38 / 59
花火と風邪(禾牙魅編)2
しおりを挟む「線香花火って大好き。一生懸命燃えて、そして果てて」
「切ないか?」
禾牙魅さんに尋ねられて、わたしはかぶりを振った。
「ううん、そうは思わないよ」
「何故?」
「だって、短い間にこんなにキレイな光を見せてくれて。一生懸命だったから、短くても線香花火にとっても心残りないだろうし、やってる人間も嬉しいな楽しいなって思えるし」
「前向きだな。だが、そこまで思って線香花火をする人間もそういないと思うぞ」
突如、近くから派手な花火の音が上がる。
「わっ!?」
「架鞍か」
見ると、打ち上げ花火の第二弾を備え付けている架鞍くんの姿がある。
「ああ、邪魔した?」
こちらを向く架鞍くん。禾牙魅さんは小さくため息をついた。
「何の邪魔だ」
「別に」
「架鞍くん、そういうの好きなの? 意外」
わたしが興味深げに言うと、霞がさっきの麦茶とスイカを持ってきてくれた。
「昨日の花火のかわりになれる一番のものって架鞍なりに探したんじゃない? はい、麦茶とスイカ」
受け取って、麦茶を飲む。喉が潤っていく感覚に、酔いしれそうになる。
「この麦茶おいしい! あ、このスイカ種なしなんだ! 種って面倒だよね」
「苺ちゃん種なしスイカのほうが好きだと思ったからね。禾牙魅も架鞍もせっかくだから食べろよ」
禾牙魅さんと架鞍くんも、スイカに手を出す。
「あれ? 一応食べられるんだっけ?」
スイカを食べながら尋ねるわたしに、架鞍くんが答えてくれる。
「人間みたいな【満足】にはならないけどね」
そして二発目の花火を打ち上げる。
「あんた、スイカに塩かけるタイプ?」
「スイカに塩?」
どうだったっけ、と思い出してみる。
「たまにはかけるかな? 紀代美ちゃんがかけてるの見て、かけてみたらけっこう甘くて美味しかったから」
「紀代美ちゃん……ああ、高校の時からの友達だっけ」
「うんっ……てなんで知って……っ」
慌てたとたん、思い出す。
そうか。大体のことは調べ上げられちゃってるんだっけ。
すると、架鞍くんが笑った。
「あんたのその百面相、面白い」
「百面相なんてしてないっ!」
「はたから見てるとしてる」
「よっしゃ、ここらでいっちょ花火全部ぱーっと咲かせちまいましょうか」
準備運動でもするかのように、霞が指を鳴らす。
「火事にならないようにな」
注意を忘れない禾牙魅さん。花火全部って……まさか一度に? 見ていると、霞は地面に花火の残りを全部ばらまく。
「分かってるって。それじゃ、行っくぜ~!」
パチンと霞が指を鳴らすと、花火各種が一斉に光を放ち始めた。まるで電気をつけているほどの明るさで、小さなイルミネーションのようだった。
「キレイ……」
うっとり見惚れるわたしの横で、架鞍くんがつぶやく。
「霞ってホント派手好き」
しばらく見つめていたわたしは、突然襲ってきた寒気にくしゃみをした。
「風邪でも引いたか?」
禾牙魅さんが顔を覗き込んでくる。
「ん……わかんない。でも少し寒いかな?」
「大事を取って、ここら辺でお開きにしようか。花火も全部終わったことだし」
霞が言うと、闇に光の名残を残して、花火の最後の火が燃え尽きた。
「みんな今日はありがと! すっごく楽しかったよ!」
すっかりいい気分になって、わたしはそうお礼を言った、のだけれど。
◇
翌朝起きた時から、身体がだるかった。気のせいか、意識も朦朧としている。
なんだろう、やっぱり風邪でも引いたのかな。
それでも朝食をとろうとリビングへ行ったとたん、ぐらりと視界が傾いて──キッチンにいた霞が何か叫んだけれど、わたしの意識は闇の中に沈んでいった。
◇
わたしはそのあと、どうやら自分の部屋に連れてきてもらったらしくて。
気がつくと、ベッドの上で荒く息を吐いていた。
ちょっと苦しい……いつもの風邪よりも、ひどいみたい。
ふと気配を感じてうっすら目を開けると、タオルを持った禾牙魅さんがいた。
「か……がみ、さん」
「雨の中、あんなことをした俺が悪かった。お前に風邪を引かせてしまった」
途端、あの時の禾牙魅さんの息遣いまでも思い出して顔が火照る。
「やだ……思い出させないで」
「……背中の汗だけでも、拭かせてくれ」
言って禾牙魅さんは、わたしのパジャマを脱がせていく。辛うじて、胸を見られる前にうつぶせになることが出来た。そこで気づく。
「パジャマ……誰が着替えさせてくれたの……?」
「俺だ。心配するな、例によって“見て”はいないから」
「…………」
禾牙魅さんの手が、タオルを通してわたしの背中の汗を拭い取って行くのが分かる。時折、その手が止まる。
「禾牙魅さん……?」
「あの時俺がつけた赤い跡が……消えかかっているな」
そして同じ場所に口づけ、わたしの肌を吸った。
「あ、っ」
僅かな快感に、息苦しさに拍車がかかる。
「や……めて、禾牙魅さん……」
禾牙魅さんは前より強く口づけ、吸い上げる。痛いほどに吸われたと思ったら、優しく舌で舐められて、わたしは必死に声を堪えた。
禾牙魅さんはもう一度タオルで拭うと、パジャマを着せ直してくれる。
「本来ならお前の風邪も治してしまえるんだが……人間界に来ると、力の制限がつけられてしまう。それを破ると俺だけでなく色々なところに余波が来るからそれが出来ない。だがこの分ならぐっすり眠ればすぐに治りそうだな」
「ん……」
「それと、霞がプール券を買ってくるとか言っていたな。お前が元気になったら行けるようにと」
「行きたい……治る、かな」
「珍しく弱気だな。治る。安心して眠れ」
そして禾牙魅さんはわたしの額に手を当てる。魔法のようにわたしの意識は、今度は心地よく闇に落ちて行った。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる