七日メール

希彗まゆ

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初めまして、伴侶です

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 昼休みになると、今朝の八川健路の噂はまたたくまに全校中に広まっていた。
 しばらくの間、これは健路のトラウマになるだろうとちょっとだけわたしは彼に同情した。

「そんなんだからひかりはナメられるんだって」

 購買部の隣にあるちょっとしたカフェルームのようなところでわたしと一緒に珈琲牛乳を飲んでいた翔子が指摘する。

「もうちょっとねえ、なんつーか……いい意味で軽く?なんなくちゃダメだよ」
「そんなん言ったって性格だし」
「まあ……ひかりのいいトコだってのは認める。でもそれにつけこむ八川みたいなやつがいるんだから」
「わかってる」

 翔子は説教というよりむしろ心配そうだ。
 いつも髪型やお洒落に熱心な彼女が実はわたしよりも心配性なんじゃないか、とたまに思うこともある。
 交際範囲もぐっと広いのにどうしてわたしといつも一緒にいるのかも不思議なくらいだ。
 そこまで思い返したとき、ふとわたしは小声になった。

「翔子。そういえば彼氏はどうなったの? いつもほったらかしでわたしのとこにいて大丈夫?」
「ああ。んー。なんつか、しっくりこなくて。いま別居中」
「あれ? 一緒に住んでたっけ」
「そんなわけない」

 翔子はおかしそうに笑う。
 要するに冷却期間中ということだと気づいたときには、翔子は珈琲牛乳を飲み終えて立ち上がるところだった。

「ひかりのそういうドンクサイとこも好きだよ、あたし」
「時代錯誤とかたまに言われる」

 一気に落ち込むわたしの頭を翔子は撫でる。

「いーじゃん逸材逸材」

 そして隣のテーブルにいた人間をキッと睨みすえた。

「ところであんた、さっきから何ひかりのコト見てんの?」

 はっとする。
 健路とのことが噂になって、未だわたしを好奇の目で見る者も少なくない。
 翔子はそういうことにも敏感に反応してくれているのだ。
 でも、ここしばらくはなかったのに──。
 身をすくめるわたしを宥めるような、穏やかな男子の声がした。

「違うよ。目で口説いてただけ」

 あまりにあまりな台詞に思わずわたしは振り向いた。
 こんな男子──この学校にいただろうか?
 一見柔和そうな顔立ちだが、甘く惹きこむ魅力にくらくらしそうだ。
 真っ黒な髪に涼しげな瞳。
 口元はちょっとほころんでいた。
 翔子が警戒する。

「制服もできたてみたいね。転入生? どうでもいいけどひかりに近づかないでね」

 すると彼は椅子から立ち上がり、わたしに向けて握手を求めてきた。

「今日から転入したはるかあき──っと、志木暁(しき あかつき)です。ひかり──ちゃん、きみの伴侶です。よろしく」

 翔子とともに思わずぽかんとしたわたしは、ふと引っかかった。
 いま、彼はなんと言いかけた?

(はるかあき──?)

 それに、ひかり、と呼び捨てにしかけた気もする。
 その苗字も──しき……四季……春夏秋冬……?
 まさか。

「あなたが、天国の──」

 言いかけたわたしのポケットの中で、携帯が叫ぶように震えた。
 取り出そうとしたところへ、暁が突然抱きしめてくる。

「ちょ、な、」

 なにすんの、と言いかけたわたしの耳元で、暁は小声で囁いた。

「きみが思っているとおりだよ。ひかり。【隠していたこと】だけどホントだよ──ぼくが、きみの将来の伴侶。だから、よそ見しちゃダメだよ」

 ひかりを離せばかオトコ、と叫んでいる翔子が、なぜか遠く感じられた。
 ポケットから手に移りかけた瞬間滑った携帯が、床にむなしく落ちていった。
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