18 / 32
イブまで待って
しおりを挟む
結木邸に帰ってしばらく待っていると、やがて椛さんが帰ってきた。
「ただいま、りんごちゃん。いい子にしてた?」
「社長、おかえりなさい。子供じゃないんですから、その言い方はやめませんか?」
「ごめん。りんごちゃんが、あんまりかわいいから」
そう言って椛さんは、わたしを抱きしめて……キスをくれる。
その形のいい唇が、わたしの首筋に移って──チクッと甘い痺れが走った。
「っ……、社長……今朝、キスマーク……つけたでしょう」
「ばれた?」
くすくすと、わたしの耳元で悪戯っ子のように笑う椛さん。
「服を着ていれば見えない場所にしたんだし、問題ないよね?」
にこにことそう言われて、ドキッとした。
静夜とのことを、見透かされているようで。
そんなはずは、ないのに。
慌ててわたしは椛さんから離れて、部屋の冷蔵庫に入れておいたケーキ箱を取り出す。
「なにを買うか迷ったんですけど、……これにしました」
「ケーキだけ?」
「はい」
内心ハラハラしていたけれど、椛さんはそれほど疑問に思わなかったようだ。
「靴とか洋服とか、アクセサリーとか。そういうものも買ってよかったのに」
セレブな人たちは、買い物といったらそういうものをためらいなく買うんだろうけど……。
「たいてい椛さんが最初にそろえてくれましたし、これ以上はいりません」
「りんごちゃんて、物欲ないね。……へえ」
ケーキ箱の中を覗いていた椛さんは、例のカードを開いて微笑みを浮かべる。
「このメッセージ見て、このケーキ買ったんだ?」
「い、いえ……べ、べつにそんなんじゃ、」
用意していた言い訳を口にしようとしたとたん、ぎゅっと抱きすくめられた。
「かわいいね、りんごちゃん」
「で、ですからそんな、」
「りんごちゃんはぼくのことが好きなの?」
突然核心に迫られて、心臓が大きくはねあがる。
こんなの……こんなの、予想外だよ──!
ばれたらまずい、椛さんに引かれる。
その一心で、激しく動揺していたこともあり、大きな声で叫んでしまった。
「そ、そんなわけないですっ……!」
あ……さ、さすがに……いまのは言い過ぎ、かもしれない。
ミナシロさんたちのことを考えると、椛さんてかなりモテるようだし。
実際椛さんて、かなり魅力的だし……いまの言い方って、へたしたら椛さんのことを傷つけてしまったかも。
だから、言い足した。
「……まだ、出逢って数日、ですし……恋に落ちるには、短すぎます」
ゆっくりと、椛さんの身体がわたしから離れる。
「それもそうだよね」
椛さんは、いつもの穏やかな笑顔で……わたしは、ほっとした。
「でもぼくたち、恋人同士じゃなくて……もう夫婦だよね。それでもご利益、あるのかな?」
「あ……」
しまった!
そのこと、ぜんぜん考えてなかった!
「つ、つい恋人気分で……」
って。
「あ、でも別に社長のことが好きってわけじゃ……」
あ、この言い方じゃまずいんだった!
「で、出逢ってまもないですし……あ、あの……」
ああもう、パニック状態で頭の中も言っていることもめちゃくちゃ。
「りんごちゃん、顔が真っ赤」
だけど、椛さんが楽しそうに笑ってくれたから、まあ……いいかな。
そして夕食のあと、部屋でふたりで一緒にハート型のチョコレートケーキを食べた。
さすが有名洋菓子店なだけあって、味わいが違う。
といっても、ケーキなんてめったなことでしか食べてこなかったから、他のお店のケーキとの違いもろくにわからないけれど、……でも、そんなわたしでも、このケーキは特別なものなんだなとわかるくらい。
とにかく、おいしい。
それに尽きる。
「食べることは生きること、か」
ぽつり、幸せな気分で笑顔になりながら、ケーキを食べるわたしを見つめながら椛さんが、ふとつぶやく。
「そうです、食べることは生きることです!」
あたたかい気持ちになりながらそう答えてから、ん? と思った。
確かにそれってわたしの口癖だけれど、椛さんの前でその言葉……口にしたことがあったかな?
うーん、記憶にない、けど……食事をしているときに、無意識に口にしたこともあるかもしれない。
なにより、そんなに珍しい言葉でもないし。
「ずっと一緒にいようね」
考えているわたしに、椛さんは微笑む。
確かに、もう夫婦なんだから一生一緒にいることになるんだろうけれど。
改めて言われると、やっぱり恥ずかしい。
「はい」
それでも、そう返事をすると
「離婚なんてことにならないためにも、子作りがんばらないとね」
そうか、その問題があったんだった!
たちまち顔を熱くするわたしに、椛さんはまたくすくすと笑う。
ベッドに入るといつものように椛さんは、わたしの身体をきゅっと抱きしめてくる。
「仕事がんばってるんだけど、ハネムーン、イブからしか取れそうにないんだ」
「あ、でもイブはお休み取れるんですね」
「うん。そこは外せないでしょ」
大好きな人と、クリスマスを過ごすことができるなんて……うれしい。
耳元で、ささやかれた。
「クリスマスにハネムーンベビー。一緒にがんばろうね」
「っ……!」
あまりの台詞に、絶句。
椛さんって、椛さんって、ほんとに……っ!
かぁっと顔も身体も熱くなるわたしに、ふふっと椛さんは笑う。
「りんごちゃんの身体が火照ってると、クリスマスまで我慢できなくなりそうなんだけど」
「だっ……誰のせいですかっ……!」
「クリスマスに、責任取るよ」
にこにこ笑顔で、……絶対確信犯だ、この人っ!
あまりの恥ずかしさにわたしは椛さんの胸に顔をうずめて、表情を見られないようにする。
トクン、トクンと規則的な椛さんの鼓動。
聞いていると、安心する……。
……わたし、クリスマスに椛さんに……抱かれるんだ。
わたしがバージンじゃなかったってわかっても、……椛さん、わたしから離れないでいてくれるかな。
わたしにはもう、旦那さまは椛さんしか考えられない。
ほかに好きな人なんて、絶対できない。
椛さんと、離れたくない──。
翌日からのわたしは、神経がすり減るようだった。
なにしろ、静夜とあんなことを”した”あとで椛さんと静夜が、会社で顔を合わせたから。
いつ静夜がへたなことを言わないかと、会社では終始ハラハラしていた。
結局、椛さんも静夜もいつもどおりで、一日がわたしの取り越し苦労のまま終わるのだけれど……ほんとに心臓に、悪い。
静夜がわたしに与える仕事も、最初のときのように、OL初心者でもそんなに苦労しないようなもの。
イジメっ子の静夜だったら、もっとわたしが困るような難題を押し付けてくるかな、とも思ったのだけど
「そんなことをしておまえが失敗したら、俺や社長が困ることになるだろう?」
呆れたような、静夜の言葉。
……ごもっともです。
こんなヤツでも、椛さんのことや会社のことを、ちゃんと考えて仕事しているんだ。
そのことが、意外といえば意外だった。
土日も椛さんはやっぱり仕事に行ってしまって、わたしはそのあいだに夕方になってから、静夜のマンションに行く。
そして、裸になったわたしを静夜がスケッチをする。
途中から静夜はスケッチからキャンバスへと変えて、本格的に絵を完成させにかかった。
キャンバスに変わってからは、もう裸にならなくてもいいかな、と思ったのだけど
「なに甘いこと言ってるんだ。色を見るために必要だ」
そう言われて、仕方なくまた服を脱ぐわたし。
色って……ほとんど肌色だけだと思うのに。
静夜に裸を見られても、椛さんに裸を見られたときのような恥ずかしさは、ない。
恥ずかしいことは恥ずかしいけれど、なんというか……恥ずかしさの、種類が違う。
うまくは、言えないけれど。
それが、わたしの静夜と椛さんに対しての、気持ちの違いだと思う。
12月も後半に入るころ、椛さんはベッドの中で、眠そうにわたしを抱きしめながら尋ねてきた。
「ハネムーン、どこに行きたいか決まった?」
もちろん、わたしはそのことも考えていた。
「イブから、ですよね? ハネムーン休暇」
「うん」
事前に聞いてみると、わたしの休暇もおなじ時期におなじだけとってくれてあるらしい。
まあ、ハネムーンなんだし当たり前なんだけれど。
「……わたし、イブは……、というか初夜、は……社長とのこの部屋で過ごしたい、です」
恥ずかしいことを言っているのは、じゅうぶんわかっている。
だから、顔がものすごく熱くなる。
「どこかへ一緒に行くのもいいかなって思ったんですけど、わたしと社長って、出逢って結婚して、まだ日が浅いですよね? だからなおさら、社長との時間を大切にしたくて。社長の香りのする、この部屋で……初夜、過ごしたいです」
恥ずかしい。
ほんとに恥ずかしい。
でも、……これが、わたしの素直な気持ち。
いまわたしが椛さんに言える、せいいっぱい。
カンのいい椛さんなら、わたしが椛さんのことを好きなんだって……この、いまのわたしの言葉だけでもしかしたら、わかってしまったかもしれない。
どうか悟られませんように、と祈っていると、椛さんはますますわたしの身体を強く抱きしめてきた。
「……どうしてそんなこと、言うかな」
椛さんのその言葉に、ドキリとした。
わたし、なにかまずいことを言ったんだろうか。
もしかして、やっぱりわたしの気持ちに気がついて、だから椛さん、迷惑に思った……?
「あの、」
「いますぐ、抱きたくなる」
そう言って椛さんは、少しだけわたしの身体を離して、困ったように微笑んだ。
「気分、悪くしたんじゃ……」
「そうじゃないけど、困ってる」
どうしよう。
なにが椛さんを、困らせちゃったんだろう。
ハラハラするわたしをよそに、椛さんは軽いキスをわたしの唇に落とす。
「抱きたくてたまらなくて、困ってる」
も、椛さん……困ってるって、……そういう意味だったんだ。
「そ、れは……」
そんなの、わたしも困る。
わたしの身体まで、熱くなってきてしまう。
「イブまで、我慢してください……」
ちいさな声で、そう言うと
「そのかわり、イブには容赦しないからね?」
耳元にも、甘いキスを落とされた。
その言葉が恥ずかしくて、でもたまらなくうれしくて。
胸がきゅんと、甘く疼く。
苦しいくらいに。
ああ、……椛さん。
わたし、椛さんのことが、こんなに、好き。
愛おしくて、たまらない。
「ただいま、りんごちゃん。いい子にしてた?」
「社長、おかえりなさい。子供じゃないんですから、その言い方はやめませんか?」
「ごめん。りんごちゃんが、あんまりかわいいから」
そう言って椛さんは、わたしを抱きしめて……キスをくれる。
その形のいい唇が、わたしの首筋に移って──チクッと甘い痺れが走った。
「っ……、社長……今朝、キスマーク……つけたでしょう」
「ばれた?」
くすくすと、わたしの耳元で悪戯っ子のように笑う椛さん。
「服を着ていれば見えない場所にしたんだし、問題ないよね?」
にこにことそう言われて、ドキッとした。
静夜とのことを、見透かされているようで。
そんなはずは、ないのに。
慌ててわたしは椛さんから離れて、部屋の冷蔵庫に入れておいたケーキ箱を取り出す。
「なにを買うか迷ったんですけど、……これにしました」
「ケーキだけ?」
「はい」
内心ハラハラしていたけれど、椛さんはそれほど疑問に思わなかったようだ。
「靴とか洋服とか、アクセサリーとか。そういうものも買ってよかったのに」
セレブな人たちは、買い物といったらそういうものをためらいなく買うんだろうけど……。
「たいてい椛さんが最初にそろえてくれましたし、これ以上はいりません」
「りんごちゃんて、物欲ないね。……へえ」
ケーキ箱の中を覗いていた椛さんは、例のカードを開いて微笑みを浮かべる。
「このメッセージ見て、このケーキ買ったんだ?」
「い、いえ……べ、べつにそんなんじゃ、」
用意していた言い訳を口にしようとしたとたん、ぎゅっと抱きすくめられた。
「かわいいね、りんごちゃん」
「で、ですからそんな、」
「りんごちゃんはぼくのことが好きなの?」
突然核心に迫られて、心臓が大きくはねあがる。
こんなの……こんなの、予想外だよ──!
ばれたらまずい、椛さんに引かれる。
その一心で、激しく動揺していたこともあり、大きな声で叫んでしまった。
「そ、そんなわけないですっ……!」
あ……さ、さすがに……いまのは言い過ぎ、かもしれない。
ミナシロさんたちのことを考えると、椛さんてかなりモテるようだし。
実際椛さんて、かなり魅力的だし……いまの言い方って、へたしたら椛さんのことを傷つけてしまったかも。
だから、言い足した。
「……まだ、出逢って数日、ですし……恋に落ちるには、短すぎます」
ゆっくりと、椛さんの身体がわたしから離れる。
「それもそうだよね」
椛さんは、いつもの穏やかな笑顔で……わたしは、ほっとした。
「でもぼくたち、恋人同士じゃなくて……もう夫婦だよね。それでもご利益、あるのかな?」
「あ……」
しまった!
そのこと、ぜんぜん考えてなかった!
「つ、つい恋人気分で……」
って。
「あ、でも別に社長のことが好きってわけじゃ……」
あ、この言い方じゃまずいんだった!
「で、出逢ってまもないですし……あ、あの……」
ああもう、パニック状態で頭の中も言っていることもめちゃくちゃ。
「りんごちゃん、顔が真っ赤」
だけど、椛さんが楽しそうに笑ってくれたから、まあ……いいかな。
そして夕食のあと、部屋でふたりで一緒にハート型のチョコレートケーキを食べた。
さすが有名洋菓子店なだけあって、味わいが違う。
といっても、ケーキなんてめったなことでしか食べてこなかったから、他のお店のケーキとの違いもろくにわからないけれど、……でも、そんなわたしでも、このケーキは特別なものなんだなとわかるくらい。
とにかく、おいしい。
それに尽きる。
「食べることは生きること、か」
ぽつり、幸せな気分で笑顔になりながら、ケーキを食べるわたしを見つめながら椛さんが、ふとつぶやく。
「そうです、食べることは生きることです!」
あたたかい気持ちになりながらそう答えてから、ん? と思った。
確かにそれってわたしの口癖だけれど、椛さんの前でその言葉……口にしたことがあったかな?
うーん、記憶にない、けど……食事をしているときに、無意識に口にしたこともあるかもしれない。
なにより、そんなに珍しい言葉でもないし。
「ずっと一緒にいようね」
考えているわたしに、椛さんは微笑む。
確かに、もう夫婦なんだから一生一緒にいることになるんだろうけれど。
改めて言われると、やっぱり恥ずかしい。
「はい」
それでも、そう返事をすると
「離婚なんてことにならないためにも、子作りがんばらないとね」
そうか、その問題があったんだった!
たちまち顔を熱くするわたしに、椛さんはまたくすくすと笑う。
ベッドに入るといつものように椛さんは、わたしの身体をきゅっと抱きしめてくる。
「仕事がんばってるんだけど、ハネムーン、イブからしか取れそうにないんだ」
「あ、でもイブはお休み取れるんですね」
「うん。そこは外せないでしょ」
大好きな人と、クリスマスを過ごすことができるなんて……うれしい。
耳元で、ささやかれた。
「クリスマスにハネムーンベビー。一緒にがんばろうね」
「っ……!」
あまりの台詞に、絶句。
椛さんって、椛さんって、ほんとに……っ!
かぁっと顔も身体も熱くなるわたしに、ふふっと椛さんは笑う。
「りんごちゃんの身体が火照ってると、クリスマスまで我慢できなくなりそうなんだけど」
「だっ……誰のせいですかっ……!」
「クリスマスに、責任取るよ」
にこにこ笑顔で、……絶対確信犯だ、この人っ!
あまりの恥ずかしさにわたしは椛さんの胸に顔をうずめて、表情を見られないようにする。
トクン、トクンと規則的な椛さんの鼓動。
聞いていると、安心する……。
……わたし、クリスマスに椛さんに……抱かれるんだ。
わたしがバージンじゃなかったってわかっても、……椛さん、わたしから離れないでいてくれるかな。
わたしにはもう、旦那さまは椛さんしか考えられない。
ほかに好きな人なんて、絶対できない。
椛さんと、離れたくない──。
翌日からのわたしは、神経がすり減るようだった。
なにしろ、静夜とあんなことを”した”あとで椛さんと静夜が、会社で顔を合わせたから。
いつ静夜がへたなことを言わないかと、会社では終始ハラハラしていた。
結局、椛さんも静夜もいつもどおりで、一日がわたしの取り越し苦労のまま終わるのだけれど……ほんとに心臓に、悪い。
静夜がわたしに与える仕事も、最初のときのように、OL初心者でもそんなに苦労しないようなもの。
イジメっ子の静夜だったら、もっとわたしが困るような難題を押し付けてくるかな、とも思ったのだけど
「そんなことをしておまえが失敗したら、俺や社長が困ることになるだろう?」
呆れたような、静夜の言葉。
……ごもっともです。
こんなヤツでも、椛さんのことや会社のことを、ちゃんと考えて仕事しているんだ。
そのことが、意外といえば意外だった。
土日も椛さんはやっぱり仕事に行ってしまって、わたしはそのあいだに夕方になってから、静夜のマンションに行く。
そして、裸になったわたしを静夜がスケッチをする。
途中から静夜はスケッチからキャンバスへと変えて、本格的に絵を完成させにかかった。
キャンバスに変わってからは、もう裸にならなくてもいいかな、と思ったのだけど
「なに甘いこと言ってるんだ。色を見るために必要だ」
そう言われて、仕方なくまた服を脱ぐわたし。
色って……ほとんど肌色だけだと思うのに。
静夜に裸を見られても、椛さんに裸を見られたときのような恥ずかしさは、ない。
恥ずかしいことは恥ずかしいけれど、なんというか……恥ずかしさの、種類が違う。
うまくは、言えないけれど。
それが、わたしの静夜と椛さんに対しての、気持ちの違いだと思う。
12月も後半に入るころ、椛さんはベッドの中で、眠そうにわたしを抱きしめながら尋ねてきた。
「ハネムーン、どこに行きたいか決まった?」
もちろん、わたしはそのことも考えていた。
「イブから、ですよね? ハネムーン休暇」
「うん」
事前に聞いてみると、わたしの休暇もおなじ時期におなじだけとってくれてあるらしい。
まあ、ハネムーンなんだし当たり前なんだけれど。
「……わたし、イブは……、というか初夜、は……社長とのこの部屋で過ごしたい、です」
恥ずかしいことを言っているのは、じゅうぶんわかっている。
だから、顔がものすごく熱くなる。
「どこかへ一緒に行くのもいいかなって思ったんですけど、わたしと社長って、出逢って結婚して、まだ日が浅いですよね? だからなおさら、社長との時間を大切にしたくて。社長の香りのする、この部屋で……初夜、過ごしたいです」
恥ずかしい。
ほんとに恥ずかしい。
でも、……これが、わたしの素直な気持ち。
いまわたしが椛さんに言える、せいいっぱい。
カンのいい椛さんなら、わたしが椛さんのことを好きなんだって……この、いまのわたしの言葉だけでもしかしたら、わかってしまったかもしれない。
どうか悟られませんように、と祈っていると、椛さんはますますわたしの身体を強く抱きしめてきた。
「……どうしてそんなこと、言うかな」
椛さんのその言葉に、ドキリとした。
わたし、なにかまずいことを言ったんだろうか。
もしかして、やっぱりわたしの気持ちに気がついて、だから椛さん、迷惑に思った……?
「あの、」
「いますぐ、抱きたくなる」
そう言って椛さんは、少しだけわたしの身体を離して、困ったように微笑んだ。
「気分、悪くしたんじゃ……」
「そうじゃないけど、困ってる」
どうしよう。
なにが椛さんを、困らせちゃったんだろう。
ハラハラするわたしをよそに、椛さんは軽いキスをわたしの唇に落とす。
「抱きたくてたまらなくて、困ってる」
も、椛さん……困ってるって、……そういう意味だったんだ。
「そ、れは……」
そんなの、わたしも困る。
わたしの身体まで、熱くなってきてしまう。
「イブまで、我慢してください……」
ちいさな声で、そう言うと
「そのかわり、イブには容赦しないからね?」
耳元にも、甘いキスを落とされた。
その言葉が恥ずかしくて、でもたまらなくうれしくて。
胸がきゅんと、甘く疼く。
苦しいくらいに。
ああ、……椛さん。
わたし、椛さんのことが、こんなに、好き。
愛おしくて、たまらない。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる