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第6章 〜 重なり合う艶華(つやばな)たち 〜

※ 第6章 〜 重なり合う艶華たち 1 〜

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 外回りの休憩で立ち寄ったコンビニの駐車場。
 車中の戸塚隼人は、思わず缶コーヒーを吹き出しそうになった。
 業務用タブレットの画面に表示された、部署連絡のタイトルを見たからである。

(『九門アドバイザー送別会のお知らせ』だって……?)

 九門佳苗くもんかなえ。四ツ葉銀行から西葛銀行に期間限定で出向、現在、隼人の勤務先の朝日オアシスに、財務や業務の内部監査やコンサルティングを担当業務として、西葛銀行から派遣されている。
 数ヶ月前、隼人が乗っている営業車で愛を交わしたひとであった。そして、高校の同級生である。
 彼女は「最初で最後」と言って、激しく悶えた。公園の暗がりでもブルンブルンと弾けたバストを思い出す。あの時シートについてしまった体液のシミは、目立たないがハッキリ残っている。
 あの夜以来、親密な関係は無いものの、佳苗が会社に来ている時は、業務外で雑談を交わすことも少なくなかっただけに、何も知らされなかったのはショックであった。

「あれ……そういえば……清美は知っているのか?」

 数日前にさかのぼって探したが、清美からのメッセージは日常的な内容ばかり。佳苗が朝日オアシスの業務を終えるという話はなかった。取り急ぎ、清美には確認のメッセージだけ入れて、駐車場から営業車をスタートさせて、残りの外回り先をさっさと回ることにした。多忙な清美が即答することはないだろう。

 会社に戻ると、デスクにメモが置いてあった。帰社したら佳苗に連絡してほしいと内線があったようだ。
 佳苗に一言連絡すると、小さな会議室を取ってあるという。詳しい話はそこで、とのことだった。

「俺だって、直接聞きたいよ……」

 指定された会議室のドアをノックし、返事を待たずに滑り込むと、会議室の窓にたたずんでいるネイビースーツ姿の佳苗がいた。チラリと隼人を確認すると、苦笑しながら片手を上げる。

「……言いたいことがあると思うけど、ちゃんと話すから、まずは座って」



 憮然としてドカリと座る隼人。ゆっくりとした足取りで、隣の椅子に腰掛けた佳苗は困った顔で腕組みする。
 向かい合うように座っているので、彼女を正面から見据える。豊満なバストが組まれた腕に乗っていた。

「まだ、連絡出さないでって、頼んでたんだけどねぇ……倉田さん、変に気を使っちゃったのかな」

「清美からも知らされていなかったよ、どういうことだよ」

「あなたと清美には、私からちゃんと話したかったから黙っていたの。ごめんね」

 タイトスカートから伸びた黒いストッキング。単に腕と足を組んでいるだけなのに、なぜこんなにもいやらしいのだろう。自然体な妖艶さが、佳苗には備わっていた。
 愛を交わしたあの夜を、否が応でも思い出す。あの時は暗がりでハッキリわからなかったが、今こうしてみると、化粧だけでない美しさと艶やかさをまとっているのが感じ取れる。
 きっと、仕事からくる自信と前向きに日常を送っている充実感が、彼女の飾り気のない美しさを醸成しているのだろう。若い女性社員でもこんな色気のある人は見たことがない。

 隼人の勤務先である朝日オアシスと、そのメインバンクである西葛銀行とのコンサル派遣契約の期間満了ということで、社長が「送別会でもしなくちゃなぁ」とボソリと言ったことがきっかけらしい。
 秘書室の倉田亜希子が、社長主催の送別会とは別に、ごく少数の有志で行う送別会を企画したのだが、何を間違ったのか、全社員が見るグループウェアの掲示板に投稿してしまったのだそうだ。

「九門は知らないけど、あの子、たまにやらかすんだよね」

「やぁねぇ、それもっと早く知りたかったわ。おかげでエライ人数が参加するらしいの……」

 参加者は有志だけではないだろう。社交辞令や佳苗見たさの社員も多いに違いない。
 佳苗は大きくため息をついて額に手を当てた後、隼人に向き直った。

「まあ、仕方ないね。……えっと、隼人くんには約束通り、ちゃんと説明するね。実は私……コンサルのために朝日オアシスさんに来てるんじゃないのよね。本当は、ここの会社がM&Aを実現するために四ツ葉銀行から西葛銀行通して派遣されたの」

「え、M&A……ウチの会社が買収なんてするのか……」

 驚きとともに、前のめりになる隼人に合わせて、佳苗もつられて前かがみとなった。お互いの距離が近くなり、彼女の上品な香りがほのかに漂う。
 佳苗が話すところによると、朝日オアシスの同業会社のテリオスフーズが、業績低迷と後継者不足が重なりメインバンクの西葛銀行に廃業の相談があったそうだ。
 朝日オアシスとテリオスフーズは商圏が同じで競合にはなるけれど、上手く取引先を住み分けてビジネス展開してきたので、ライバルというより同志に近い間柄であった。

「そうだなぁ、俺もあの会社の営業とは仲良くさせてもらって、時々引き合いを紹介し合うことあるな」

 うなずいて佳苗がにじり寄る。
 いつの間にか、二人きりの会議室なのに、ぴったりと肩を寄せ合う距離になっていた。

「西葛銀行としては、融資先がなくなるだけじゃなくて、この地域にあるテリオスの取引先の影響が大きいと考えて、四ツ葉銀行と相談して朝日オアシスに買収を持ちかけたわけ」

「なるほど、買収後はテリオスの顧客をウチの会社が引き継ぐのか。……で、そこでなんで九門が出てくるんだよ」

「あら、清美のアフタースクールの話、聞いてない? ほとんど私がお膳立てしたのよ」

 清美から聞いた話を思い出した。
 確か、アフタースクールの開校に備えた居抜き物件の買収交渉や資金調達などのM&Aの実務は、ほとんど佳苗が実行したのだ。
 彼女の本当の仕事は、M&Aに関するコンサルだったのである。それも、外資と国内を渡り歩くくらいの腕とノウハウを持っているのだ。企業買収に比べれば、アフタスクールの案件は全て佳苗の裁量で行える分、簡単に違いない。

 二人の他に誰もいないのに、至近距離の囁き声で会話する。ここが会社でなければ佳苗の肩を抱きたくなる距離だ。

「で、契約締結のメドがついたから、銀行に戻ることになったの。最初は業務提携して結びつきを強くして、段階を踏んで買収完了って感じかな」

 わざとかどうか、佳苗がしなだれかかるように寄り添う。二人きりの空気がそうさせるのか。
 グレーシュの髪から立ち上る、フェロモン混じりの甘い香りにどぎまぎする。身体が火照って鼓動がどんどん早くなる。
「清美にはボヤかして話さないとね」という彼女のつぶやきがかすかに聞こえる。すぐそばにいるのに、どくどくと心臓が高鳴って言葉が耳に入らない。

「……ふふっ……カワイイね。あんなに激しいことしたのに、なんで今さら真っ赤なのよ」

「九門が……こんなにぴったりくっつくからだよ……わざとだろ」

 いたずらっぽく笑った瞬間、佳苗が唇を合わせてきた。そして肩を抱くように隼人にもたれかかる。
 おずおずと隼人も肩を寄せて、彼女の肩に手を回した。会議室の外に人の気配はない。

「あの時、車の中で「最初で最後」と言ったけど……やっぱり目の前にすると我慢が難しいな」

「……俺には……清美がいるよ……」

 コクリと彼女は頷くが、再び唇を合わせてきた。隼人の唇を優しく舌で舐めあげて口の中に侵入する。

「……今は……忘れてほしい……少しの間だけ、ね?」

 お互いをしつかりと抱きしめる姿勢で、深く唇を吸い合って、舌を絡めあって唾液を交換する。

 ぷちゅっ、ちゅぱっ、んちゅっ、くちゅっ、はふぅっ。

 興奮が一気に高まり、連動するように息と鼓動が早くなる。大きなため息とともに口を離して見つめ合う。
 粘液の糸が、二人の結びつきを表しているように伸びていく。佳苗は早くも目をうるませながら、まだるこしいと言わんばかりにジャケットを脱いでデスクにバサリと放り投げた。
 彼女が立ち上がって脱ぎ捨てたと同時に隼人も立ち上がり、ギュッと抱きしめながらついばむように首筋にキスを降らせた。

「んふぅぅぅぅっ……久しぶりのキス……感じちゃう」

 キスをしながら、ぎこちない足取りでドアから見えにくい位置に動く。
 気配が無いとはいえ、万一のことがある。お互いバレたらただでは済まない。ただ、そのわかりきったことがかえって欲に火を付ける。ワイシャツがはち切れそうなバストを手のひらにおさめてこね回す。
 佳苗は隼人の頭を抱きしめるように腕を回し、快感で脱力する身体をかろうじて支えている。吐息も艶めかしさが濃くなり、汗ばんだ身体から熱気が発せられる。

「あぁ……んふぅ……んっんっんんんっ……もっと、おっぱい……もんで……」

 卑猥な注文をしながら、徐々にキャリアウーマンから一人の牝に妖しく変身していく。
 揉みしだくたびにビクビク、ブルブルと愉悦に震えながら、愛撫を受けて身を捩る。そんな佳苗につられて、平凡なセールスマンも一人の牡に変身しつつあった。
 乳首周辺を指でなぞると、コリコリとした感触があり、彼女の突起がハッキリとわかった。指の腹でブラ越しにつまむと、かろうじて声を抑えて大きく身体が波打つ。

「っっっっ!!!!……はぁっ……んんんっ……あぅぅっ……」

 再び唇を合わせて、舌を絡め合う。
 隼人の頭にかかっていた腕が解けた。フーッフーッと強い吐息で腰を擦り付けていた佳苗だが、肉欲が身体を動かすのか、いよいよ我慢の限界か、彼の股間を撫でて揉み出しだく。

「わぁ……もう固くなってるね……欲しくなっちゃう」

 ジジジとズボンのファスナーを下ろし、肉棒をまさぐり当てた瞬間であった。
 ブーン、ブーンと振動音が机から聞こえた。

「……!」

 快感で蕩けていた瞳が一瞬で変わる。
 佳苗はジャケットに駆け寄って、スマホを取り上げる。大きな咳払いをしてスマホを耳に当てた。

「はい、九門です……ええ、なるほど……社長、システム関係は私、あんまり守備範囲では……はい、わかりました。とりあえず、藤澤課長から詳しくお話聞きますね」

 苦笑して、呆然としている隼人を振り返る。
 乱れた服装と髪を整えて、短く息を吐いて肩を上下すると、ハンカチを取り出して隼人に近づいた。

「うーん、残念……社長のお願いじゃ、後回しにできないからね」

 彼の唇についた口紅をササッと拭き取ると、チラリとチェックしてうなづいた。

「じゃあね。今度会うのは送別会の時かな。来てね」

 軽く手をふると、小走りで会議室を出ていった。けたたましいパンプスの足音がだんだんと遠くなる。
 状況についていけない隼人は、ズボンのファスナーを下ろしたまま、呆気に取られていた。
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