鬼精王

希彗まゆ

文字の大きさ
上 下
37 / 59

花火と風邪(禾牙魅編)

しおりを挟む


翌日、禾牙魅さんとのことがあったおかげで、わたしは格段に機嫌がよかった。その夜のご飯は大好物のちらし寿司だったから、なおさらだ。

昨日……禾牙魅さんに触れてもらって、少しでも禾牙魅さんがわたしに興味持ってくれてるのかなって思えたし……。


「ごちそうさま! ちらし寿司美味しかった~!」

「喜んでもらえて嬉しいな~、お礼のキスは?」


すかさずタラシのような言葉を投げかけてくる霞は、スルーして立ち上がる。


「さー、お風呂でもはいろっかな」

「霞も懲りないね」


架鞍くんが相変わらず雑誌を眺めながら言う。それでも霞はめげない。


「苺ちゃん、キスのかわりにお風呂の前にいいことしない?」

「霞の【いいこと】って信用できない」

「これ、な~んだ」


霞は、花火セットを取り出してみせる。様々な花火が入った、豪華なセットだった。


「はなび!!」


たぶん今、わたしの目はキラキラ輝いているだろう。そんなわたしを見て、霞は言う。


「昨日、結局雨で花火中止になっちゃっただろ? だから、せめて庭でみんなでやろうかなって思ってさっき買ってきたんだ」

「【みんな】で?」


だるそうに言う架鞍くんと、


「俺は構わないが」


ソファから立ち上がる禾牙魅さん。


「架鞍くんやろうよ、みんなで花火、楽しいよ絶対!」


禾牙魅さんがからりとリビングの窓を開け、少し広めの庭を見る。


「芝生、と……あとは植物がけっこうあるな」

「蚊がいそうだよね……」


つぶやくわたしに、


「問題ないでしょ」


と架鞍くん。

霞が相槌を打った。


「そうそう、蚊なんて追い払う結界軽く作れるし」

「じゃあ、行こう!」


わたしたちは、玄関に向かった。

庭で花火なんて、久し振りだ。わたしは早速、はしゃぎながらやり始めた。

禾牙魅さんと架鞍くんは、見慣れない花火を物色したり、いじったりしている。霞が、お盆を持ってやってきた。


「麦茶とスイカだよ~、苺ちゃん、まだ食べられるでしょ?」

「うん! やっぱり花火には麦茶とスイカだよね!」


霞はわたしの隣に腰かけ、何か花火をごそごそしている。


「ところで苺ちゃん、スイカと梅干の食べ合わせが悪いって言われてるけど、本当だと思う?」

「え? えーと……」


急に質問されて、わたしは考える。


「迷信だと思うな。だって理由ハッキリ知らないし」


すると霞はニヤッと笑った。


「ハズレ。あのね、スイカ糖がクエン酸と結びついて、腸内細菌を活発にしちまうんだよ。だから、ここ壊しちゃったりするわけなんだな~」


そう言ってわたしのお腹に一瞬触れた。


「きゃっ! ちょっと霞っ! 花火落としちゃったじゃないっ!」

「苺ちゃんが知らなくても、俺がちゃんと知ってるからいい【お嫁さん】になるぜ俺。お買い得だぜ?」

「一千万円熨斗つけられてもゴメンだけどね」

「苺、この花火をやるからこっちに来い。霞もむやみに苺の身体に触るんじゃない」


禾牙魅さんが助け舟を出してくれる。


「禾牙魅さんありがとう。やっぱり禾牙魅さんが一番優しいよね」


禾牙魅さんのところに走っていくわたしの後ろで、霞が悪戯っぽい口調で声をかけてくる。


「禾牙魅ぃ、それってヤキモチ?」

「焼餅か。お望みなら今度俺が作ってお前に食わせてやろう」

「いい……。お前喉の奥まで俺の息詰まるまで無理矢理詰め込みそう……」


わたしは花火のパックを探って、禾牙魅さんを急かした。


「禾牙魅さん禾牙魅さん、禾牙魅さんもやるでしょ? 早くやろう!」

「ああ」


禾牙魅さんと一緒に、線香花火をやる。パチパチと小さく散る花火が可愛らしくもいじらしくも思える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優しい先輩に溺愛されるはずがめちゃくちゃにされた話

片茹で卵
恋愛
R18台詞習作。 片想いしている先輩に溺愛されるおまじないを使ったところなぜか押し倒される話。淡々S攻。短編です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜

船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】 お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。 表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。 【ストーリー】 見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。 会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。 手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。 親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。 いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる…… 托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。 ◆登場人物 ・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン ・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員 ・ 八幡栞  (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女 ・ 藤沢茂  (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...