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あたたまりながら
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管理人室のあかりをつけると、そこは意外に広かった。
小さいながら炬燵もあり、真ん中にはストーブがある。
「どっちがいい?」
尋ねられ、少し考えて
わたしはストーブを選んだ。
炬燵は小さすぎて、ふたりならばくっついてあたる格好になる。
そんなのはいやだ。
ストーブをつけ、谷本くんが服を脱ぎ始めたのを見て
わたしはできるだけ視線をそらすようつとめた。
それでも、急いで念を押す。
「できれば、脱ぐのはせめて上だけにしてくれない?」
「上だけなら、全部脱いでもいいの?」
くすくす笑う谷本くんに、腹が立った。
どうして彼は、わたしをからかうのだろう。
わたしの気持ちを知ってか知らずか
谷本くんは折りたたみ椅子を持ってきて、わたしの傍に置く。
「どうぞお座りください、お嬢様」
かしこまった谷本くんをちらりと見ると
まぶしいほどに白い肌が目を突いて、わたしは慌ててまた目をそらし腰かけた。
谷本くんは自分の鞄から缶コーヒーを取り出すと、プルトップを開けて差し出してくる。
「もうあんまり温かくないけど、よかったら」
そういえば、喉が渇いていた。
緊張と、室内プールの空気にあてられたのだろう。
受け取り、わたしは一息に半分まで飲み干した。
お礼を言うべきか考えていたところへ、ふいに気配が近づく。
「上着だけでも、脱いだほうがいいよ」
ギョッとする。
わたしのひざにあたるほど……驚くほど近くに、谷本くんの体があった。
顔を上げるのが恐い。
谷本くんの瞳が今、あの情熱の炎に染まっていたらどうしたらいいのだろう。
「風邪をひくよ、夏樹ちゃん」
のびてきた手を、わたしは振り払った。
「脱ぐっ、脱ぐからっ。だからヘンなことはしないでっ」
あんまりな言い様だと自分でも思ったが
今更出した言葉を引っ込めることはできない。
上着を脱いで椅子の背にかけてから
傷つけてしまったかと、そっと視線を上げた。
谷本くんは瞳に笑みを含んでいた。
そして、わたしが恐れる色にも染まっていない。
いくぶんホッとする。
「ヘンなことなんて、しないよ」
谷本くんは、瞳を閉じる。
壁にもたれかかり、しばらくそうして休むことに決めたように黙った。
それから数分の間、ストーブのうなるような音だけが管理人室を支配した。
わたしは谷本くんを意識したくなくて、もう何も考えまいとし
ほとんど無意識のまま缶の中身をすっかり飲み干してしまうと、そっと椅子の傍に置いた。
コトリというわずかな音に、谷本くんが目を開いたのが気配で分かった。
とたん、背筋がぞくりとした。
悪寒ではない。もっと甘い痺れだ。
わたしには分かった。
谷本くんは今、あの情熱的な瞳になっている。
わたしが恐れている、あの瞳になっている──。
小さいながら炬燵もあり、真ん中にはストーブがある。
「どっちがいい?」
尋ねられ、少し考えて
わたしはストーブを選んだ。
炬燵は小さすぎて、ふたりならばくっついてあたる格好になる。
そんなのはいやだ。
ストーブをつけ、谷本くんが服を脱ぎ始めたのを見て
わたしはできるだけ視線をそらすようつとめた。
それでも、急いで念を押す。
「できれば、脱ぐのはせめて上だけにしてくれない?」
「上だけなら、全部脱いでもいいの?」
くすくす笑う谷本くんに、腹が立った。
どうして彼は、わたしをからかうのだろう。
わたしの気持ちを知ってか知らずか
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谷本くんは自分の鞄から缶コーヒーを取り出すと、プルトップを開けて差し出してくる。
「もうあんまり温かくないけど、よかったら」
そういえば、喉が渇いていた。
緊張と、室内プールの空気にあてられたのだろう。
受け取り、わたしは一息に半分まで飲み干した。
お礼を言うべきか考えていたところへ、ふいに気配が近づく。
「上着だけでも、脱いだほうがいいよ」
ギョッとする。
わたしのひざにあたるほど……驚くほど近くに、谷本くんの体があった。
顔を上げるのが恐い。
谷本くんの瞳が今、あの情熱の炎に染まっていたらどうしたらいいのだろう。
「風邪をひくよ、夏樹ちゃん」
のびてきた手を、わたしは振り払った。
「脱ぐっ、脱ぐからっ。だからヘンなことはしないでっ」
あんまりな言い様だと自分でも思ったが
今更出した言葉を引っ込めることはできない。
上着を脱いで椅子の背にかけてから
傷つけてしまったかと、そっと視線を上げた。
谷本くんは瞳に笑みを含んでいた。
そして、わたしが恐れる色にも染まっていない。
いくぶんホッとする。
「ヘンなことなんて、しないよ」
谷本くんは、瞳を閉じる。
壁にもたれかかり、しばらくそうして休むことに決めたように黙った。
それから数分の間、ストーブのうなるような音だけが管理人室を支配した。
わたしは谷本くんを意識したくなくて、もう何も考えまいとし
ほとんど無意識のまま缶の中身をすっかり飲み干してしまうと、そっと椅子の傍に置いた。
コトリというわずかな音に、谷本くんが目を開いたのが気配で分かった。
とたん、背筋がぞくりとした。
悪寒ではない。もっと甘い痺れだ。
わたしには分かった。
谷本くんは今、あの情熱的な瞳になっている。
わたしが恐れている、あの瞳になっている──。
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