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魔法
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わたしを家まで送る間、聖治は無言だった。
「ありがとう。ごめん、迷惑かけてばかりで」
家の門を背に、わたしは深く謝罪した。
長いつきあいの聖治に対して、本当に申し訳なかった。
今度からは、いくら谷本くんに調子を狂わされても
冷静でいるようにつとめようと思った。
「もうあいつに近づかないでほしい」
強い意志をこめた聖治の言葉に、わたしは目をみはった。
「あいつは危険だ。お前にだけは手を出さないって約束だったのに──破った。あいつはこれからどんどんお前に触れようとする。お前をもっと手に入れようとする。そんなのは耐えられない」
「谷本くんは」
思い切って、尋ねてみる。
「普通の人間と、どう違うの」
すると聖治は、苦い顔をして沈黙した。
きっと彼は谷本くんと、約束しているのだ。
秘密を誰にも話さないようにと、かたく。
案の定、聖治は別のことを口にした。
「おれとつきあわないか」
え──?
それは、わたしにはとても信じられない言葉だった。
「ど……うして?」
聞き返しながら、驚きに高鳴る胸を押さえる。
「どうして、そんなこと言うの……?」
「理由はひとつしかない。お前が好きだから」
そして聖治は告白した。
「いつからか、お前を好きだってことに気づいた。だから他の女の子ともつきあいをやめた。他の男にお前を紹介する時も『夏樹に手を出さなければ』って条件の元でだったんだぜ」
ちらりと上目遣いに微笑む。
「お前、全然気づかなかった?」
顔が赤くなるのが分かる。
こんなとき、どういう反応をすれば一番いいのかわたしは知らない。
けれどそれも聖治は分かってくれているようで、わたしの沈黙も気にしていないようだった。
真面目な顔に戻って、彼は宣言する。
「おれは決めた。悠輝と争うことになってもお前を護る。今までのようなやり方じゃなく、もっと違う方法で」
歩み寄る聖治の姿を見ても
わたしはそこから動くことができなかった。
「お前の気持ちがあいつに傾くことで、あいつは力を取り戻すことができる。それなら、おれがお前を惹きつけて、お前の気持ちをあいつからそらすことにする。お前がいなくなってしまうのなら、おれはそれくらいのことはする。それくらい、してみせる──」
不思議な台詞だった。
どうして彼は、わたしがいなくなると思うのだろう。
気がつくと、聖治の唇が頬に触れるところだった。
我に帰ったように振り仰ぐわたしに
彼は今まで見たことのない優しい笑みを見せる。
「目を閉じろよ。忘れさせてやる」
聖治の言葉には、不思議な説得力があった。
魔法をかけられたようにまぶたを閉じると
彼は唇をわたしのそれに覆いかぶせた。
一度目は軽く、二度目は押しつけるように優しく、強く。
うっとりするような甘いキスだった。
これなら本当に、谷本くんのことを忘れられると思った。
「ありがとう。ごめん、迷惑かけてばかりで」
家の門を背に、わたしは深く謝罪した。
長いつきあいの聖治に対して、本当に申し訳なかった。
今度からは、いくら谷本くんに調子を狂わされても
冷静でいるようにつとめようと思った。
「もうあいつに近づかないでほしい」
強い意志をこめた聖治の言葉に、わたしは目をみはった。
「あいつは危険だ。お前にだけは手を出さないって約束だったのに──破った。あいつはこれからどんどんお前に触れようとする。お前をもっと手に入れようとする。そんなのは耐えられない」
「谷本くんは」
思い切って、尋ねてみる。
「普通の人間と、どう違うの」
すると聖治は、苦い顔をして沈黙した。
きっと彼は谷本くんと、約束しているのだ。
秘密を誰にも話さないようにと、かたく。
案の定、聖治は別のことを口にした。
「おれとつきあわないか」
え──?
それは、わたしにはとても信じられない言葉だった。
「ど……うして?」
聞き返しながら、驚きに高鳴る胸を押さえる。
「どうして、そんなこと言うの……?」
「理由はひとつしかない。お前が好きだから」
そして聖治は告白した。
「いつからか、お前を好きだってことに気づいた。だから他の女の子ともつきあいをやめた。他の男にお前を紹介する時も『夏樹に手を出さなければ』って条件の元でだったんだぜ」
ちらりと上目遣いに微笑む。
「お前、全然気づかなかった?」
顔が赤くなるのが分かる。
こんなとき、どういう反応をすれば一番いいのかわたしは知らない。
けれどそれも聖治は分かってくれているようで、わたしの沈黙も気にしていないようだった。
真面目な顔に戻って、彼は宣言する。
「おれは決めた。悠輝と争うことになってもお前を護る。今までのようなやり方じゃなく、もっと違う方法で」
歩み寄る聖治の姿を見ても
わたしはそこから動くことができなかった。
「お前の気持ちがあいつに傾くことで、あいつは力を取り戻すことができる。それなら、おれがお前を惹きつけて、お前の気持ちをあいつからそらすことにする。お前がいなくなってしまうのなら、おれはそれくらいのことはする。それくらい、してみせる──」
不思議な台詞だった。
どうして彼は、わたしがいなくなると思うのだろう。
気がつくと、聖治の唇が頬に触れるところだった。
我に帰ったように振り仰ぐわたしに
彼は今まで見たことのない優しい笑みを見せる。
「目を閉じろよ。忘れさせてやる」
聖治の言葉には、不思議な説得力があった。
魔法をかけられたようにまぶたを閉じると
彼は唇をわたしのそれに覆いかぶせた。
一度目は軽く、二度目は押しつけるように優しく、強く。
うっとりするような甘いキスだった。
これなら本当に、谷本くんのことを忘れられると思った。
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