邪神様に恋をして

そらまめ

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新婚編

邪神様、竜魔族の里に行きます

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 竜魔族は竜になった姿で俺と凛子を彼の住まう島まで運んでくれた。速い、それに圧巻の光景だった。
 凛子はかなりテンションが上がっていたが、それも彼の島を目にするまでの僅かな時だった。
 俺達が目にしたものは暗雲で覆われた不気味な島だったのだ。いかにもな、島だった。


「着いたぞ、ここが我らの里だ」

 里に降り立った竜魔族の彼は俺達を降ろしてくれた。
 上空からでも分かっていたが、あらためて周りを見渡すが、大地は一面荒れ果て、草木一本生えてはいなかった。
 やはり、この暗雲のせいで日の光が影ってしまうからなのだろうか。昼間だというのに薄暗い。

「ありがとう。おかげで快適な空の旅だったよ」

 凛子と二人でお礼を言った。
 さっそく、里の周りだけでもと思い豊穣の加護を精霊に願った。

「精霊よ、王の帰還を祝福せよ!」

 なぜか少し効果が弱かった。大地に草花が芽吹くのがまばらなのだ。

「やはり、この土地はもう駄目なのかもしれんな」

 竜魔族の彼は悲しそうにそう呟いた。
 そんな時に里から子供達が元気よく走ってきた。
 どうやら、大地の草花が芽吹いたことで喜んで出てきみたいだった。

「族長、すごいね! この人達がしてくれたの!」

 子供達が賑やかに俺と凛子を取り囲んで、笑顔でお礼をしてくれた。
 けれど、効果が弱かったこともあり複雑な気持ちだった。

「我が家に案内しよう」

 途中、里の様子をうかがったが、質素な家屋が並び、その生活ぶりもあまり裕福そうではなく、むしろ貧しい里にしか思えなかった。

「最強の魔族なのに質素な生活なんだな」
「あはは、要らぬ気を使うな。ここは貧しい里なのだ」

 そう言って彼はある方向を指差した。

「あそこに冥府と繋がる場所がある。もとはヘカテー様の神殿があった所だ。だが、大戦おおいくさの際に、あの神殿からハデスが世界を冥府へ飲み込もうとしたのだ。ヘカテー様と我らの先代達、そして戦乙女率いる精霊と人間達とで、それを阻止するためにハデスと戦った。それは当時でも一番の凄まじい激戦だったと伝えられている。我々はなんとかハデスを退け、ヘカテー様はあの場所を閉じることに成功した。しかし、勝利したとはいえ、ヘカテー様は全ての眷属を失い、我々竜魔族も半数以上を失った。けれど、戦乙女達が率いた軍はもっと被害が大きかった。彼女彼等は常に先頭に立ち、我々を鼓舞し戦線を勇猛果敢に戦い駆け抜けたからだ。やがて決戦の時を迎え、不利な戦況を覆すために戦乙女が率いる中で、いや、当代一最強の勇者が自らの命と引き換えにハデスを退け、なんとか勝利する事ができた」

 彼の心痛な面差しで語られた事は、当時を知らない俺でも慮ることができた。
 何より、あのワルキューレが苦戦を強いられたのだ。かなり凄惨な状況だったのだろう。

「そして今、閉じた結界が弱まってきている。それをヘカテー様に知らせた帰りに、悠太殿の奇跡を目にして声を掛けたのだ。もしかしたら、この地を蘇らせてくれるかもとな」

「そうか、そうだったのか。でも、俺と会った場所と、この島とは方向が違うだろ」

「我々の先代が邪神、いや、女神マルデルの戦乙女とその勇者に救われたのだ。近くにいるとヘカテー様より聞いてな。一言でもお礼をしたいと思っていたのだが、悠太殿のおかげで機会を逸してしまった」

 まあ、あの時はそんなのは言える状況じゃなかったよな。
 なんか色々と悪い事したな。

「それで、ヘカテーは結界についてなんて言ってたの」

 凛子が急に口を挟んできた。しかも、やや怒っている。

「近いうちに来てくださるそうだ。ヘカテー様も事の重大さは分かっているのだ。そう憤慨するでない」
「そう、ならいいわ。けれど、わたしは怒っていないから」

 いやいや、どこから見ても怒ってたでしょう。

「そうか、すまぬな。とりあえず家の中で少し休もうではないか。ここで立ち話も失礼だからな」

 うん、余裕を感じさせる大人の対応だ。
 横目で凛子を見ると、まだ憮然としていた。よっぽどヘカテーに怒り心頭らしい。

 そして俺達は彼の家で落ち着いて色々な話をした。


 ◇


 次の日、凛子と二人で島の南にある人間の集落へ向かっていた。
 そこに住む人は大戦時に戦った人達の子孫で、中には竜魔族と血の混じった者もいるとも聞いた。

 久々の馬での移動はお尻が痛かった。しかも、凛子と二人乗りなのだから余計だ。それもこれも、一緒に乗ると凛子が駄々を捏ねたせいだ。

「馬で二、三日ということは野営するのね。うふふ、佐藤くん、今夜は私の手料理をご馳走するね」
「お、久しぶりで懐かしいな。おう、楽しみにしてるよ」

 凛子の手料理なんて、日本にいた時以来だな。なんか嬉しいなあ。凛子の料理は美味しいしな。
 というか、俺にとって凛子の味が母の味だからな。
 そう考えると、俺は幼少の頃から凛子に手懐けられてきたという事になるのか。ま、まさかな。

「もうしばらく進んだら野営にしような。お尻は痛くないか、大丈夫か」
「もう、佐藤くんのエッチ」

 いや、その発想がでる方がエッチだろ。
 しかも俺の前でお姫様乗りしてるやつのセリフか。
 まあ、俺としては凛子のお尻の感触はご褒美だけどさ。


 野営に適した場所を見つけて、俺は小屋を取り出して設置すると焚き火の準備をした。
 凛子はテキパキと料理をしていて、俺はその懐かしい後ろ姿に魅入っていた。

 ああ、なんかほんとに懐かしい。
 またこんな日が来るなんて思いもしてなかったから、すごく感慨深いよな。

「佐藤くんは先にお風呂に入ってきてよ」
「おう、じゃあお先するな」

 なんかこのくだりも懐かしいな。テンション上がるな。
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