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第一章 そぼ降る雨のいとこたち

第二話

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 翔太があかねを引っ張るようにして駅前の大通りから横道に入ると、ラブホテルが立ち並ぶ通りに出た。
 
 (ここは相変わらずって感じだな)
 
 最後にあかねとの『ひととき』を楽しんだ数か月前と変わらず、気持ちがざわつくような外観のホテルが固まっている一角であった。
 平日の昼間だというの、翔太たちと似たようなカップルが数組、のんびりと歩いている。入口付近の料金案内と部屋の内装写真のパネルを見比べながら、数時間の濃密な時間を過ごす場所を選んでいる。
 そんなカップルの間を、二人はスイスイと抜けて、赤レンガをあしらった外観のホテル『ムーンライト』の入り口に飛び込むように入る。

「翔くん、今日は良さそうなお部屋、あんまり空いてないよ」
「別にいいよ、あかねぇちゃんと一緒なんだから、どこだって」

 入り口でバサバサと傘の雨粒を落としながら、翔太は応える。
 通りのカップルもそうだが、部屋に入ったら『すること』に、大きな差はない。
 ホテル『ムーンライト』は、二人にとって過不足のないアメニティが用意されている、比較的シンプルなホテルであった。
 何度かのデートで入った時、シンプルさが気に入った翔太はそれ以来、あかねとの時間を過ごすのはこのホテルと決めていた。

「決まった?」
「ここと、ここしか空いてないね」
「じゃあ、304にしようよ」
「……うん」

 傘を畳んだ翔太が歩み寄って、抱き寄せるようにあかねの腰に手を回すと、従姉はぴくんと身をよじらせて、しなだれかかってきた。

 ショートカットから覗くうなじ。火照ったような熱気が伝わってくる。

 チェックインの手続きを済ませる間、あかねはずっと身を寄せていた。
 思えばお互い忙しかったので、ここしばらく会ってない。
 あかねはあかねで、翔太に対する気持ちが募っていたのであろうか。レインコートをまだ着ているのに、まるで熱気がこちらまで伝わるようだ。

 支払いを済ませて、ルームキーを受け取る。

 受付の陰気な男性スタッフの視線を受けながら、コスプレ衣装やアダルトグッズが陳列されているロビーを抜けて、エレベーターに向かう。

 ロビー階まで降りてくるエレベーターが待ち遠しい。

 身体を寄せてモジモジとするあかねを抱き寄せて、彼女の手を握る。
 電子音とともにエレベーターのドアが開いた。
 二人同時にもつれ込むように入ると、翔太は『3』のボタンを押して、『閉じる』ボタンを連打した。
 
 ガタン、という重い音ともにドアが閉じると、あかねが待ちかねたようにしがみつき、湿ったため息ともに翔太の胸に額をこすりつける。
 色香ただようあかねのフェロモンと柑橘系の香水が入り混じった香り。何度となく嗅いでいるのに、いつも身体の奥底がゾワゾワする。
 翔太があやすようにあかねの頭を撫でると、小さくうなりながら強くしがみついた。翔太の胸にむにゅりとした乳房が押し当てられる。

「どうした? あかねぇちゃん」
けちゃう……やだよ、あたしとデートなのに彼女のチャット出るの」
「仕方ないだろ、業務連絡なんだから」
「ダメ。……お詫びのチューして」

 翔太を見上げたあかねは、目を閉じながら唇を突き出した。
 うっすら閉じたまぶたと、ぷっくりとした唇は、自分の『もう一人の恋人』である栞を想起させる。

 唇を近づけた。
 なんどもキスしている唇なのに、あかねの口元を見るたびに、翔太の鼓動は加速度的に早まっていくのだった。
 かすかにミントの香りがする、あかねの吐息を感じる。
 
 ぽってりとした唇に、自分の唇を重ねて、従姉の体温を確かめる。

 ぷちゅっ、ぷちゅり。

 上唇をついばんだ。ぷるんとした弾力を感じる。あかねが「んんっ」と小さく呻く。

 しおりのことが頭をよぎった。
 栞からのチャットは、
 ちぐはぐな文面だが、業務連絡と確認にかこつけて『何時くらいに連絡可能か』といった今日の半休について詳細を聞き出そうとしている。

「……ねぇ、もっと……そんなんじゃ、お詫びじゃない……」
「……部屋に行ったらいっぱいするのに」
「ここでキスするから、良いの……早くぅ」

 上目遣いでさらにねだるあかねの下唇を口で挟むように吸い、舌をなぞるように這わせると、あかねの身体はビクンビクンと反応した。
 波打つ身体を受け止めた翔太の身体は、一気に熱くなった。股間が脈動とともに膨張してきつくなってくる。

 (今は……栞より……あかねぇちゃんだ)

 ちゅっ、ちゅちゅっ、はふっ。

 唾液を含ませて唇を吸いながら、あかねの口に舌を侵入させる。
 呼応するように舌が出てきて重なり、舌伝いに火照った熱気を感じた時、チャイムが3階に着いたことを告げ、ドアが開く。
 離した唇から、てろんと唾液が糸を引いた。

「……お詫び、これで十分?」

 うっとりしたあかねはコクリと頷いて、翔太の腕に自分の腕を絡ませた。
 薄暗い廊下に、目指す部屋のルームプレートがチカチカと点滅していた。
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