鬼精王

希彗まゆ

文字の大きさ
上 下
32 / 59

止められなくて

しおりを挟む


「あ、これ癒し系NO.1みたい、すっごい売上! ねえ、禾牙魅さんにはこういうの似合いそう……、」


昼間、CDショップ。

視聴していたわたしが振り向くと、いつもよりも少しだけオシャレな服を着た禾牙魅さんは相変わらずあちこちに視線をやっていた。そう、相変わらず──。


今日は珍しく禾牙魅さんのほうから「外に行こう」と誘われ、出てきたのだが……どの店に入っても、始終どこかへ神経を張り巡らせているのだ。


「禾牙魅さん」


再度呼びかけると、ようやく禾牙魅さんはわたしを見た。


「デパート行こ? いろんなものたくさん見るにはデパートが一番! もうずっと行ってなかったから」

「ああ」


そう答える禾牙魅さんの注意は、どこかよそへいっているようだ。わたしたちは場所をデパートへと変え、エレベーターに乗った。二人きりで他に聞いている人はいないので、思ったことを口にしてみる。


「【鬼精鬼】、探してるんだね」


歩きながらわたしが推測していたことを言うと、禾牙魅さんは黙り込み、「ああ」と答えた。


「そっか。それで誘ってくれたんだ」

「俺は」

「うん分かってる、わたしを気晴らししてくれることも考えて一石二鳥だって思ったんでしょ? じゃなくちゃ、わたしひとりだけ霞と架鞍くんに任せておいてくれればいいことだもんね」


すると禾牙魅さんは、ふっと微笑んだ。初めて、わたしの前で──。


「苺」

「禾牙魅さん……嬉しい、初めて笑ってくれた……」


感動に浸る間もなく、次の瞬間。

エレベーターがガクンと揺れ、薄暗くなって止まった。


「きゃあっ!」


なんで急に!? と疑問に思うより早く、禾牙魅さんが薄暗がりの中で怒りの表情を見せる。


「【鬼精鬼】!」

「え……【鬼精鬼】がやったの?」

「一瞬だが気配を感じた。一体何が目的でこんな、」


言葉の途中で、禾牙魅さんは息を止めて身体を折る。


「禾牙魅さん!?」

「……寄るなっ!」


駆け寄るわたしは突き飛ばされ、床に倒れ込んだ。打ちつけられた背中が痛い。わたしよりも、突き飛ばした禾牙魅さん自身が驚いているようだった。


「力の加減が……? 畜生、【鬼精鬼】が……俺を操ろうとしている……」

「操るって……どうなるの? 【鬼精鬼】は何を考えてるの?」


痛みを堪え、なんとか身体を起こすと禾牙魅さんは胸のあたりをぎゅっとつかみ、苦しげな表情をしていた。


「遊ぼうと……しているんだろう……」

「あそ、び……?」

「お前を……対象に」

「え……?」


禾牙魅さんが苦しげに息をつきながら、わたしに歩み寄ってくる。


「身体が……操られる、いうことをきかない……!」


どん、とわたしの両肩をつかんで壁に押し付け、力強く抱きしめる。息も出来ないほどに。間髪入れず、唇が塞がれた。強いキスにわたしは驚く。


「んぅっ……!」


すぐに唇は離れ、代わりに片手で声が出ないよう塞がれた。もう片方の手で乳房をつかみ、揉みしだきながら服の上から突起に口づける。


「……、」


禾牙魅さん、と言いたいのに声が出せない。


「こんなこと……こんなことでお前を抱きたくなんかないのに……!」


操られる苦しみにか荒い息をつきつつも、乱暴にスカートの中に手を忍ばせ、太股の内側、更にその奥へと指を進めながら首筋、うなじ、乳首、脇腹へと唇が愛撫を与えていく。


「ふ、ぅっう……」


こんなふうな状況で、なのに感じてしまうのがなぜか哀しくてわたしの瞳から涙があふれる。

禾牙魅さんの指が直接ショーツの下に入ってきて、花芽に触れる。わたしの身体がびくんと反応したのを確認したように、濡れた花芯に指が移動し、侵入してきた。

ふいに、禾牙魅さんの手がわたしの口から離れる。大きく息を吸い込んだけど、快感のため力がうまく入らない。


「禾牙魅さん……、!」


禾牙魅さんはわたしのスカートをたくしあげ、もう片方の手で足を開かせた。そして、ショーツの上から花芽に唇を当て、強く舌で愛撫をし始める。


「あっ、や、いや……こんなのいや……っ!」


わたしは力なく禾牙魅さんの頭を押さえたが、身体のほうは愛撫に正直に応え、太股にまで愛液が流れ出して来た。ずるずるとしゃがみこんですすり泣く。禾牙魅さんの愛撫が、そこで止まった。


「うあああああっ!!」


禾牙魅さんは、自らの腕の肉の一部を噛みちぎったのだ。


「禾牙魅さん!」


噴き出す血を、とっさにわたしは両手で抑える。はぁ、はぁと息をつき、汗びっしょりになりながら禾牙魅さんは小さく「やめろ」と言ったようだった。次第に息が整って行く禾牙魅さんを見て、わたしはそっと尋ねる。


「もう、操られて……ない?」

「ああ……。“追い出した”。……苺……すまない」

「禾牙魅さんのせいじゃないよ……」

「違う。俺に一瞬の隙があったんだ。俺が悪い」

「悪くないよ! き……もちよかったし」


わたしは急いで下を向く。頬が熱くなっている。禾牙魅さんが自分を見つめているのが分かって尚更恥ずかしかった。


「でも……こんなふうなのは、もうイヤだからねっ?」

「……ああ」


エレベーター内が明るくなり、動き出す。


「良かった……。医務室に寄らせてもらおう。ね?」

「そうだな。こんなに血塗れでは街中でも目立つ」

「無茶するんだから」

「俺がこうでもしないと、確実に最後までさせられていただろうからな」

「!」

「抱く時はちゃんと俺自身の意志で抱きたい」


禾牙魅さんのその言葉は、社交辞令? それとも……わたしだから言ってくれてるの? はっきり言ってくれないと、誤解してしまいそうだ。

わたしは高鳴る心臓を鎮めようとしたが、無駄だった。どうしよう。確実に禾牙魅さんに惹かれている──。


医務室で驚かれながらも手当てしてもらい、家に戻ってから更に霞と架鞍くんに質問攻めにあった禾牙魅さんは、エレベーターでわたしにしたことは言わずに【鬼精鬼】に操られたということだけを伝えていた。

わたしもなるべくなら知られたくなかったから、ありがたかった。


夜、お風呂からあがって部屋に戻り、髪を乾かしながら考える。

操られていたとはいえ、禾牙魅さんにあんなことをされて少しでも嬉しく思うなんて……わたしはおかしいんだろうか。


惚れっぽいのかも、と思う。

考えていたら、頭がもやもやしてきた。


「考えてても仕方ないか。好きなものは好き……なんだし」


もう、寝てしまおう。そう思って服を脱ぎ、寝間着に手をかけたその時。突然勢いよくドアが開いた。



【鬼精王Side】



「苺っ! 大丈夫か!?」

「えっ!?」


なぜか物凄い勢いで入ってきた禾牙魅だったが、苺が無事なことが分かって小さくため息をつく。


「またはめられた……霞の奴が、苺の体調が急変して俺を呼んでるとか言うから」

「へ?」

「ああ、着替え中だったのか。すまなかった」


苺は初めて自分のあられもない姿に気づいて真っ赤になったが、禾牙魅は何事もなかったように出て行こうとした。


「なんでそんなに冷静なの?」


赤くなりながらも、苺は不服そうにそう尋ねる。


「禾牙魅さんて女の人の身体とか見ても全然動じないの?」

「お前の体調が急変したとか言われなかったら、動じていたかもしれないな」

「み……たの?」

「見たのかもしれないが、もう思い出せない」

「……わたしって禾牙魅さんにとって着替えとか見てもなんてことない存在なんだ」


言ってしまったあと、やばいと思った苺だが、止まらない。


「禾牙魅さんのバカっ! 少しは動じてくれたっていいじゃない! わたしだって女なんだよ!?」

「苺……」

「出てってよ、早く出てって!」


(人の気も知らないで、この娘は……)


などと禾牙魅が考えているとは苺は思いもしない。ぎゅっと服で身体を隠して自己嫌悪に浸っている苺に背を向け、禾牙魅は今度こそ出て行った。

苺は寝間着を着て、ベッドに寝転がる。


「元カレの時は、こんな気持ちになったことなかったのに……」


すなわち元カレの時には本当の恋をしていなかったのだ、と苺が気づくのにはまだだいぶかかりそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優しい先輩に溺愛されるはずがめちゃくちゃにされた話

片茹で卵
恋愛
R18台詞習作。 片想いしている先輩に溺愛されるおまじないを使ったところなぜか押し倒される話。淡々S攻。短編です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

処理中です...