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メールは最悪から
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その日、わたし───望月ひかり(もちづき ひかり)にとっては人生最悪だったと思う。
◇
その「人生最悪」なことを忘れられないまま、高校最後の冬を迎えた。
「寒いなあ」
当たり前のことを口にしてみる。
場所は保健室。保険医も見回りに行っていて、ベッドに寝ているのはわたし一人だ。
「心も寒いよ」
つぶやいてから、言葉にするとことさら寒いことに気づく。思い切り滅入った。
いつの間にか、そのままわたしは眠りについた。最近寝不足だったせいもあるかもしれない。
体調が悪いときに限って見る夢は悪夢と相場が決まっている。
そんなわたしを救ったのは、スカートのポケットからの振動だった。
「ん……」
手探りでポケットから振動しているもの──携帯を取り出す。授業中のはずなのに、誰がくれたのかメールが一件入っていた。
「翔子(しょうこ)かな」
一番の親友を真っ先に思い浮かべたが、差出人は「あなたを想う者」となっている。
ちょっとゾクッとした。
「イタズラ?」
削除を考えたのに、寝ぼけたままだったのが災いして開いてしまった。
『ひかり。元気かい?父さんだよ』
「───」
今度こそわたしは頭の芯まで冴えてそのメールを削除した。
誰よ。誰よ誰よ誰よ。こんな最低なイタズラメール送ったの。
わたしの父さんはついこの前、死んだばかりなのに。
知らず涙が溢れてくる。
すると、また手の中で携帯が振動を伝えてきた。
差出人は同じ。ただ、件名はさっきは無題だったのに今回は「ごめん」となっている。
慎重に開いた。
『怒らせてごめん。きみのお父さんと親しかった者だよ。信じられないだろうけど、ぼくはいま天国にいる』
こいつ頭がおかしいのか。わたしは怒りを通り越してどうでもよくなってきた。
とりあえず最後まで読んだら削除して迷惑メール登録して寝よう。
『ぼくもきみのお父さんも心残りはきみのこと。【ぼく達】はどんな悩みごとでも真剣に相談に乗って、できるだけ力を貸してあげる。きみの中にはもう【芽】があって、【ぼく達】の願いでそれは育てられるから。ただ続けてほしいのは、【ぼく達】とのメール交換。今日から七日間だけだ。魂かかってるんで、お願いします』
なんだか自分に都合のいいことばかり並べ立てている気がして、わたしはムッとした。
思わず返信していた。
『悩みごとに力を貸してくれるの? 天国にいるヒトならそれなりの力は持ってるかもしれないよね? それじゃ、ひとつお願い。わたしが今一番悔しくて哀し いこと、その前に日にちを戻してよ。それとわたしの父さんと親しかったならわたしの小さな時のことも知ってるはずよね? 家族内でしか知らないことだけ挙 げてみてよ』
すると思いもかけず、すぐに返事がきた。
『日にちを戻すまでは──時間が必要だからもう少し時間もらってもいいかな?』
その文章のあと、めまいがするほど長くわたしについての記述があった。
箇条書きではあったが、誕生してからそれこそ家族内──両親と弟しか知らない歴史の数々が羅列してある。ただのストーカーができることでは、ない。
『──あなた、誰なの?』
わたしは体調が悪いのももはや忘れ、カタカタと携帯を打っていた。
『名前──そうだね、名乗ってなかった。ぼくは──【ぼく達】は、春夏秋冬(はるか あきふゆ)』
しゅんかしゅうとう。
一瞬相手は神様というものかと疑いかけたが、疑うことすら馬鹿らしく思えてわたしはそのまま放っておいた。いつの間にか、体調がすっかりよくなっていることにも気づかずに。
──それが、春夏秋冬とのメール交換の始まりだった。
◇
その「人生最悪」なことを忘れられないまま、高校最後の冬を迎えた。
「寒いなあ」
当たり前のことを口にしてみる。
場所は保健室。保険医も見回りに行っていて、ベッドに寝ているのはわたし一人だ。
「心も寒いよ」
つぶやいてから、言葉にするとことさら寒いことに気づく。思い切り滅入った。
いつの間にか、そのままわたしは眠りについた。最近寝不足だったせいもあるかもしれない。
体調が悪いときに限って見る夢は悪夢と相場が決まっている。
そんなわたしを救ったのは、スカートのポケットからの振動だった。
「ん……」
手探りでポケットから振動しているもの──携帯を取り出す。授業中のはずなのに、誰がくれたのかメールが一件入っていた。
「翔子(しょうこ)かな」
一番の親友を真っ先に思い浮かべたが、差出人は「あなたを想う者」となっている。
ちょっとゾクッとした。
「イタズラ?」
削除を考えたのに、寝ぼけたままだったのが災いして開いてしまった。
『ひかり。元気かい?父さんだよ』
「───」
今度こそわたしは頭の芯まで冴えてそのメールを削除した。
誰よ。誰よ誰よ誰よ。こんな最低なイタズラメール送ったの。
わたしの父さんはついこの前、死んだばかりなのに。
知らず涙が溢れてくる。
すると、また手の中で携帯が振動を伝えてきた。
差出人は同じ。ただ、件名はさっきは無題だったのに今回は「ごめん」となっている。
慎重に開いた。
『怒らせてごめん。きみのお父さんと親しかった者だよ。信じられないだろうけど、ぼくはいま天国にいる』
こいつ頭がおかしいのか。わたしは怒りを通り越してどうでもよくなってきた。
とりあえず最後まで読んだら削除して迷惑メール登録して寝よう。
『ぼくもきみのお父さんも心残りはきみのこと。【ぼく達】はどんな悩みごとでも真剣に相談に乗って、できるだけ力を貸してあげる。きみの中にはもう【芽】があって、【ぼく達】の願いでそれは育てられるから。ただ続けてほしいのは、【ぼく達】とのメール交換。今日から七日間だけだ。魂かかってるんで、お願いします』
なんだか自分に都合のいいことばかり並べ立てている気がして、わたしはムッとした。
思わず返信していた。
『悩みごとに力を貸してくれるの? 天国にいるヒトならそれなりの力は持ってるかもしれないよね? それじゃ、ひとつお願い。わたしが今一番悔しくて哀し いこと、その前に日にちを戻してよ。それとわたしの父さんと親しかったならわたしの小さな時のことも知ってるはずよね? 家族内でしか知らないことだけ挙 げてみてよ』
すると思いもかけず、すぐに返事がきた。
『日にちを戻すまでは──時間が必要だからもう少し時間もらってもいいかな?』
その文章のあと、めまいがするほど長くわたしについての記述があった。
箇条書きではあったが、誕生してからそれこそ家族内──両親と弟しか知らない歴史の数々が羅列してある。ただのストーカーができることでは、ない。
『──あなた、誰なの?』
わたしは体調が悪いのももはや忘れ、カタカタと携帯を打っていた。
『名前──そうだね、名乗ってなかった。ぼくは──【ぼく達】は、春夏秋冬(はるか あきふゆ)』
しゅんかしゅうとう。
一瞬相手は神様というものかと疑いかけたが、疑うことすら馬鹿らしく思えてわたしはそのまま放っておいた。いつの間にか、体調がすっかりよくなっていることにも気づかずに。
──それが、春夏秋冬とのメール交換の始まりだった。
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