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5.再会-3 ※

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 何かを確かめるように、芦原の両方の掌が渡瀬の胸元を滑っていった。そんな風に触ったところで、女性のような柔らかみが存在しないことは知っているだろうに。
 しかし、くるくると乳輪の周りの際どい場所を撫でられると、理性を無視しはじめた欲望が、渡瀬の中で微かにその瞼を引き上げているのがわかった。

「……っん、…ぁ」

 思わず上げた声は、自分のものだと思いたくなかった。もしくは、記憶の録音。そんなものがあるのだったら、まさに今流れているものはそれを再生したものに過ぎない。渡瀬は苦々しく吐息を漏らした。

「ミキ……」

 呼びかけに、目を閉じたまま首を振った。
 咎めるように。むしろ渡瀬の反応を諌めるように、両胸の突起を摘まれた。

「あぁ…!、ん、ん……」

 思わず喘いでしまった。羞恥が、背徳的な快感へと、どんどん変貌していくのがわかった。
 やがて、芦原による確認作業は全身へと移行したようだった。右手で緩く性器を擦られ、反対の手では、渡瀬の臀部を労わるように揉まれた。

「も、いいから……後ろ……」

 このままでは、大切にされている感覚に陥ってしまう。小さな恐怖を抱いた渡瀬は、早く済ませて欲しいと芦原にその先の行為を促した。
 すると、芦原の手の動きが止まった。あまり目を合わせたくなかったから、なるべく見ないようにしていた彼の表情。思わずそちらを見てしまうと、彼はラブホテルのわざとらしい照明の中、少し寂しそうに笑っていた。



 数年ぶりに受け入れた男の熱は、それまでの慎重さを模した芦原の動作と反比例するように、一気に奥まで侵入を果たした。

「……っっ、は……」

 衝撃に大きくのけぞった喉から、引き攣った呼吸が漏れた。
 抉るようにぐりぐりと押しつけられるそれに、捕食される側特有の恐れを本能的に感じてしまって、咄嗟に芦原の胸板を押し返した。

「ま、まって……」
「急かしたくせに。嘘つき」

 しかし、静止は即答で却下された。嘘つき。耳元で言われたその言葉が、渡瀬の身体を縛りつけた。
 ゆっくりと引き抜かれたかと思うと、性急に貫かれた。その動きが何度かくれ返された後、規則的な律動が始まった。
 ローションによるぬめりも相まって、圧迫感による苦痛は次々消えていった。その先に見えたのは快感の兆しだった。先ほどまでゆっくりと愛撫されていた時とは違う、もっと自分自身を見失ってしまうほどの、暴力的でたまらないもの。

「……んんぅっ」

 両方の乳首を軽くつねられると、その快感が、一気に姿を現した。
 渡瀬の身体は、ナカで感じることを知っていた。馬鹿のように貪り合っていた日々に刻まれた、忘れてしまいたい快楽。しかし、決して忘れてはいなかったのだ。意識を快楽に乗っ取られる寸前に頭をかすめたのは、その事実だった。
 突かれるごとに、鼓動と呼吸が乱れた。溺れる、と思った。息を吸わなければ。ああ、息の吸い方ってどうするんだっけ。そうか、この快感に身をゆだねてしまえばいいのか。

「あ、ああぁっ、…」
「っ、ミキ、気持ちい?」
「うん、……ぁん、い、いい…イイっ」

 働かない頭。それと引き換えに、体内では行き場のない熱がどんどん大きくなっていった。
 助けて。
 そんなことは絶対に思っていなかったのに、それがたった一つの残された理性とでもいうかのように、目の前の男に縋り続けた。

『……何でこんなことになったんだっけ』
『こいつ、彼女いるんじゃないのか』
『ていうか、俺も浮気だ、これ』

 現実的な言葉たちが、他人事のように、まるで映画のエンドロールを眺めているかのように、脳裏に浮かんでは消えた。
 ふと、見上げた天井の灯りがぼやけていて、その時になってようやく自分が泣いているのだと気がついた。
 その理由は、今もわからない。
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