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第一章 未知なる世界でスローライフを!

不景気って嫌ですね

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 とりあえずサンライズガーデンのオーナーの話を聴こうと神殿の前を歩いているとロータがもの凄い勢いで走り寄ってきた。

「レンジ様。どちらへ」
「あなたには関係ありませんので、そのまま自分の仕事をしてください」
「ヒルドお姉様、私の仕事はレンジ様のお世話と助手なのです。関係がないなど、言わないでください!」

 ロータは目に涙を浮かべ切実な表情を見せた。
 うん、こいつかなりの演技派だな。
進む道を間違えたのではないか。

「なんか宿のオーナーが俺に話があるらしい」

 ロータは一瞬だけ首を傾げたあと、手を叩いた。

「あああ、なるほど。あの馬鹿息子、とうとう首が回らなくなりましたか」

 なにやらあの宿は代々粛々と一族で経営しているらしく、しかも神殿からも補助が出ていたらしい。
 しかし昨今の不景気で経営は右肩下がりの借金まみれ。建物の修繕費もままならない状況だそうだ。

「で、俺に買えとでも言うつもりなのか」
「おそらく」

 んー、宿屋なんて俺に経営できるのか。というか、今は牧場の事で頭がいっぱいだ。

「私にお任せください」
「ロ、ロータ! あなた仮にもここの神官長なのですよ。一個人の商談に口を挟んではいけません」
「ふっ、ヒルドお姉様。それは違いますよ。仮にもあの宿は私達神殿から補助を受けているのです。私が介入するのになんの問題がありましょうか」

 ロータ、その演技派な身振り手振りが鬱陶しいぞ。少しは抑えろ。

「レンジ様。いかがなされます」
「俺が行っても、」
「ええ、レンジ様が交渉するのは絶対に駄目です。絶対に余計にお金を払う事になりますから」

 ルージュに速攻で拒否アンド駄目出しを喰らった。

「ロータ。私達は幼少の頃よりの深い付き合いです。私はそんなあなたを今は信頼できません」
「なぜですか、お姉様。私は絶対にお役に立てます」
「役に立てるとか、立てないとかの話ではありません。レンジ様を前にした、その異常な行動に懐疑を示しているのです」
「お姉様。私はやる時はやる女です。浮かれていてもきっちり仕事はこなします」

 なんだろう。この三文芝居の熱い展開は。妙に冷める。

「わかりました。あなたに任せましょう」

 おや、ルージュ。それを決めるのは俺の役目ではないか。
 なんで勝手に決めるんだよ!

「あ、レンジ! とりあえず屋敷の外観はここの景観を崩さないようにシックに落ち着いた感じにしたから」

 なあ、リィーナ。シックに落ち着いたってどういうことだよ。
それって同じことじゃないのか。

「でね。この世界にピアノあったよ。私のポケットマネーで注文しておいたから楽しみにしててね」

 む、リィーナ。おまえ成長したな。
自腹なんてすごいぞ!

 俺はそんなリィーナの成長が嬉しくて思わずリィーナを抱きしめた。

「ちょっ、と、恥ずかしいよ」
「馬鹿やろう。おまえの成長を喜ぶことに一切恥ずかしいなんて事はないんだ。俺はおまえが成長してくれて、ほんと嬉しいよ」

 そんなリィーナの成長に涙を浮かべていると。

「お姉様。なんで当たり前の事であんなに」
「しっ。それ以上口にしてはなりません。あなたにもすぐにその訳を理解できます」

 小声でそう話しているが、しっかり聞こえているぞ。
頼むからこの感動の場面に水を差すな。

 そして案の定、ぐだぐだな展開になった。

「おい、そこで揉めるのはやめろ。とりあえず宿に戻るぞ」


 ◇


 ロータは俺の代わりに話にいった。
そのロータが満面の笑みで勝ち誇っていた。

「金貨三千枚をお預かりしましたが、金貨一千枚をレンジ様にお返しします」

 この宿を買うなら最低金貨三千枚は必要だろうという事でロータに渡しておいたのだがお釣りが返ってきた。

「今日この時より、このサンライズガーデンはレンジ様の物となりました、パチパチパチ。
 交渉の結果、従業員の雇用はそのままで賃金未払い分も既に支払いました。
 なんの憂い、は少しありますが、この権利証をお納めください」

 おい、少しあるその憂いってなんだよ。ちゃんと説明しろ。

「えっと、その、あれです。建物の修繕費に金貨三百枚ほど掛かりそうな感じで。テヘッ」

 テヘッ、じゃねぇよ。なんだその修繕費って。なんでそんな高額なんだよ。

「古き物にはお金が掛かるものです。それをコツコツと直して維持していくものです。端的に言うと、コツコツしなかったからではないでしょうか」
「なんで一々そんなまわりくどい説明するんだよ。あれか、おまえにはそう話すことしか出来ないのか。あああ、それならおまえは俺が思っている以上にあほなんだな。がっかりだよ、ロータには」

 建物の修繕か。どのくらいの規模なんだ。
 やるなら宿を休業してでも一気にやった方がいいよな。
 とりあえず嘘泣きしているロータは無視だ。当分、あいつとは口はきかん。


「まだ夕食には早いな。ちょっと出掛けてくる」

 俺はそう言ってポプラの街に今日何度目かの転移をした。
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