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ガトーオペラ 3
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◇
久し振りにぐっすりと眠った気がする。
目が覚めたとき、いやに空気が冷たいと思って時計を見たら、午前6時をさしていて思わず二度見した。
わたしときたら、いつアヤが帰ったかも知らないで眠っていたのだ。お風呂にも入っていない。服も、昨日のままだ。
それどころか、夕食も用意していない。いや、この時間ならば用意するべきは朝食か。
慌てて起き上がるわたしの隣で、パジャマ姿の葛志が寝返りを打って薄目を開ける。
わたしを認めると、ひとつあくびをした。
「やっと起きたか」
「く……葛志、ごめん……起こしてくれたらよかったのに」
びくびくしながら謝ると、葛志はめんどくさそうに頭を掻く。
「いつもならちょっとの物音でも起きるのに、おまえ俺が帰ってきても気づかずに寝てたからさ。そんなの、新婚以来だろ? いや、新婚のときもあったか覚えてねぇけど。睡眠薬効いたのかと思って、それなら起こすのもあれだしさ。それよりおまえ、玄関の鍵かかってなかったぞ」
「あ……ごめん」
たぶんそれは、アヤが出て行ったからだろう。
アヤがうちの鍵を持っているはずもない。
気遣ってくれた葛志には感謝するけれど、アヤのことを思うと胸が熱くなる。
そんなわたしの心中も知らずに、葛志はのんびりとまた寝返りを打ってわたしに背を向ける。
「夕飯ならまた外に出て友達と食べたから、心配すんな。起きたんなら朝飯さえ作ってくれればいいから」
「うん」
「俺、まだ寝るから静かにしててくれよな」
「うん、おやすみ」
わたしはアヤのことで頭がいっぱいで、半ば上の空の返事だったけれど、葛志はそのことには気づかないようで、またすぐに寝息を立てはじめる。
ダイニングに行って、テーブルの上になにもないことに気がついた。
ガトーオペラを乗せたお皿がふたつ、出しっぱなしにしてあったはずなのに。
キッチンに行ってみると、ココアを入れたふたつのマグカップはきれいに洗われていて、食器棚におさまっている。
もしやと思って冷蔵庫を開けてみると、中にケーキ箱が入っていた。
ケーキ箱を開いてみれば、中には二つのガトーオペラ。
これも洗われたマグカップも、アヤの仕業だろう。家事にはとことん雑な葛志が、こんなことをするはずがない。
葛志に不審に思われないようにと、アヤが気遣ってくれたのだろう。なんて、濃(こま)やかな人。
わたしは自然と笑顔になって、冷蔵庫から朝食のための食材を取り出しはじめた。
久し振りにぐっすりと眠った気がする。
目が覚めたとき、いやに空気が冷たいと思って時計を見たら、午前6時をさしていて思わず二度見した。
わたしときたら、いつアヤが帰ったかも知らないで眠っていたのだ。お風呂にも入っていない。服も、昨日のままだ。
それどころか、夕食も用意していない。いや、この時間ならば用意するべきは朝食か。
慌てて起き上がるわたしの隣で、パジャマ姿の葛志が寝返りを打って薄目を開ける。
わたしを認めると、ひとつあくびをした。
「やっと起きたか」
「く……葛志、ごめん……起こしてくれたらよかったのに」
びくびくしながら謝ると、葛志はめんどくさそうに頭を掻く。
「いつもならちょっとの物音でも起きるのに、おまえ俺が帰ってきても気づかずに寝てたからさ。そんなの、新婚以来だろ? いや、新婚のときもあったか覚えてねぇけど。睡眠薬効いたのかと思って、それなら起こすのもあれだしさ。それよりおまえ、玄関の鍵かかってなかったぞ」
「あ……ごめん」
たぶんそれは、アヤが出て行ったからだろう。
アヤがうちの鍵を持っているはずもない。
気遣ってくれた葛志には感謝するけれど、アヤのことを思うと胸が熱くなる。
そんなわたしの心中も知らずに、葛志はのんびりとまた寝返りを打ってわたしに背を向ける。
「夕飯ならまた外に出て友達と食べたから、心配すんな。起きたんなら朝飯さえ作ってくれればいいから」
「うん」
「俺、まだ寝るから静かにしててくれよな」
「うん、おやすみ」
わたしはアヤのことで頭がいっぱいで、半ば上の空の返事だったけれど、葛志はそのことには気づかないようで、またすぐに寝息を立てはじめる。
ダイニングに行って、テーブルの上になにもないことに気がついた。
ガトーオペラを乗せたお皿がふたつ、出しっぱなしにしてあったはずなのに。
キッチンに行ってみると、ココアを入れたふたつのマグカップはきれいに洗われていて、食器棚におさまっている。
もしやと思って冷蔵庫を開けてみると、中にケーキ箱が入っていた。
ケーキ箱を開いてみれば、中には二つのガトーオペラ。
これも洗われたマグカップも、アヤの仕業だろう。家事にはとことん雑な葛志が、こんなことをするはずがない。
葛志に不審に思われないようにと、アヤが気遣ってくれたのだろう。なんて、濃(こま)やかな人。
わたしは自然と笑顔になって、冷蔵庫から朝食のための食材を取り出しはじめた。
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