邪神様に恋をして

そらまめ

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未踏の大地へ(青年編)

女神様、なんとなくしっくりきません

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 ユキナの願いを叶えるために俺はあの洞穴に来た。……が、何故か家族総動員プラス親しき者達とだ。
 そう、新たに増えた真なる創造神様と時の御方様。そして先生と師匠に朝食後に合流した獅子王。さらに護衛としてのワルキューレ、アテナ達女神も含めたあの拠点に居た全ての者達とだ。

 なんなんだ。このピックニック気分で浮かれた一行は……

「あのぅ、やっぱり家族以外の方は帰ってもらえませんか」

 勇気を振り絞り真なる創造神様、いや、時の御方様に言ってみた。

「いやいや、僕が力を貸したのだからね、最後まで見届けないと」
「そう、私達には見届ける義務がある」

 にこやかに話す創造神様と違い、気分を害したのか、とても冷たい視線を向ける時の御方様。
 ああ、とっても恐い。その視線が……

「で、ですよね。あははは、忘れてください。みんなで行ったほうがいいですよね……」

 背中に冷たい汗を流しながら、誤魔化すようにやや俯いて頭を掻くと、俺は目的の場所へ再度歩を進めた。
 終始そんな感じでやっとの思いでその場に辿り着くと、獅子王が俺を押し退けるように樽を覗き込んだ。

「おお、やはり減ってはおらぬか。流石は世界樹より作られし酒と樽だな」
「……本当だったのか。  おい、左よ。本当に見返りも無しにあの世界樹が用意してくれたのだろうな」

 先生が獅子王に問う。
何故かな、とても困惑しているように見えた。

「はい、我が主よ。誠でございます」
「ちなみに世界樹には何と申した」

 今度は師匠が質問した。先生と同じように困惑しているが、先生と違い何故かかなり顔が引き攣っている。

「古くからの友と、その友人に振る舞うと言っただけだが何か問題だったか」
「そうか。それはフレアマルデルに贈られたのだな、正確には」
「だろうな。我が主、真なる創造神様にも献上しなかったこの世に二つと無い貴重な物をなんの見返りも無しにおまえに渡した理由はそれ以外にはあるまい」
「そんなに貴重な物だったのですか。私は以前より戦乙女達と、」
「なに、何故それを隠していた。いや、なんで儂をその場に呼ばなかった! ま、まさか、右よ。おまえまで内緒で呑んではおるまいな」

 先生は恐る恐る師匠を見た。

「えっ、あぁ、呑んではおりません、たぶん……」

 師匠は先生から視線を外し、やや斜めに俯くように小さく答えた。
 それは誰から見てもあからさまな嘘だった。そんな師匠に先生は詰め寄ろうとした時に創造神様に止められた。

「闇の子よ。仲間外れにされたからといって怒るな。己の器の小ささが露見するだけだぞ。それに世界樹が僕に献上しなかったのはあの娘の為だけに作られたものだからだ。それは世界樹より聞いているし、代わりの物は献上されている。まぁ、もっともやや味は劣るらしいけどね」
「そう、それは私の愛し子への愛情の分だけ美味しい。他へ渡さない理由については私が世界樹へ入知恵しただけのこと。おまえのような愚か者にやらぬために」

 先生はその言葉を聞いて愕然と崩れ落ちる。なぜかな、とても哀しそうに肩を振るわせ泣いてるように思えた。
 先生のその気持ちがよく分かる。俺は先生のところまで行って、片膝を着いて手を差し伸べた。

「先生。私も同じような事が何度もありました。やはり先生と弟子は似るのですね」

 先生は肩を振るわせ、ゆっくりと俺を見た。

「馬鹿、いや愛弟子よ。おまえだけだ、儂の真なる理解者は」

 差し出した手を掴むと、一気に俺に抱きついて泣いた。
 だが、そんな感動的な場面は一瞬で終わる。

「あああぁ、なに私の悠太くんにくっついてんのよ。離れなさいよ、悠太くんが汚れるわ!」

 マルデルに強引に離されると先生はそのまま地面へ投げられた。
 それはそれは流れるような綺麗な背負い投げだった……
 その技に少し恐怖を覚えながら、改めてマルデルを怒らせないと心に誓った。

 ああぁ、やっぱりいつもの様にグダグダになるんだな。
 ほんと、締まらないよな……


 ◇


 あらためて三人の石像の前に立ち、そして石像と化した周りの精霊を眺めた。
 あの頃の記憶は思い出せないが、不思議と強い絆だけは感じる。
 それに深く、強く精霊たちに愛されていることも。

「永い時を待たせた。共に在った世界が終わり、新たな世界が創造され、俺がここに辿り着くまでの永い時を。ただ一途に俺の無事を願い、そしてまた共に在る事を望んでくれたことを感謝する。今、その想いは果たされた。また共に歩こう、俺たちが目指した希望の世界へ」

 マルディールを右手に掲げ、そして胸元に。
 すると突然マルディールが光を放つ。その輝きは美しく、聖なるとても清らかな輝きで、厳かに優しく周囲を照らした。

 石像と化した精霊たちが、その輝きに照らされると次々と元の姿に戻り、俺の元までやってくる。皆、再会と俺の無事を喜び優しく触れてくる。

「パパ、すごいね。あんなにあいされてる。でも、ママにもあのこたちにもパパはあげないんだからね。……けどいまはゆるしてあげる」
「メイ、良い子ね。そう、パパはすごいんだよ。けれどね、パパはママのだから」

 そこはかとなく不穏な会話が聞こえたような気もするが、おそらく気のせいだろう。こんなに素晴らしい奇跡の最中だしな。うん、きっとそうに違いない。

「久しぶりだな。元気そうで安心したぞ」
「でもなんかとても弱々しい感じがするわ。あの凛々しい姿はどこに行ったのかしら」
「たしかにそうですね。けれど、あの穢れなき魂の輝きは変わっていませんから、何かがあったのでしょう」

 その声に導かれるように視線を移すと、あの三人が笑顔で俺を見ていた。

「おい、久々の再会なのに失礼だな。ソフィア、ゼファー、スタン」
「おいおい、その名は原初の頃の名だぞ」
「はぁ、たぶんまだ完全には思い出してないんでしょ。鈍ちんだし」
「でも、名を思い出しただけマシですよ。フレアが居なければただのお人好しの戦闘狂ですし」

 おい、散々な言い草だな。
 たしかについ何も知らずに名を呼んでしまったが、しょうがないじゃないか、勝手に口からその名が出たのだから。

「あっ、フレア! 私の愛しき妹、会いたかったわ!」
「「おい、おまえの妹じゃねえ。俺の妹だ!」」

 ソフィアがフレアマルデルを見つけ一目散に駆け寄ると、彼女を追うように二人も駆け出す。
 そんなソフィアからマルデルは顔を強張らせて逃げるように半歩下がるが、あっさりとソフィアに捕まり抱きつかれた。

「ひ、人違いだから。私はフレアじゃないから!」
「いえ、この私があなたを間違えるはずがありません。あああぁ、本当に相変わらずかわいい私の妹。会いたかったわ」

 ゼファーとスタンにも両脇を固められてマルデルはもはや逃げることも抵抗する事も出来なかった。
 マルデルは大きくため息を吐いた後、諦めたように呟いた。

「はぁぁぁ、おかえり。会いたくなかったけど会えて嬉しいよ。まさか、ソフィア達だったなんて、私もまだまだね」

 ん、なんか会いたくなかったって所だけ余計小声になってなかったか?
 なんか、分かってたら来なかったって言ったような気もするし……

 うーん、なんだろう。この温度差は。
 まっ、今気にしても仕方がないし、後で聞けばいいよな。
 だけどさ。俺との再会よりマルデルとの再会を喜ぶのはなんかしっくりこないよな。

 おい、おまえたち、俺を待ってたんじゃないのかよ!
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