鬼精王

希彗まゆ

文字の大きさ
上 下
46 / 59

勲章

しおりを挟む


あれから髪を梳くたび、霞のことが頭に浮かぶ。

今夜も自室のベッドに座って髪をとかしていると、あのときのことを思い出した。

霞の髪……ほんとやわらかかったな……。

コンコン、と扉がノックされる。


「開いてるよ~」


すると、ドアを開けて霞が入ってきた。ちょっと焦ったけど、極力わたしは冷静になろうとする。

霞は笑顔で言った。


「苺ちゃんて無防備。相手が誰でも部屋に入らせんの?」

「部屋に入れるくらいどうってことないでしょ?」

「……そのうち泣くぜ?」

「どうして?」


霞はあきらめたように、髪の毛をまだとかしているわたしの隣に腰かける。


「まあいいや、なあ、俺と遊ばねえ?」

「暇だからいいけど……お医者さんゴッコとか使い古したこと言わないでよ」

「賭け賭け」


霞は手に持っていたコインを見せる。

巧妙な細工が施された、見たこともないコインだった。


「わあ、これあんた達の世界のお金? すごくキレイ」

「裏か表か当てて、負けたほうがふたつ言うことを聞く」

「なんでも言うこと聞くの?」


わたしは、髪の毛をとかす手をとめる。目は輝いていたかもしれない。

だって、いつも意地悪されてる仕返しができるチャンス!

霞はそんなわたしの思惑を見透かしているかのようにクスッと笑った。そんなところは気にくわない。


「じゃあいくぜ」


コインを放り投げ、手の裏で受け止めてすぐにもう片方の手で蓋をする。


「表と裏、どっち?」

「んー……裏!」

「じゃあ俺が表な」


わたしはどきどきしながら霞の手を見つめる。その手が開かれると──コインは、なにかの獣の模様のほうが上になっていた。


「俺の勝ち。さあどうしてやろうかな~?」

「えっ嘘!? インチキしなかったでしょうね!?」

「したらつまんねーじゃん。じゃあ苺ちゃん、一つ目。一枚、服脱いで」

「なっ!?」


いきなり何言い出すの!?


「ブラかタンクトップ、中に着てるんだろ? 裸になるわけじゃないんだから」

「うっ……」


ブラもタンクトップも……着てないよ……。

わたしはブラとかタンクトップは窮屈で嫌いで、外に出るときもめったにしたことがない。


「ああそれから言い忘れてたけど、賭けを無効にするとか言い出したり命令聞かなかったりしたら、俺の愛のお仕置きが待ってるから♪」


この……根性悪っ。


「……分かったわよ、脱げばいいんでしょ一枚!」


わたしは自棄になって着ていたTシャツを脱ぎ捨てる。霞が見る隙を与えないように、素早く胸を両手を交差して隠す。


「そうだよな、苺ちゃんはノーブラだったよな~」


楽しそうに言う霞の言葉に、顔に血が集まった。


「しっ知ってたの!?」

「大抵の男は気付くぜ。苺ちゃん――」


霞の顔が近づき、耳元でささやかれる。


「男を甘く見すぎ」


背筋が、ぞくりとした。

ごまかすために、わたしは抗議する。


「知ってて脱げなんて言ったなんて、ズルい! あんたも脱ぎなさいよ!」

「へえ、いいの? 俺、脱ぐと止まらないぜ?」


なにが止まらないんだろう、そう聞こうとするよりも早く霞は上半身を包んでいた服を脱いだ。逞しい身体が晒される。無駄な筋肉などどこにもない……男の身体。

だけど、わたしが息を呑んだのはそのせいではなかった。


「なに……なに、この、身体中いっぱいの傷跡」


霞は、初めて気付いたように「ああ」と言った。霞の身体いっぱいに、傷跡があった。古いのも新しいのも、ある。


「俺の勲章。あいつら二人、護ってやりてえからな」


にっこりとそんなことを言う。


「これが、今まで護ってきた……証拠?」

「醜いだろ? 見なくていいぜ。約束の二つ目」

「え゛」

「俺が何をしても動かないこと」

「そ、それって……ま、待ってよ!」

「愛のお仕置きとどっちがいい?」


どっちもどっちじゃないかと言い返そうとするわたしを、霞は自分の胸に抱き入れる。

うわ……!

あたたかな体温がわたしを包み込む。


「香水じゃなくて石鹸の香りだ」

「こ、子供だって言いたいの?」


そんなわたしに、霞は笑みを含みながら喉のくぼみに唇を当てる。


「……!」


びくっとしたその隙を逃さず霞の両手が胸を隠していたわたしの手を外す。


「あっ!」

「見た目は一応子供じゃないみたいだけど……」


霞の手が伸びてくる。


「だ、だめ!」


わたしの防御より、霞のほうが早かった。大きな手ですっぽりと片方の乳房を包まれてしまう。


「まだ固いから、男を知らない証拠。子供だな」

「そ、そんなことないっちゃんと知ってる!」

「苺ちゃんが知ってるのは男のうちに入らない。俺が本物の男を教えてやろうか」


きゅ、と軽く霞の手に力が入る。さほど大きくないわたしの乳房に、霞の手がわずかに埋まった。


「やっ……」

「言ったろ? 脱ぐと止まらないって」


悪戯っぽく微笑しながら、霞は意地悪く片手で乳房を揉み始める。


「う、んっ」


勝手に力が抜けていく。霞はわたしの腰に手を回し、少し仰け反らせるようにさせて上半身がすっかり見えるようにする。わたしは霞の顔が見られなくてぎゅっと目を閉じた。


「形も薄桃色の乳首も俺の好み」


囁いてから、霞はそれをちらりと舐めた。


「っ!」

「すげぇ敏感。震えて……もう尖ってるぜ?」


目を開くと、相変わらず悪戯っぽい霞の笑みがある。


「こ、こんな格好させないで……そういうことも言わないで……恥ずかしいよ」


霞はくすくす笑ってわたしの上体を起こし、わたしは大きく熱っぽいため息をついて再び霞の胸の中に戻る。心臓の……音が聞こえる。目の前には、たくさんの傷跡――。

わたしがその傷跡のひとつに口付けたのを見て、霞は驚いたように目を見開いた。


「……醜くなんてないよ」

「苺ちゃん……?」


傷跡のひとつひとつに手を這わせ、癒すように優しく口付けていく。


「そんなことしなくていい……気持ち悪いだろ?」

「大切な人達を護った証が、どうして気持ち悪いの? こんなに傷跡残っちゃって……禾牙魅さんと架鞍くん、幸せ者だね、こんなになってまで護ってもらえるなんて……」


わたしの唇が、鎖骨の辺りまで昇る。ふと顔を上げると、かなり近い距離で霞の真剣な瞳と視線が合った。

ゆっくりと、唇が近づいてくる。わたしは不思議と、避けようと思わなかった。

触れる寸前、霞の唇はふっと笑みを含んで高度を上げ、わたしの唇ではなく前髪をかきあげてから露になった額にキスをした。


いつもの霞とどこか違う。どうしたのだろう。

そんなことを考えていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。


「遊び時間、終了。つきあってくれてサンキュ。いい夢見ろよ」


優しい笑顔でそう言ってから、霞は自分の服を肩にかけて部屋を出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

生贄

竹輪
恋愛
十年間王女の身代わりをしてきたリラに命令が下る。 曰く、自分の代わりに処女を散らして来いと……。 **ムーンライトノベルズにも掲載しています

夜這いを仕掛けてみたら

よしゆき
恋愛
付き合って二年以上経つのにキスしかしてくれない紳士な彼氏に夜這いを仕掛けてみたら物凄く性欲をぶつけられた話。

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...