七日メール

希彗まゆ

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静まり返る携帯

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 身体が重い。
 また何か夢を見た気がするけれど、微塵も思い出せなかった。
 ちゅん、ちゅんとすずめの鳴き声がする。頭が冷えた。
 そっと目を開ける──間違いない、「今は朝」。あのままわたしは一夜をここですごしたのだ。
 壁のほうに目をやると、うつむいたままの暁が体育座りをしている。
 顔色はまだ青白い。深い眠りについているようだった。

「春夏秋冬……」

 ポケットの中の携帯は無事だ。ライトが点滅している。春夏秋冬からのメールが届いていた。

『ひかり。力がなくて本当に申し訳ない』

 春夏秋冬は精一杯やってくれている。そう思った。何より大事な親友の翔子を助けてくれた。

『しかも【毒】のせいで【ぼく達】の力がうまく働いてくれなくなってきた。翔子さんには本当に……本当に申し訳ない』

 どきりとする。
 そういえば翔子の携帯も壊れたはずだ。安静にしていたなら、替えの携帯を買っていないかもしれない。

(先に家に連絡しておこう)

 なんの連絡もないままでは、母や弟が死ぬほど心配しているに違いなかった。
 携帯を取り出し、体育館倉庫の扉が開くことを確かめて慎重に外に出る。暁が起きてくる気配はない。家に電話をかける。

『もしもし、望月です』

 母が出た。落ち着いた声で、いつもと変わりがないように思える。

「あの……わたし。ひかり」
『あら、どうしたの?』

穏やかなその応対に、わたしは拍子抜けした。

「どうしたのって、ゆうべわたし、」
『ゆうべ? 翔子ちゃんから電話があったわよ。一緒に勉強するから今日は翔子ちゃんの家に泊まるって。ご迷惑はかけなかった?』

 翔子が?
 首を傾げたわたしの脇から急に手が伸びて携帯を取り上げた。
 あっと思う間もなく、それは片目を白いガーゼで覆って眼帯をしている翔子だった。

「おばさん? 翔子です。今一緒に登校してきましたー。迷惑とか全然ないですから。はい、それじゃまた」

 ピッと電話を切る。
 口を開いたまま言葉も出せないわたしに、笑ってみせた。

「昨日、学校に宿題のノート忘れたままなの思い出して取りにきたら志木とあんたが一緒に早退したってクラスの子に聞いてね。これはなんかあったと思って先にあんたの家に連絡入れて、あたしずっと探してたの。よかった、無事で」
「翔子」
「うん? 無事じゃない?」
「翔子」

 春夏秋冬のメールが気になって仕方がない。
 わたしの視線が自分の片目に注がれていることに気づき、翔子は明るく笑った。

「うーん、まだ誰にも言ってないけど見えなくなっちゃった。ひかりを探してる途中に違和感あったから病院ちょろっと寄ったけど、失明かもって」

 わたしは無言で抱きついた。

「わたしのせいだ」
「へ? ひかり、違うよ。何言ってんの。それより志木に何もされなかった? 何も食べてないんじゃない? 一緒にパン買いに行こうか、授業までまだ時間あるし」
「、………」

 翔子の優しさに、わたしは泣いた。
 もう春夏秋冬にこだわるのはやめよう。
 こんな犠牲が出てしまった。
 もう暁の言うとおりにしよう。
 翔子の手の中で、黒い携帯は静かだった。
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