邪神様に恋をして

そらまめ

文字の大きさ
上 下
226 / 230
未踏の大地へ(青年編)

女神様、ドッキリ返しですか

しおりを挟む
 とてもとても体が調子良い。今までにないくらいに。

 そんなスーパークールとなった俺は、精霊たちと朝の交流をしていた。
 新たに生まれ変わった俺のことを精霊たちはとても喜んでいた。それに精霊たちも何気にいつもよりもよりピカピカしているような気がする。
 おそらく彼等も俺と同じくパワーアップしたのかもしれない。

「しかし驚いたよな。アンジュ達とそんな昔からの付き合いだったなんて」
「まぁそうですね。でも女王とは違って悠太様は危なっかしくってほっとけなかっただけですけど」

 アンジュがそう言うとシェリー達も同意を示すように何度もうなずいていた。
 すると皆でヒソヒソ話を始め、俺を見て何かを思い出したのか一斉に吹き出して笑った。

 おい、何を話していたのか知らないが人の顔を見て笑うのはやめろ。失礼にも程があるだろうが。

「申し訳ありません。けれど思い返すとおかしくて」

 ウェンリィが謝ってくれたが、その表情は必死に笑いを堪えていて肩が小刻みに震えていた。

「ところで悠太様。あの洞穴の皆をあの場所から解き放っていただけませんか」

 ん、解き放つ?

 ユキナからそう言われるも、その方法が分からない。手で軽く口を隠し思考に耽るが全然思いつかない。

「大丈夫です。行けばなんとかなりますから」
「ほんとか。まぁユキナがそう言うなら信じるけど、もし駄目だった時は絶対に馬鹿にするなよ」
「私たちが悠太様を馬鹿にした事なんて無いはずですけど」

 おい、シェリー。しれっと嘘をつくな。ほんとクロノアといい、精霊は息を吐くように嘘をつくな。

「我らが王よ。それはあまりにも酷くありませんか。私たちがこんなにも、あなた様に全てを捧げているのに」

 おいおいと小さく声にだして嘘泣きを始める名女優アンジュ。その悲哀に満ちた演技は圧巻だった。

「おい、小芝居とはいえない迫真の演技はやめろ。誰かに見られたら俺が泣かせているような誤解されるだろうが」

「いえ、泣かせたのは悠太様ですから」

 一斉に皆が口を揃えて反論した。
 このままでは拙いと思い、話を変える事にした。

「なあ、でも原初の神様の眷属だったならなんでアンジュ達は神様にならなかったんだ。神様になって俺を支える選択肢だってあっただろう」
「全然。しがらみが増えるだけで、つまんないじゃないですか」
「そうそう。私たちは面白おかしい生き方の方が好きですから」

 シェリーにマナリアが同意すると、この場にいる皆全てが同意を示し、一気に場が賑やかになった。

 結局、どこまでいっても精霊はわがまま気まままな存在なんだな。
 そんな風に納得しているとユキナがこう付け加えた。

「それに私の同胞もそうですが、神になっても楽しそうじゃありませんからね。それよりも悠太様と共に在る方が何倍も幸せです」
「ですよね。神になんてなったら悠太様のお側には居られませんし」

 ウェンリィはそう言って、俺の肩に座って頬にもたれ掛かった。

 ったく、本当に甘えん坊だな。
 まっ、しょうがないか。
 こんな駄目な俺をずっと見捨てずに支えてくれてたんだ。このくらいで喜んでくれるならば安いものだ。

「あっ、ウェンリィが抜け駆けした!」

 そのシェリーの言葉が合図となり、この場にいる全ての精霊たちが俺に纏わりつく。

 うん、たぶん傍から見たら俺、かなりピカピカしてんだろうな。
 なんかクールとは程遠いけど仕方がないか。



 ◇



「だぁっ! な、なんで……」

 精霊たちと遊び過ぎて少し遅れて朝食を摂ろうと食堂に入ると、なんとそこに創造神様とあの恐怖の時の大神様が居た。しかも師匠マスターと先生までもが、さも当然のように食事をしている。

「あ、おはよう。随分と遅いじゃないか。あ、先に戴いていたよ」
「おう、馬鹿弟子。そんなところで阿呆ヅラしてないで、さっさと座れ」

 そんな暢気な創造神様の話を先生が繋いだ。
 目の錯覚なのか、何気に馴染んでるように見える。
 いやいや、これは新手の精神攻撃ではないのか。

「悠くん、呆け過ぎて口が開いてるわ。それにこれは現実。さっさと受け入れた方が楽になるわよ」

 スカジ様が優しく語りかけ、背を軽く押して席に座らせてくれた。

「これはフレ、いや、マルデルちゃんが作ったのかい。うん、本当に美味しいよ」
「ええ、正確には私とスクルドですけどね。気に入ってもらえて良かったです」
「当たり前。私の愛し子はなんでも出来る。でも、もっと褒めて」

 な、なんなんだ。この自然な流れは。
 というか、さっきあんなにも感動的な別れをしたよね、そうだったよね。なんでこうなってるんだよー!

 俺はそっと眉間に手を当て、目を瞑った。
 あれか、前にフレイとやったドッキリの仕返しか。
 いや、マルデルはそんな事はしない。
 となると、ただ単に遊びに来たということなのだろう。

 ん、なんか創造神様が前よりも輝いていないような……

「あ、受肉したからね」
「そう、これで私たちは人と変わらない身となった」

 そっかぁ。受肉すると人になるのか。

「この馬鹿弟子。あっさり騙されるな。それに受肉して人になる訳がなかろう」

 師匠マスターの手刀が軽く頭に落ちた。

「それにだ。見掛けは人でも中身はそのままだからな。坊や、甘く見てると痛い目に遭うぞ」
「ちょっと、悠太くんを脅かさないで。それに私がちゃんと護るから問題ないから」
「まったく貴様は。互いを甘やかしてるだけでは成長せんぞ」

 そんな師匠と戯れ合うマルデルをほっといて、向かいに座るヒルデに目をやると、彼女は微笑みうなずいた。
 そして周りを見渡すと、皆が普通に受け入れ、楽しそうに食事をしている。

 まっ、みんなが良いならそれでいいさ。
 それに人が、いや、家族が増えるのは大歓迎だしな。

 そう思い、俺は食事を始めた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...