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シュンキの回想──告白
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次の日本当にレントは血液を持ってやってきた。どうやって採取したのか、カレンに会っていかないのか聞いたが「ゼオスの伝手だ。カレン? 女なら間に合ってる」とだけ言ってまた外に出て行った。
カレンはカレンで、カルマシュでの仕事の合間にレントの滞在先を探しているようだった。外に出て呼ぶだけでレントは来てくれるような気はしたが、カレンも心得ていて時々呼びながら首都のあちこちを歩き回っているのだと本人から聞いた。
悩んだ末、シュンキはレントに依頼されたものを作ることにした。
もしかしたらレントがあれほど変わってしまったのは、今現在誰かに殺される恐怖からなのかもしれない、そんな淡い期待を抱いたからだった。
もしも【誓約】を破ったことで自分が死んでしまうのだとしても、戦争で人を殺さざるを得なかったレントを、そしてこれからも殺さざるを得ないレントを殺すことなんてできないだろう。その気持ちはカレンも同じのはずだと信じたのだ。
「遅いのね」
レキサスの最終段階に加えて学科のテストも間近く、ただでさえ眠るにも惜しい頃。
真夜中をとうに過ぎてからようやく個室に戻ってきたシュンキは、カレンに声をかけられた。このところ、彼女ともあまり接触を取れていなかったが、それも心では離れていないと信じられていたからこそである。
「部屋が暗かったから、もう眠ってると思ってた」
「つけないで」
電気のスイッチを入れようとした気配を察したのか、カレンは震えた声を上げた。
なにか、あったのだ。
疲れでぼんやりと霞がかるようだったシュンキの頭が一気に冴え渡る。
「カレン。電気、つけるよ」
返事を待たずに部屋は明るくなった。泥だらけのカレンが床に座り込んでうつむいていた。服もあちこち裂けてしまい、真っ白な肌に傷がいくつもついている。
「レントに会えたの」
何があった、と尋ねるより先にカレンの口が開く。
「今日もずっと呼んでいて、それで。きてくれたの。空を、駆けてきてくれた」
カレンは唇をわななかせた。
「昨日の名残り雪で地面がぬかるんでたの。あの人、手を使わずにわたしをそこへ押し倒したわ」
「……あいつ、何考えてるんだ」
沸々と怒りが湧き上がる。レントにとってみれば小さなものだろうが、それは明らかに「攻撃」だ。見たところ大きな傷はないようだけれど、そんな問題ではない。レントだけは、カレンを絶対にこんな目にはあわせないという自信がシュンキにはあったのだ。
殺されるかもしれない恐怖、それを彼女にだけはぶつけないものだと思っていたのに。
「一言だけ言って、あの人、どこかに帰ってった。風に乗って女物の香水の香りがしたわ」
涙を押しとどめようと必死なカレンの頭を撫でてやる。長く美しい黒髪にまで泥が飛び跳ねてしまっている。
「清潔にしてないと傷にも悪い。お風呂に入っておいで、沸かしてあげるから。それから手当てしよう」
「……彼はこう言ったのよ、───『お前が心変わりしてることなんてお見通しだ』って」
風呂場に向かいかけたシュンキの足が止まる。
───心変わり?
「カレンが? どんな冗談さ」
「冗談なんかじゃないのよ」
目のふちから涙がこぼれ落ち始める。拭いもせずに、カレンはまっすぐに、振り返ったシュンキを見つめた。
「言われて初めて気づいたの、自分の気持ちに。ううん、その前レントがわたし達に会いに来たとき、あのときのキスでおかしいって思ったの。自分の気持ちがおかしい、キスされても嬉しくないって」
「あんな乱暴なキス、誰だって嬉しくないだろ」
「シュンキは分からないんだわ、わたし、今までどんなキスだって嬉しく感じた。ただ愛しいキスも、慰めのキスも、八つ当たりのキスも。全部受け入れてきたわ。唇噛まれたのだってあれが最初じゃない、前からあったことよ。いつもその後謝ってくれたけど、でも今回は心が拒否したの。レントは分かってた、だからあのとき、『シュンキに舐めてもらえ』なんて言ったんだわ」
「カレンは動揺してるんだ、それだけだよ」
「違うわ、自分でも気づかなかったわたしの気持ちにレントは気づいてた! シュンキ、わたしあなたのことが、」
悲鳴のようになってきていた声を、カレンは胸を押さえて鎮めた。汚れた指で涙を拭き、悪いことをした人間がするように胸の前で両手を組んだ。
「わたし、……あなたのことが、好きになってた」
すぐには信じられなかった。
カレンの頭がどうにかなってしまったのだと思った。
「……待ってくれ」
シュンキは頭を押さえ、突然の告白に耐えた。そう、彼にとってそれはこれ以上ないほどの衝撃だった。否、あってはならないことだ。
「そんな……こと、ないだろ。カレン、もう一度よく考えて、」
「あなたは頭の中で勝手に法則作ってるのよ。わたしとレントと初めて出会った小さい頃のあの日から、ずっと。わたしとレントは絶対に結ばれるべきなんだって」
探られたくない心を見られたようだった。確かに言われたとおりだったけれど、カレンにまで見抜かれているとは思わなかった。
「シュンキに初めて会った日、二人だけになったときにレントがそう言ったの。『いいやつだけど法則作りたがるやつなんだな』って言ってた」
そんなに昔から、レントは分かっていたのか。それほどまでにシュンキのことを見ていたのだ。
「最初は、本当にレントを愛してたの」
カレンは堰を切ったように続ける。
「子供だったけど、本当に好きだった。でもシュンキがあの幼稚舎にきて、レントと一緒に見ていて───シュンキのことが好きになったわ。それが友達として好きなのかずっと分からなかった。自分の気持ちが決まらなくて悩んでたとき、レントに告白された。それでわたし、あなたに相談したの。
あなたはなんともないような顔して、微笑んだわ。『おめでとう』って。それでわたし、あなたへの気持ちがちゃんと分かった。男の人として愛してるんだって分かったの。
でも、あなたがそう言うのならレントを心から愛そうと思った。これからはずっとレントと愛し合っていこうって真剣に思った。誰のためでもなく、自然にそう思えたの。
だけどどこかでいつもあなたを忘れられなかった、だからいつもあなたに頼ってた───そのことが今日初めて分かったの、閉じ込めてた心をレントが無理矢理こじ開けたのよ」
もう、とめられない。
泣き声でそうつぶやいて、カレンは立ち上がってシュンキにしがみつくように抱きついた。
「この二年一緒にいて……一緒にレントのために何かしようと思って……自分で封じ込めてたから気づかなかったけど、あなたへの気持ちが大きくなってたんだわ」
「……おれは」
シュンキはただ呆然と、抱きしめ返す余裕もない。
「おれは……ずっと、二人には幸せになってもらいたくて───」
するとカレンは、ぐっと何かをこらえるように喉を鳴らしてシュンキから離れた。歪んだ微笑みは、無理をしている証拠だった。
「そう、よね……あなたの法則、壊してごめんなさい」
お風呂もらうわね、と風呂場に歩いていく。湯を張る音が聞こえてきた。
───違う。そうじゃない。
「そうじゃ、ないんだ」
シュンキが勝手に作った法則で、カレンの心をがんじがらめにしていいはずがない。
そんなのは、ただのエゴでしかない。確かにシュンキは今まで、カレンとレントの二人の仲の良さに嫉妬した心を抑えるために、そしてカレンへの気持ちの抑制のために、いつの間にか法則を作っていた。カレンはレントと結ばれるべきなのだと。何が起ころうと二人の仲だけは変わらないのだと。
傷つきたくないから、そう思っていた。自分が醜い心を持っていると思いたくないから隠してきた。ずっとずっと心の奥底に、自分ですらその理由も忘れてしまうほど深くに。
───もう、むりだ。
これ以上、カレンへの気持ちを鎧で固めることはできない。
カレンへの心は、カレンが開いた。そしてそのカレンの心は、何よりも彼女の大切な恋人のはずだったレントが開いた。三人で、何かの柵を越えてしまったのだ。
柵の向こうに何があるのか分からない。連日心身共に疲れ切っていた、その緩んでいた隙を突かれてしまった。
───レント。お前がカレンにそう言ったのなら、本当に、いいんだな。
お見通しだと言ったのなら。
───だとしたらそれは、おれがカレンに心を伝えていいんだと判断するぞ。
勉強は努力しなかったレントだが、彼の頭の良さはとうにシュンキも認めている。その彼が今回カレンに取った言動は、シュンキをも巻き込む波紋になるのを考え尽くした先でのことだろう。
風呂場から薄着で上がってきたカレンを、待ち構えていたようにシュンキは抱きしめた。
「シュンキ、……」
「好きだ」
長い間縛られ続けていた気持ちは、焦れたように口から飛び出した。
「カレン。ずっと、好きだった」
カレンは驚いたように顔を上げた。黒目がちの瞳が真実か否か見極めようとしている。
「返事が聞きたかったから言ったんじゃないわ、シュンキは優しいからそんなこと言うの」
「違うよ」
細い顎を持ち上げ、くちづける。
レントにされたことで身も心も傷ついているはずのカレンにそんなことをしている自分が、限りなく悪に近く思えた。
(神に裁かれてもいい)
いると信じられているこの星の神に、今この瞬間に命を奪われてもいい。
「あなたは、離れていかない?」
唇を離すと、おずおずとカレンが尋ねてきた。
「レントのように変わって、離れてしまわない?」
彼女が抱えている恐怖を受け止めようとでもするように、シュンキは抱く腕に力をこめた。
「何があっても離れない。レントだっておれが引き止める。三人の絆は永遠だから」
絆をなめるな、と誰よりも先に言ったのはレントのはずだから。
「あなたがいてくれたら、わたしはいつでもこうして本当のわたしに戻れる」
ようやく肩の力を抜いたカレンが、安心したように体重を預けてくる。
───無理しては、いないだろうか。
本当のカレンは、レントのように強くて脆い。シュンキのことを考えて、そう言ってくれているのではないだろうか。
心配になって顔を覗くと、優しい笑みが返ってきた。
「本当よ」
そして、彼女はキスをくれた。今までのように頬ではなく、唇に。
そのやわらかさを感じると、レントからの依頼の重さまでも少しだけ軽くなるような気がした。
カレンはカレンで、カルマシュでの仕事の合間にレントの滞在先を探しているようだった。外に出て呼ぶだけでレントは来てくれるような気はしたが、カレンも心得ていて時々呼びながら首都のあちこちを歩き回っているのだと本人から聞いた。
悩んだ末、シュンキはレントに依頼されたものを作ることにした。
もしかしたらレントがあれほど変わってしまったのは、今現在誰かに殺される恐怖からなのかもしれない、そんな淡い期待を抱いたからだった。
もしも【誓約】を破ったことで自分が死んでしまうのだとしても、戦争で人を殺さざるを得なかったレントを、そしてこれからも殺さざるを得ないレントを殺すことなんてできないだろう。その気持ちはカレンも同じのはずだと信じたのだ。
「遅いのね」
レキサスの最終段階に加えて学科のテストも間近く、ただでさえ眠るにも惜しい頃。
真夜中をとうに過ぎてからようやく個室に戻ってきたシュンキは、カレンに声をかけられた。このところ、彼女ともあまり接触を取れていなかったが、それも心では離れていないと信じられていたからこそである。
「部屋が暗かったから、もう眠ってると思ってた」
「つけないで」
電気のスイッチを入れようとした気配を察したのか、カレンは震えた声を上げた。
なにか、あったのだ。
疲れでぼんやりと霞がかるようだったシュンキの頭が一気に冴え渡る。
「カレン。電気、つけるよ」
返事を待たずに部屋は明るくなった。泥だらけのカレンが床に座り込んでうつむいていた。服もあちこち裂けてしまい、真っ白な肌に傷がいくつもついている。
「レントに会えたの」
何があった、と尋ねるより先にカレンの口が開く。
「今日もずっと呼んでいて、それで。きてくれたの。空を、駆けてきてくれた」
カレンは唇をわななかせた。
「昨日の名残り雪で地面がぬかるんでたの。あの人、手を使わずにわたしをそこへ押し倒したわ」
「……あいつ、何考えてるんだ」
沸々と怒りが湧き上がる。レントにとってみれば小さなものだろうが、それは明らかに「攻撃」だ。見たところ大きな傷はないようだけれど、そんな問題ではない。レントだけは、カレンを絶対にこんな目にはあわせないという自信がシュンキにはあったのだ。
殺されるかもしれない恐怖、それを彼女にだけはぶつけないものだと思っていたのに。
「一言だけ言って、あの人、どこかに帰ってった。風に乗って女物の香水の香りがしたわ」
涙を押しとどめようと必死なカレンの頭を撫でてやる。長く美しい黒髪にまで泥が飛び跳ねてしまっている。
「清潔にしてないと傷にも悪い。お風呂に入っておいで、沸かしてあげるから。それから手当てしよう」
「……彼はこう言ったのよ、───『お前が心変わりしてることなんてお見通しだ』って」
風呂場に向かいかけたシュンキの足が止まる。
───心変わり?
「カレンが? どんな冗談さ」
「冗談なんかじゃないのよ」
目のふちから涙がこぼれ落ち始める。拭いもせずに、カレンはまっすぐに、振り返ったシュンキを見つめた。
「言われて初めて気づいたの、自分の気持ちに。ううん、その前レントがわたし達に会いに来たとき、あのときのキスでおかしいって思ったの。自分の気持ちがおかしい、キスされても嬉しくないって」
「あんな乱暴なキス、誰だって嬉しくないだろ」
「シュンキは分からないんだわ、わたし、今までどんなキスだって嬉しく感じた。ただ愛しいキスも、慰めのキスも、八つ当たりのキスも。全部受け入れてきたわ。唇噛まれたのだってあれが最初じゃない、前からあったことよ。いつもその後謝ってくれたけど、でも今回は心が拒否したの。レントは分かってた、だからあのとき、『シュンキに舐めてもらえ』なんて言ったんだわ」
「カレンは動揺してるんだ、それだけだよ」
「違うわ、自分でも気づかなかったわたしの気持ちにレントは気づいてた! シュンキ、わたしあなたのことが、」
悲鳴のようになってきていた声を、カレンは胸を押さえて鎮めた。汚れた指で涙を拭き、悪いことをした人間がするように胸の前で両手を組んだ。
「わたし、……あなたのことが、好きになってた」
すぐには信じられなかった。
カレンの頭がどうにかなってしまったのだと思った。
「……待ってくれ」
シュンキは頭を押さえ、突然の告白に耐えた。そう、彼にとってそれはこれ以上ないほどの衝撃だった。否、あってはならないことだ。
「そんな……こと、ないだろ。カレン、もう一度よく考えて、」
「あなたは頭の中で勝手に法則作ってるのよ。わたしとレントと初めて出会った小さい頃のあの日から、ずっと。わたしとレントは絶対に結ばれるべきなんだって」
探られたくない心を見られたようだった。確かに言われたとおりだったけれど、カレンにまで見抜かれているとは思わなかった。
「シュンキに初めて会った日、二人だけになったときにレントがそう言ったの。『いいやつだけど法則作りたがるやつなんだな』って言ってた」
そんなに昔から、レントは分かっていたのか。それほどまでにシュンキのことを見ていたのだ。
「最初は、本当にレントを愛してたの」
カレンは堰を切ったように続ける。
「子供だったけど、本当に好きだった。でもシュンキがあの幼稚舎にきて、レントと一緒に見ていて───シュンキのことが好きになったわ。それが友達として好きなのかずっと分からなかった。自分の気持ちが決まらなくて悩んでたとき、レントに告白された。それでわたし、あなたに相談したの。
あなたはなんともないような顔して、微笑んだわ。『おめでとう』って。それでわたし、あなたへの気持ちがちゃんと分かった。男の人として愛してるんだって分かったの。
でも、あなたがそう言うのならレントを心から愛そうと思った。これからはずっとレントと愛し合っていこうって真剣に思った。誰のためでもなく、自然にそう思えたの。
だけどどこかでいつもあなたを忘れられなかった、だからいつもあなたに頼ってた───そのことが今日初めて分かったの、閉じ込めてた心をレントが無理矢理こじ開けたのよ」
もう、とめられない。
泣き声でそうつぶやいて、カレンは立ち上がってシュンキにしがみつくように抱きついた。
「この二年一緒にいて……一緒にレントのために何かしようと思って……自分で封じ込めてたから気づかなかったけど、あなたへの気持ちが大きくなってたんだわ」
「……おれは」
シュンキはただ呆然と、抱きしめ返す余裕もない。
「おれは……ずっと、二人には幸せになってもらいたくて───」
するとカレンは、ぐっと何かをこらえるように喉を鳴らしてシュンキから離れた。歪んだ微笑みは、無理をしている証拠だった。
「そう、よね……あなたの法則、壊してごめんなさい」
お風呂もらうわね、と風呂場に歩いていく。湯を張る音が聞こえてきた。
───違う。そうじゃない。
「そうじゃ、ないんだ」
シュンキが勝手に作った法則で、カレンの心をがんじがらめにしていいはずがない。
そんなのは、ただのエゴでしかない。確かにシュンキは今まで、カレンとレントの二人の仲の良さに嫉妬した心を抑えるために、そしてカレンへの気持ちの抑制のために、いつの間にか法則を作っていた。カレンはレントと結ばれるべきなのだと。何が起ころうと二人の仲だけは変わらないのだと。
傷つきたくないから、そう思っていた。自分が醜い心を持っていると思いたくないから隠してきた。ずっとずっと心の奥底に、自分ですらその理由も忘れてしまうほど深くに。
───もう、むりだ。
これ以上、カレンへの気持ちを鎧で固めることはできない。
カレンへの心は、カレンが開いた。そしてそのカレンの心は、何よりも彼女の大切な恋人のはずだったレントが開いた。三人で、何かの柵を越えてしまったのだ。
柵の向こうに何があるのか分からない。連日心身共に疲れ切っていた、その緩んでいた隙を突かれてしまった。
───レント。お前がカレンにそう言ったのなら、本当に、いいんだな。
お見通しだと言ったのなら。
───だとしたらそれは、おれがカレンに心を伝えていいんだと判断するぞ。
勉強は努力しなかったレントだが、彼の頭の良さはとうにシュンキも認めている。その彼が今回カレンに取った言動は、シュンキをも巻き込む波紋になるのを考え尽くした先でのことだろう。
風呂場から薄着で上がってきたカレンを、待ち構えていたようにシュンキは抱きしめた。
「シュンキ、……」
「好きだ」
長い間縛られ続けていた気持ちは、焦れたように口から飛び出した。
「カレン。ずっと、好きだった」
カレンは驚いたように顔を上げた。黒目がちの瞳が真実か否か見極めようとしている。
「返事が聞きたかったから言ったんじゃないわ、シュンキは優しいからそんなこと言うの」
「違うよ」
細い顎を持ち上げ、くちづける。
レントにされたことで身も心も傷ついているはずのカレンにそんなことをしている自分が、限りなく悪に近く思えた。
(神に裁かれてもいい)
いると信じられているこの星の神に、今この瞬間に命を奪われてもいい。
「あなたは、離れていかない?」
唇を離すと、おずおずとカレンが尋ねてきた。
「レントのように変わって、離れてしまわない?」
彼女が抱えている恐怖を受け止めようとでもするように、シュンキは抱く腕に力をこめた。
「何があっても離れない。レントだっておれが引き止める。三人の絆は永遠だから」
絆をなめるな、と誰よりも先に言ったのはレントのはずだから。
「あなたがいてくれたら、わたしはいつでもこうして本当のわたしに戻れる」
ようやく肩の力を抜いたカレンが、安心したように体重を預けてくる。
───無理しては、いないだろうか。
本当のカレンは、レントのように強くて脆い。シュンキのことを考えて、そう言ってくれているのではないだろうか。
心配になって顔を覗くと、優しい笑みが返ってきた。
「本当よ」
そして、彼女はキスをくれた。今までのように頬ではなく、唇に。
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