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未踏の大地へ(青年編)
女神様の一番は変わりません
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「私がそんな不確かな先読みをするとでも」
突然、目の前に降りてきた銀色の輝きからそう言われると、私の周りの時が止まった。精霊であるアンジュまでもが時が止まり静止している。
「我が愛し子よ。あなたの為に手を尽くした私に対して、それはあまりにも失礼ではありませんか」
とても懐かしくて暖かい声。
私の姉、または二人目の母とも呼べる存在に、私はすごく安心感を覚える。
「ごめんなさい。でも、あなたが下界に降臨されるなんて、そんな珍しい事も、いえ、それ程の事がこれから起こるという事なのかな」
ゆらゆらと揺らめく銀の輝きが、なんとなく楽しそうだと感じた。
「まだ確定してはいない。けれど、そのように思ってもらって結構よ。でもね、今日は堪えきれずに一足先にあなたに会いに来たのよ」
一際また楽しそうに揺らめいた。
「私も会えて嬉しいよ。女神になってからは全然会えなかったし」
そう。神となってから彼女達と会うことはなかった。それはもう見捨てられたのかと思えるほどに。
「私も世界樹も、あなたを見捨てたりなんてしてませんよ。それに、あの四大もね。ただ、あなたの成長を離れて見守っていただけ。あなたの為にね」
こうして目の前に現れたという事は、離れて見守る必要がなくなった、って事なのかな。
「近いうちに主と降臨するわ。それまでは秘密にしておいてね。うっかりバレてしまうと、それこそ本当に大事になりそうだから、お願いよ」
「だから私以外の時を止めたんだ。なんでなのかなって思ったけど、そういうことだったのか」
また楽しそうに揺れた。
「なんかドキドキするし、秘密ってなんかいいでしょう。あなたの側に居ると本当に心から楽しく思えるわ」
「なら、側に居ればいいのに。でも、あなたの立場的にそうもいかないか。もうあの頃とは違うもんね」
「そうね。あの原初の頃ならばいざ知らず、神々が増えた今ではそうもいかなかった。でもそれも、あなたに要らぬ危害が及ばぬようにとの配慮でしたが、その憂いも近くなくなるわ」
どうやら本当に何かとてつもない事が起ころうとしている。
私は悠太くんを守れるのだろうか。
「大丈夫。あなたの伴侶も、あなたも、今度こそ必ず乗り越えられる。その為に私たちは入念に準備してきたのだから」
そっか、そうだよね。
「そうよ。でもね、全てを思い出すのはまだ早いわ。だから今、私が消えた後にあなたはまた忘れてしまうけれど、それでも私はあなたに会いたかった。私の大切な唯一の愛し子よ。あなたに私の絶大な加護を、そして絶対無敵の幸運をまた授けるわ」
暖かい銀の輝きに全身が包まれると、私の全身に何か強大な力が張り巡る。
そして、その銀の輝きが消えると時がまた静かに動き出した。
◇
「女王、女王よ、如何されましたか!」
気が動転したようなアンジュが、必死に私の肩を掴み問いかけていた。
「あ、えっ、ああぁ、大丈夫よ、アンジュ」
「本当に大丈夫なのですか。それに女王の力が急激に増したような気がするのですが、何かあったのですか」
力が増した?
え、何もないでしょ。それにあなたと二人で話してただけだし。でも誰かと会ってたような気もする……
「そうなのですが、突然そんな強大な神威を解放されたら誰だって驚きます。慌てて皆で隠すのが大変だったのですよ」
え、どういう事なのかな。
彼女の言っている事が理解ができない……
「ですから話の途中で、いきなりブワッと神威が」
冷静沈着な彼女にしては珍しく、手振り身振りを添えて話していた。
なんかその姿がとてもおかしくて、私はつい笑ってしまった。
「アンジュ、らしくないわよ、そんなに興奮するなんて」
「じょ、女王、笑うところではありませんよ。私がどんなに心配したと思っているのですか!」
「あっはは、アンジュでも悠太くん以外を心配する事もあるのね。それもそんなに取り乱して」
みるみるうちに彼女の顔が赤くなっていく。そしてついには常のサイズに戻り、顔を背けて私の目の前で宙を浮いていた。
「もう知りません。女王の事なんて金輪際心配しませんから」
「もう、そんなに怒らないでよ。ほんと、らしくないわよ」
「なんでもないのならいいです。それに今は落ち着いているようですし」
顔を背けたまま彼女はそう言った。
うん、まだかなり不貞腐れてるよ。
「だから、ごめんね。もう揶揄わないから許して。それに急に訳の分からない事を言われても困るでしょ」
「ふん。急に訳の分からない事が起こったのはコッチの方ですから」
彼女がらしくもなく顔を背けたまま鼻を鳴らして悪態をついていた。
それ程までに私を心配してくれたのだろう。そんな彼女に心の中で感謝した。
「それで悠太くんの事はもういいのかな」
「ええ、今更女王に文句を言ったところで悠太様が変わる訳もありませんし、女王のお心の内が知れた事で皆も納得してくれると思いますから」
そう、なら良かったわ。
でも何かを、とても大切な何かを思い出したような気がする。けれど何も……
こんなスッキリしない思いを悠太くんもしているのかなぁ。
明日からはもっと悠太くんに寄り添って彼の助けになれるようにしないと。
ああぁ、星が綺麗……
でも、悠太くんの方が素敵に輝いているけどね、うふふふ。
「女王、鼻の下が伸び切ってますよ」
去り際に彼女は呆れたようにそう言って消えた。
まぁ、しょうがない。自然とそうなってしまうのだから仕方がない。
私はそれからもしばらく星を眺めた後、自室に戻って眠りについた。
突然、目の前に降りてきた銀色の輝きからそう言われると、私の周りの時が止まった。精霊であるアンジュまでもが時が止まり静止している。
「我が愛し子よ。あなたの為に手を尽くした私に対して、それはあまりにも失礼ではありませんか」
とても懐かしくて暖かい声。
私の姉、または二人目の母とも呼べる存在に、私はすごく安心感を覚える。
「ごめんなさい。でも、あなたが下界に降臨されるなんて、そんな珍しい事も、いえ、それ程の事がこれから起こるという事なのかな」
ゆらゆらと揺らめく銀の輝きが、なんとなく楽しそうだと感じた。
「まだ確定してはいない。けれど、そのように思ってもらって結構よ。でもね、今日は堪えきれずに一足先にあなたに会いに来たのよ」
一際また楽しそうに揺らめいた。
「私も会えて嬉しいよ。女神になってからは全然会えなかったし」
そう。神となってから彼女達と会うことはなかった。それはもう見捨てられたのかと思えるほどに。
「私も世界樹も、あなたを見捨てたりなんてしてませんよ。それに、あの四大もね。ただ、あなたの成長を離れて見守っていただけ。あなたの為にね」
こうして目の前に現れたという事は、離れて見守る必要がなくなった、って事なのかな。
「近いうちに主と降臨するわ。それまでは秘密にしておいてね。うっかりバレてしまうと、それこそ本当に大事になりそうだから、お願いよ」
「だから私以外の時を止めたんだ。なんでなのかなって思ったけど、そういうことだったのか」
また楽しそうに揺れた。
「なんかドキドキするし、秘密ってなんかいいでしょう。あなたの側に居ると本当に心から楽しく思えるわ」
「なら、側に居ればいいのに。でも、あなたの立場的にそうもいかないか。もうあの頃とは違うもんね」
「そうね。あの原初の頃ならばいざ知らず、神々が増えた今ではそうもいかなかった。でもそれも、あなたに要らぬ危害が及ばぬようにとの配慮でしたが、その憂いも近くなくなるわ」
どうやら本当に何かとてつもない事が起ころうとしている。
私は悠太くんを守れるのだろうか。
「大丈夫。あなたの伴侶も、あなたも、今度こそ必ず乗り越えられる。その為に私たちは入念に準備してきたのだから」
そっか、そうだよね。
「そうよ。でもね、全てを思い出すのはまだ早いわ。だから今、私が消えた後にあなたはまた忘れてしまうけれど、それでも私はあなたに会いたかった。私の大切な唯一の愛し子よ。あなたに私の絶大な加護を、そして絶対無敵の幸運をまた授けるわ」
暖かい銀の輝きに全身が包まれると、私の全身に何か強大な力が張り巡る。
そして、その銀の輝きが消えると時がまた静かに動き出した。
◇
「女王、女王よ、如何されましたか!」
気が動転したようなアンジュが、必死に私の肩を掴み問いかけていた。
「あ、えっ、ああぁ、大丈夫よ、アンジュ」
「本当に大丈夫なのですか。それに女王の力が急激に増したような気がするのですが、何かあったのですか」
力が増した?
え、何もないでしょ。それにあなたと二人で話してただけだし。でも誰かと会ってたような気もする……
「そうなのですが、突然そんな強大な神威を解放されたら誰だって驚きます。慌てて皆で隠すのが大変だったのですよ」
え、どういう事なのかな。
彼女の言っている事が理解ができない……
「ですから話の途中で、いきなりブワッと神威が」
冷静沈着な彼女にしては珍しく、手振り身振りを添えて話していた。
なんかその姿がとてもおかしくて、私はつい笑ってしまった。
「アンジュ、らしくないわよ、そんなに興奮するなんて」
「じょ、女王、笑うところではありませんよ。私がどんなに心配したと思っているのですか!」
「あっはは、アンジュでも悠太くん以外を心配する事もあるのね。それもそんなに取り乱して」
みるみるうちに彼女の顔が赤くなっていく。そしてついには常のサイズに戻り、顔を背けて私の目の前で宙を浮いていた。
「もう知りません。女王の事なんて金輪際心配しませんから」
「もう、そんなに怒らないでよ。ほんと、らしくないわよ」
「なんでもないのならいいです。それに今は落ち着いているようですし」
顔を背けたまま彼女はそう言った。
うん、まだかなり不貞腐れてるよ。
「だから、ごめんね。もう揶揄わないから許して。それに急に訳の分からない事を言われても困るでしょ」
「ふん。急に訳の分からない事が起こったのはコッチの方ですから」
彼女がらしくもなく顔を背けたまま鼻を鳴らして悪態をついていた。
それ程までに私を心配してくれたのだろう。そんな彼女に心の中で感謝した。
「それで悠太くんの事はもういいのかな」
「ええ、今更女王に文句を言ったところで悠太様が変わる訳もありませんし、女王のお心の内が知れた事で皆も納得してくれると思いますから」
そう、なら良かったわ。
でも何かを、とても大切な何かを思い出したような気がする。けれど何も……
こんなスッキリしない思いを悠太くんもしているのかなぁ。
明日からはもっと悠太くんに寄り添って彼の助けになれるようにしないと。
ああぁ、星が綺麗……
でも、悠太くんの方が素敵に輝いているけどね、うふふふ。
「女王、鼻の下が伸び切ってますよ」
去り際に彼女は呆れたようにそう言って消えた。
まぁ、しょうがない。自然とそうなってしまうのだから仕方がない。
私はそれからもしばらく星を眺めた後、自室に戻って眠りについた。
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