七日メール

希彗まゆ

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沈黙の三日間、そして

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 木曜の朝から、そうしてわたしはだらだらと過ごした。
 金曜日、そして土曜日。
 何度か携帯が鳴った気がしたが、見る気にはなれずに放っておいた。
 他の友達からのメールも黒い携帯にそのまま届いていたようで、一覧を見て「電話番号もそのまま使えるのかな」とぼんやり思う。
 あれから暁からの干渉も、ない。
 わたしの意図を汲んだのか、それとも──丸一日以上経ったから用がなくなったのか。
 日曜日の正午過ぎ。
 今日は翔子が家に遊びにくる。
 どこかに出かけてもよかったが、完全に春夏秋冬からメールがこなくなるまでは、何もリアクションを起こしたくなかった。

「で、ね。聞いてる? ひかり」
「あれ」

 ベッドに寝そべっていたわたしは、その声に顔を上げた。翔子だ。

「いつのまに来たの、翔子」
「今さっき。って、もう! 聞いてなかったの?」
「ん、ごめん」

 慌てて起き上がる。
 翔子は片手を包み込むように何かを大事そうに持ちながら、上着を脱ぐ。

「だからぁ、あたしあのままノート忘れてて学校寄ったの」
「ずっと忘れてたの? あれって確か木曜に言ってなかった?」
「誰かさんがずーっとシケた顔してるからそっちのけにしてたのぉ」
「……ごめん」

 翔子は笑う。
 まだやっている眼帯が胸に痛い。

「まあそれだけ勉強に身を入れてなかったあたしが悪いんだけど。でね、学校行ったらなんか変な音がしてその音辿ってったらトンボが蜘蛛につかまってたから」
「うん」

 何気なく相槌を打ってから、かたまる。
 へんなおと。とんぼがくもにつかまってたから。
 ベッドから起き上がる。

「翔子、それって……キーっていう音?」
「うん、そんなかんじ。でね、可哀想だからトンボ助けてきたんだけどどうしようかなあって」

 翔子の片手をよく見れば指の隙間から、弱々しく動くトンボの姿が見えた。

(番人だ)

 番人のトンボだ。あのときのトンボ。
 手をのばしかけ、ふとためらう。

(今更──どうしようっていうの)

 そうだ。自分は「あきらめた」のに。
 でも……少なくともこの番人はわたしのためにここまで衰弱したのだ。
 ぎゅっと目を閉じる。
 春夏秋冬にかかわらないなら、番人くらい助けてほしいと暁に頼んでもいいだろう。

「翔子、……わたしちょっと行くところできちゃった」

 急いで服を着替え始めるわたしに、翔子はきょとんとする。

「ついてこか?」
「ううん、翔子はこれ以上傷つく必要ないから。ばんに──トンボをお願い」
「意味わかんないよぉ、ひかり!」
「なんかあったら携帯に連絡よこして」

 はやる心をおさえ、翔子の声を背中に聞きながらわたしは部屋を飛び出した。
 門を出たところで、ふいに空気が突っ張った感覚がした。
 はっとして前を見ると、暁が立っている。
 この前のように、自分達以外の時が止まっていた。
 すがるように暁に駆け寄る。

「もう番人を解放して! もういいはずだよね? だって丸一日以上経ってるでしょ!?」
「そうだね」

 暁は、ゆっくりと微笑んだ。

「これでようやく──【三船翔子を殺せる】」
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