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禾牙魅の事情と川の中での抱擁2
しおりを挟む「苺!?」
「あはは……流れも遅いし、底がそんなに深くなかったから大丈夫。ちょっとあちこち川底の石に当たっちゃって痛いけど……あ、浴衣もずぶ濡れ! あああ、せっかく架鞍くんに買ってもらったのに」
立ち上がるわたしの太股の半分辺りまで、川の水量はあった。
「苺、早く上がってこい」
「ね、やっぱり綺麗だよ、この川」
わたしは再び、光っている川面を見下ろす。ぱしゃ、と音がして禾牙魅さんまで川に入ってきたことに驚いた。
「禾牙魅さん? 禾牙魅さんまで濡れちゃうよ、どうしたの?」
禾牙魅さんは、振り向いたわたしを見つめていた。顔、首、肩、更にその下へと視線を移していく。その視線にわたしは初めて、禾牙魅さんがきっちり着つけてくれた浴衣が乱れていることや、肌にすっかり張り付いて身体のラインが出てしまっていることに気がついた。
「やだな、そんなふうに見られるとわたし、いくら相手が禾牙魅さんでも恥ずかしくなっちゃうよ」
禾牙魅さんの視線がわたしを真正面からとらえる。
「いくら相手が俺でもとは?」
「え、だから」
「俺が安全だと思っているのか?」
「だって禾牙魅さんはそんなこと、」
瞬間、禾牙魅さんはわたしの腕をつかんで引き寄せ、キスをしてきた。情熱的な、少し乱暴なキス。
「…………、」
長いキスのあと、わたしは二、三歩後ずさった。腕はまだ、それでも禾牙魅さんに掴まれたままだ。
「男に“絶対安心”はない、か。確かにそうだな」
「禾牙魅さんは、そういうのに興味ないと思ってた……」
呆然としながらのわたしに、禾牙魅さんは言う。
「相手による」
「え……?」
「【鬼精王】は性欲コントロールが出来るが、例外として、本気で愛した相手にはそれがきかなくなる。普通の人間の男の反応と何ら変わりがなくなる」
「誰でもいいわけじゃないの?」
「ああ」
最近禾牙魅さんに対して感じていた感情が、また襲ってくる。もしかしたら禾牙魅さんのことを好きなのかもしれない……というあの、ドキドキした感情に。たまらなくなって、無意識のうちに禾牙魅さんの浴衣から覗く胸元に口づけていた。
「苺?」
鎖骨に、胸の間に、それでも足りなくて浴衣をはだけさせ、現れた左胸の中心の突起に。
「苺……やめろ、っ」
その色っぽい声に陶酔したわたしの手が、自覚もなしに禾牙魅さんの下半身に下りる──触れる。浴衣越しでも分かる。いつからなのか、禾牙魅さんのそれは硬く──熱かった。
「よせ!」
苦しげな禾牙魅さんの強い声に、びくりとしてわたしは初めて我に返った。慌てて手を離す。
「……わ、わたし……。ご、ゴメン! ごめんなさい!」
「謝らなくていい、お前の手が穢れるからやめろと言ったんだ」
「わたしこそ、もう穢れてるよ。初めての時、身体に……かけられちゃったから」
「…………」
「わたし、自分でもわけわからないけど、すごく……なんていうのかな、禾牙魅さんに……感じてほしくなっちゃって……あ、わたし変なこと言ってるよね」
取り繕おうとすればするほど、墓穴を掘っていく気がして焦る。元カレとした初めての時のことまで思い出してしまって、虚しくなってきた。
「そ、それにこんな穢れちゃってるわたしなんかに触られても、感じるわけないよね、触ってほしくなんかないよね、……バカみたい、なんで気づかなかったんだろ……」
笑おうとしているのに、涙が勝手に流れ落ちる。
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