蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ

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ひとりめ

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 その翌朝、学校中が大騒ぎになった。使われていない旧校舎、その技術室で他校の生徒が舌を噛んで死んでいたのである。
 乱闘の痕跡もあったため、どうやら他殺の疑いもあるらしい。

 その日は生徒達も興奮状態にあったため、急遽短縮授業に変更された。
 放課後の部活動、文化祭の用意なども中止になり、すみやかに下校せよと放送で指示があった。

「幡多、ちょっと」

 下駄箱で靴を履きかえようとしていた結珂は、追いかけてきた坂本に呼びかけられた。

「どうしたの?」

 また、閏のことで何かあったのだろうか。靴を下駄箱に戻した結珂に、坂本は歩み寄ってくる。小声で耳打ちした。

「技術室で死んでたの、賀久の仲間だぜ」
「えっ……」
「この前、帰りにお前の手を掴んだヤツ、ほら、両耳にずらっとピアスした金髪の」
「し、知ってる。覚えてる」

 知らず声が震えてしまう。

「あいつ高村(たかむら)って名前なんだけど、そいつだった。見てきたから間違いない」
「見 ─── 見てきたって」

 よく平気なものだ。

「警察が話してる内容聞いてたら、なんか気になっちまったんだ。でもまさか高村だとはなあ ─── 」
「なっなんであの人がこの学校で」
「誰かに呼び出されたんじゃないかって警察が言ってたけど、だとしたら知り合いに殺されたんだろうって」
「まさか……この学校の人間?」
「可能性は高いんじゃないか」

 坂本は淡々と言う。
 青冷めてしまった結珂に気付き、ちょっと微笑んでみせた。

「送ってくよ。紅茶、またおごってやろうか?」
「 ────── 」

 思わずうなずきかけて、結珂はじろりと坂本を見上げる。つんとして戻した靴をまた取り上げた。

「いい、誤解されるから。それに昨日みたいなこと言うのやめて」
「昨日って?」
「人に彼女ってウソ紹介するの」
「でもお前、赤くなってたぜ」
「うそばっか!」

 ちなみに嘘ではないのだが、結珂には自覚がない。靴を履いてとっとと校庭に出ていくのを坂本が追っていく。
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