邪神様に恋をして

そらまめ

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新婚編

邪神様、きっと、大丈夫

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 フレイは準備があるからと、七日後にあの場所へ向かうことに決めた。
 そして寝る前に、どうしても彼女たちと話をしたくて、外に出て呼び出した。

「アンジュ、シェリー、ウェンリィ、マナリア、フレア、メア、いるか」

 はい、と全員が声を揃えて俺の前に現れた。
 皆、なぜか年頃バージョンだったが、まあ、由としよう。

「どうして、俺が溺れた時に何もしなかった。あそこに何があるのか、お前たちは知っていたからだろう」

 皆、真剣な表情で口を閉ざして何も答えなかった。

「俺には言えない事なのか。たぶん、その方が俺にとっては良いということか」
「今は何も言えません。ここから先は悠太様ご自身で知るべきことだと」

 アンジュが真っ直ぐに俺の目を見て、そう言った。
 ただ、彼女の両拳が強く握られ小さく揺れていた。
 そうか、お前たちも我慢してるんだな。

「わかった、ならもう聞かない。それと今回は俺についてくるな。何が起こるか分からないし、そんな危険な所に大切な友人を連れて行く訳にはいかないからな」
「それは出来ません。わたし達は常に王と共にあるのです。ましてや、あなた様を一人で死地に向かわせる事などできません」

 そうか、やっぱり危ない場所なんだな。
 俺の勘も満更ではないな。

「なら、一つだけ約束してくれ。お前たち全員が死なないと。そして誰一人欠けることなく一緒に戻ってくると」
「我が親愛なる王よ。わたし達はあなた様の命を護る為ならば躊躇なく、この命を捨てるでしょう。ですから、その約束は出来ません」

 皆が真剣に俺から目を背けることはなかった。
 いつもの陽気な彼女たちの姿はそこにはなかった。

「ならば、俺もお前たちの命を救うためなら、この身を犠牲にしても救うのだと覚えておいてくれ。俺は絶対にお前たちを見捨てたりしないからな」

 彼女たちは全員が片膝をつくと、胸に手を当てて頭を下げ、はい、と短く静かに答えた。
 初めて彼女たちのそんな姿を目にして少し戸惑ったが、これも彼女たちなりの誠意なのだと理解した。
 この世界に来てから、いつも俺から離れずに守ってきた彼女たちにあらためて俺は感謝の言葉を口にだした。

 俺は彼女たち一人一人に、片膝をついて視線の高さを合わせ、嘘偽りのない、その感謝の気持ちを伝えた。

 ヒルデ達にも行く前に、ちゃんと挨拶しないとな。心配しないように、ちゃんとな。



 ◇



 明日にはフレイとあの場所へ向かう。
 そしてまだ一人だけ、ちゃんと話をしていないロータをヴェールの街に連れ出し、出会った頃みたいに一緒に広場の屋台巡りをしていた。

「なんだ、屋台じゃ不満だったか」
「いえ、そんなことは」
「そっか。でも懐かしいよな。ロータと出会った頃はこうしてベンチに座って串焼きとエール片手に遊んでたんだよな」
「まだ二年くらいしか経ってません。そんな変な事は言わないでください」

 彼女は串焼きを口にしながら、うつむいた。
 親友でもあるからな。俺の心の機微には敏感なんだろうな。

「なんだよロータ、置いてかれるから不貞腐れてるのか。ひょっとしてまだ専属護衛のつもりなのか。ほんと、仕事熱心だな」

 ロータはうつむいたまま、顔だけを俺に向けて悔しそうに睨んだ。

「茶化さないでください。どうして、私に一緒に来いと言ってくれないのですか。なんでなのですか、そんなに私はあなたの力にはなれないのですか。そんなに私を信用できないのですか。どうしてなのですか」

 ロータは俺に向き直り、両手で俺の膝の上に手を置いて、一気に気持ちを吐き出し、俺の返事を待たずにまたうつむいた。
 そんな彼女の手に、俺は自身の手を重ねた。

「ロータ、なんで気付いた。やっぱり俺は怯えていたのかな。ロータに気付かれてしまうくらいにさ」

 彼女はうつむいたまま、ただ頭を振った。
 俺はそんな彼女を抱き寄せた。

「ロータにはマルデルの次に隠し事ができないよな。すぐにバレちゃうからな。あ、凛子と同じくらいだな。ほんと、その中では一番付き合いが短いのにさ。びっくりだよな」
「悠太様が下手なだけです」
「そうかな。それだけ俺に本気で向き合ってくれたからじゃないのか。こんな駄目な男にさ、ちゃんと真剣にさ」

 空を眺めながら、俺は初めて彼女と出会った時の事を思い出していた。
 あの屈託のない笑顔と、その性格の良さを。
 何より、この世界に来て初めて、何も飾ることもなく等身大の自分でいられた嬉しさを。

「いつもいつも、俺のわがままや無理難題にばかり付き合わせてきて、ごめんな。ロータにはたくさん感謝してるよ」
「なら、なんで今回はそうしてくれないのですか」

 ロータは顔を上げて、訴えかけるように小さな声でそう尋ねてきた。
 その問いになんて答えればいいのか、なんて答えたら彼女が心を痛めずに済むのか考えたが、上手い答えは見つからなかった。

「俺のわがままなんだ、たぶん。俺の事でロータにも、誰にも傷ついて欲しくないだけなんだ」

 彼女の目を見て、そう答えるのが精一杯だった。
 彼女は俺の腰に回した腕で強く抱きしめてくれた。

「私は悠太様が傷つく姿には、もう耐えられません。だから、ちゃんと無事に帰ってきてください」

 ロータは掠れた声で、泣くのを堪えながら、俺の胸に顔を埋めながら、そう言ってくれた。

「うん、約束するよ」

 彼女の頭を撫でながら約束を交わした。
 守れないかも、と思いながらも嘘がバレないように穏やかな口調で約束すると口にした。


 きっと、大丈夫だよな。
 俺はあらためてまた空を見上げ、自身に言い聞かせた。
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