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第一章 そぼ降る雨のいとこたち

※第三話

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 うっとうしいとばかりに、藤沢あかねは通勤カバンとレインコートを、しつらえてあるソファに放り投げた。
 後ろで翔太が靴を脱ぎながらあっけに取られていた。

 (部屋に入れば、気にしなくていいもん)

 エレベーターで翔太と唇を合わせてから、胸が跳ねるように高鳴り、身体の奥が火照ってくる。
 久しぶりのキスがスイッチになったのだろうか。あかねは自分が思った以上に翔太を欲していたようだ。
 何度も身体を重ねているのに、今日は妙に鼓動が高鳴って、人前でも翔太にむしゃぶりつきたくなる。

 昨日喧嘩してしまった自分の夫である藤沢茂ふじさわしげるにさえ、あかねはここまで欲情した記憶はない。

 何度も身体を重ねれば、しだいにお互いに飽きてきそうなものだが、エレベーターの時のように身体を密着させているだけで、いまだに身体の奥がキュンとする。

「翔ちゃん、はーやーくー」
「わかったよ、ちょっと待ってよ」
「待てない、はやくはやく~」

 ぽすん、と座ったあかねは、翔太に手招きしながら後ろにもたれかかった。
 やれやれとした表情であった翔太だが、自分で頬を撫でながら近づいてくる様子を見て、あかねはニヤリと口角を上げた。

 (今日はたくさん気持ちよくなれるかな)

 あかねは翔太のクセを知っていた。
 本人は意識していないのだろうが、翔太があかねを激しく求めるときは、彼はしきりに自分の頬を撫でるのだ。
 平静を装っているが、一皮むいた翔太は、きっと肉欲の塊なのだろう。
 ドサっとソファに座った翔太の顔が赤らみ、ギラギラとした瞳であかねを見つめる様子をみて確信に変わった。

 (ほら、やっぱり……)

 あかねが言葉を発する前に、かぶりつくように翔太があかねの身体を抱きしめる。

「あかねぇちゃん……おまたせ」
「翔ちゃん、待って……あ……んんんっ……んんっ」

 (あ……指輪外す前なのに……)

 荒い鼻息ともにお互いの唇が重なり、グイグイと吸われる。
 あかねもくちゅくちゅと接吻しながら、ジャケットを脱ぐ。当てずっぽうで後ろに放った。
 こんなことになるだろうことは、あらかじめわかっていたので、ジャケットは多少汚れても良いものを選んできた。
 翔太とは裸で過ごすことが多くなるだろうし、いまさら服装が多少雑でもなんの支障もなかった。
 ただ、これから翔太に脱がされるであろうカットソーの下、つまり下着はお気に入りを選んできた。

 はふはふっ、くちゅちゅっ。

 キスを続けながら、翔太の背後でバサリと音がした。あかねと同じくジャケットを放ったのだろう。
 まるで息継ぎのように唇を離すと、びしゃびしゃになった口から、つつつ、と唾液が顎に垂れる。
 ふぅふぅと喘ぎながら、お互いを見つめ合い、ニコリとする。
 再び迫る翔太を制して、傍らにおいたカバンをゴソゴソとまさぐる。
 中指が、しっとりとした物に触れた。

 (あ、あった……)

 あかねは小さなライトブラウンの革小物を取り出した。
 この時のために購入した指輪ケースであった。もちろん、夫の茂には違う理由を言ってある。
 左手を翔太の前にかざして、上目遣いに薬指の指輪を外し、慣れた手付きでケースにしまうと注意深くカバンに収めた。

「翔ちゃん、おまたせ。続き、しよ♪」
「ねえちゃん……」

 あかねはおどけながら、向かい入れるように両手を拡げると、翔太は倒れるように覆いかぶさった。
 革張りのソファがギュギュと音を立てて軋み、あかねは後ろに沈み込んでいく。
 お互いの吐息が湿り気を帯びてくる。唇にはじまり、頬、あご、喉元、首筋をぷちゅっぷちゅっと翔太についばまれ、あかねのまとっている「人妻」という衣が溶けていく。

「翔ちゃん……いつもより……キス、感じちゃう」
「あかねぇちゃんも……いつもより身体が熱いよ」

 カットソーのボタンが丁寧に外される。しだいにラベンダーカラーのブラジャーが露わになる。
「人妻」が溶けて従姉であり翔太の密かな恋人である、「鎌ヶ谷あかね」の地肌が顔を出す。

「こうして触っているだけでも、シャツ越しに熱が伝わってくる」
「なによ……それじゃ……んふっ、んんんっ」

 それじゃまるでエロ女みたい、と言いかけたあかねだったが、翔太の唇が重なって、その後の言葉は続かなかった。
 どちらからでもなく、舌が伸びてきて絡み合う。
 ちゅぱちゅぱという接吻音と、ギュギュ、ギシギシというソファの軋む音。そして、お互いのしだいに荒くなる吐息の音。
 唇を離すと、小さな音量ながら、部屋の有線から洋楽流れていたことに気がついた。

「いつもより、つやつやしているね、肌」
「嬉しい、ありがとう……翔ちゃんに言われるの、すごく嬉しい。キュンキュンしちゃう」
「すべすべのお腹も出てきた」
「やぁん、恥ずかしくなっちゃうよ」

 カットソーのボタンが全て外されて、へそ周りを撫でられる。
 少しポチャって来たかな、と気にしていたのだが、翔太も夫の茂も今のままが良いという。
 つつつと撫でる翔太の手も、火照りを帯びてじんわりと熱く、しっとりとしていた。

「触ってるだけでも気持ちいい……」
「翔ちゃん、お風呂は……」

 問いかけに翔太はうっとりとした表情のまま首を振る。

 (そういう私も、ここでお風呂は入りたくないのよね……)

 ここまで盛り上がっているのに、いそいそと風呂に入って、イチャついたムードを台無しにしたくなかった。
 そんなことが頭をよぎった瞬間であった。

「あっ! あんんんっ!!」

 脇腹に触れた翔太の指が、すぅっと腰から腋へ這っていくと、自分の意思と関係なく、あかねは身体をくねらせた。
 指が触れて伝った跡に、少し遅れてぞわっという感覚がやってきて、身体の芯の火照りが増してくる。
 あかねの悶える様子を見て、翔太の手は腋から乳房に移り、ふるふるとたわわな乳房を揺らすように揉んでいくのであった。
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