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第二章 新生活、はじめるよ!

予知、不吉な予感

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 嫌な予感がして、私はベッドから飛び起きた。
 レンジ傍に見知らぬ美少女の影が映ったからだ。
 なぜ影なのに美少女だと分かったか、それは一万年に一人の美少女スーパーアイドルの勘によるもの。

 私の勘は外れない。事、レンジに関しては尚更。

「いや、今回に関しては外れて欲しいけど。寧ろ外れろ、外れてください」

 私は頭を抱えてベッドの上を激しく転がる。

「ご乱心! リィーナ様がご乱心しました!」

 私の世話を甲斐甲斐しくしくれているエーたんが天幕の入口で叫んだ。

 その叫びを聞いて、慌ただしい足音が地響きとなって伝わる。
 刹那にワルキューレ達に天幕を囲まれたことに私は気づく。

「エイル、リィーナ様は!」
「狂ったように頭を抱えて転げ回っています!」

 ルージュの問いかけにエイルが大袈裟に答えた。

「ついに恐れていたことが……」
「あまりの寂しさに気が触れたのかもしれません」
「ストーカー。いや、チェイサーが対象を見失ってしまったのです。それも致し方がないかと」

 ルージュとエイルの会話に酷い物言いをするスーたんが加わる。

「このままではあれです。世界が破壊されてしまいますよ。私たちは取り返しのつかない失態から、新たな破壊神を生み出し誕生させてしまったんですよ!」

 どうしましょうと頭を抱えてロータはウロウロとベッドの周りを走りまわる。

 そんな皆が取り乱して収拾のつかなそうな状況下、私は動きをピタリと止めて、スクッと立ち上がった。
 そしてまずウロウロと走りまわるロータの頭を鷲掴みにして持ち上げた。

「これはなんの騒ぎ?」

 皆素早く私に何故か傅いた。

「怒りよ、鎮まりたまえ。アーメン」

 ロータが胸の辺りで手を合わせ祈った。

「アーメンって、あんたキリスト教じゃないでしょうが!」
「あ、バレました?」
「バレるわよ!」

 しょうもない小芝居に付き合わされた怒りで、そのままロータを天幕の入口に向けて勢いよく投げ飛ばした。
 そこへ真っ青な顔をしたセーたんが天幕に飛び込んできた。

「リィーナ様が、リィーナ様が、破壊神になってしまわれたって、本当ですか!」

 この中でいちばんまともだと信頼していたセーたんの叫びに私は思わずベッドの上で片膝をつく。両手に血の滲むような拳を握って。

「ええ、今まさにロータが犠牲となり女神様のもとへ」
「荒ぶれるリィーナ様を一刻も早く、その怒りを皆で鎮めるのです!」

 スーたん、ルーたんと酷いことを続けて言う。

「お待ちください! ここはレンジ様が最後に履いていたパンツを!」

 おおおー、と、みんながその捧げものに感嘆している。
 というか、なんで犠牲となったロータが生きていて、しかもレンジの使用済みパンツを持ってるのよ。

 私がそんなことを思っているにもかかわらず、みんな両手を上げて何度も頭を下げている。

 しかもしかも、ちゃっかりレンジの使用済みパンツをベッドの上に捧げて。
 その異様な光景に喉を小さく鳴らし唾を飲む。

 私は、わなわなと怒りで震える中、ゆっくりと手を伸ばしレンジの使用済みパンツを手に取る。そして素早くスカートのポケットに仕舞い込んだ。

「な、なんで! あんた達がレンジのパンツを持ってるのよ! 
 しかも居なくなってからどれくらい経つと思ってんのよ!
 ねえ、あなた達はどうしようもないほどの変態だよ、がっかりだよ!」

 私は魂からの叫びをあげた。
 これがこの世界の神官たちのする行いなのかと諭すためにも。

「でも、しっかり素早くポケットの中にしまいましたよね」 
「ええ、あれほどのスピード。私たち女神様にお使えする純心な神官でなければ見逃してしまうほどの素早さで」
「なんか一瞬、匂いを嗅いでいたような……」

 その尾ひれはひれついた物言いに堪忍袋の尾が切れた。

「嗅いでないよ! あんた達と一緒にすんな!」

 私はみんなを蔦で絡めとり宙にぶら下げた。そして最後に馬鹿な事を付け加えたロータをさらにキツく蔦で締めあげた。

「おやめください! こんな辱めを受けたら私たちは、あっああああー!」
「ああああー! 私の純潔の危機がー!」

 至る所からそんな棒読みの似たような叫び声があがる。

 どうやら私はまんまと彼女達にハメられたらしい。

「誰よ、こんな小芝居考えたの」

 私は今でも叫んでいる彼女達を見上げて問い掛けた。
 すると全員が離れた場所にいるローゼンを見る。それに気づいた彼女は愛想笑いを浮かべてゆっくりと後ずさる。

「この変態吸血鬼が!」

 私は彼女に向けて簡易版女神の鎮魂歌を放った。
 その放たれた六色の光は渦を巻き彼女に迫り、瞬く間に彼女を飲み込んだ。ように見えた。

「そんな紛い物程度じゃ、私を倒せませんよ!」

 私の女神の鎮魂歌は彼女の手前で屈折させられて空に突き上がってしまった。
 そしてどこからともなく現れたヴァンが彼女を心配して側に駆け寄る。

「だ、大丈夫かい」
「ええ。何故かあのの制約が弱りましたからギリギリ助かりました」

 ん、あれ。彼女、いつもよりかなり力を増してるよね、なんで。なんとなく神様クラスなような気がするんだけど。

「ふふふ、私のかわいい妹。少しおいたが過ぎるわ。私がまた淑女とはなんなのかを、ちゃーんと、教えてあげないと駄目ね」

 その得体の知れない気持ち悪さにドン引きする。
 そして青薔薇の剣を抜いて、横に水平に構えた。

「そんな物騒な物を持ち出して何をするつもり」

 冷たく微笑みを浮かべて彼女は氷のハルベルトを手にし、それを肩に乗せた。

 なんとなくその状況に身の危険を感じ取る。魂の、心の奥底からそれを知らせ、逃げろとささやく。

「(お生憎様)私はフレイズ・ヴァラールの四騎士の一人。
 火を司るフレア・ヴァラール。
 勝ち逃げすることはあっても、負けて逃げるなんて無様な真似はしないから」

 何故かそんなセリフを口にする。
 そして私は初めて青薔薇の剣に真紅の炎を纏わせた。

 その私の様子にワルキューレ達から一斉に鬨の声があがる。
 その声が、私に力を与えて満たす。満たされた力が爆発したように解放され、そして私は鮮やかな真紅の炎をその身に纏った。
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