天使の紡ぐ雪の唄

希彗まゆ

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彼女なんだ。──【悠輝Side】

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聖治はぼくの胸倉をつかみあげた。

「約束だったよな」

切れ長の瞳が、恐ろしいほどに真剣だ。

「夏樹にだけは手を出さないって、約束だったよな!」
「でも、“彼女なんだ”」

穏やかなぼくの声に、聖治は愕然と目を見開いた。

「ぼくは今まで、好きになれる女の子をさがしてきた。今までずっとだ。それでもぼくは誰にも愛を感じなかった。高波(たかなみ)夏樹、彼女をお前に紹介されるまでね」

「そんな──」

聖治は、ぐったりと胸倉から手を離す。

「他にいくらでもいるだろう、どうして夏樹なんだ!」

「ぼくだって、できれば親友の好きな女の子を愛したくはなかった。でも、心は変えられない。そうだろう?
──ねえ聖治、これでもぼくはずいぶん我慢してきたんだよ。夏樹ちゃんの他にもっと好きな子ができないかと手当たり次第に探してきた。お前も知ってるだろう。夏樹ちゃんには、女遊びだって言われちゃったけどさ」 

そしてぼくは、鋭い眼光を親友に押しつけた。

「でも、限界だ。自分の気持ちに嘘はつけない」

はっきりとした意志に、聖治は真っ青になった。

唇を噛みしめ、鞄を取り上げると
身を翻して夏樹ちゃんのあとを追うように走っていく。

ひとり残されたぼくは、机の上に置かれた教室の鍵をつまみあげる。

「ぼくが普通の人間なら、お前もそこまで青くならなかったんだろうけどな」

遠くから、吹奏楽部の演奏が聞こえていた。
クリスマスが近いからだろう、それは聖歌だった。
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