ、九光台遊園地のハロウィンナイト……?」

 この前の戸塚先生がまじまじと見ていたポスターのチラシ版だ。今週末にあるという。

「……ねぇ、いっしょに行こうよ。カップル割があるってさ」

 はにかみ笑いの風間さんから誘われた。突然のことに気持ちが言葉ならず、ひとりでに身体が熱くなる。
 僕でいいんだろうか。ただのイタズラではないのだろうか。瞳の奥は例によって笑っていない。

 違うのは、いつもの冷淡な眼差しでなく、切迫した眼差しであることだ。

「この間、話聴いてくれたでしょ。周りが騒がしいだろうけど、また、話聴いてほしくて……ね?」

「……待ち合わせ場所は入り口でいいかな。何時に行けばいい? 風間さんの都合に合わせるよ」

 僕は小躍りしそうな感情を押さえつけて、平静な表情を作るので精一杯だった。
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