鬼精王

希彗まゆ

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架鞍の異変2

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「な、にするのっ!」


反射的に、架鞍くんの頬を叩く。

架鞍くんの切れた唇から一筋、血が形のいい顎を伝う。

彼は冷たい瞳で見下ろし、わたしの頬を叩き返した。


「!」


叩かれた頬が熱を持つ。

──架鞍くんがおかしい。もしかして【鬼精鬼】に操られでもしたのだろうか?

架鞍くんは片手でわたしの両手首をつかんで床に押し付ける。

わたしはリビングにいるはずのふたりに向けて叫んだ。


「か、霞っ……禾牙魅さん……、架鞍くんがおかし……!」

「無駄だよ。強い結界を張っておいたからしばらくは誰も入れないし向こうの声も何も聞こえないよ。たとえ【鬼精王】の二人でもね」


架鞍くんはそう言って、更に片手でわたしの服を引き裂いていく。


「やだ、いや、助けて!」

「だから」


わたしの顎をつかむ架鞍くんの瞳の色が、暗い。


「助けてやるって言ってんだろ。黙れよ」


口調まで変わっている。

架鞍くんは顎をつかんだまま、わたしの唇を自分のそれで塞いだ。噛みつくようなキス。


「……、……っ」


舌が侵入してくる。わたしは思わずそれを噛んだ。架鞍くんはちょっと顔を離し、もう一度口づけてきた。舌を再度入れて来つつ、空いているほうの手で前触れもなく花芯を探り、中指を入れてくる。


「っ……!」


まだ乾ききっているのに。しかも初体験の時の痛みもまだ脳が覚えている。

その隙を突かれ、舌を噛まれ返された。


「んっ!」


それだけでは架鞍くんは許してくれず、唇を食いちぎるかのように噛む。

わたしの唇からも、血が流れてくる。

架鞍くんはその血を舐め取りながら、片手をわたしの心臓の下に移動させる。

ぐっと爪を立て、傷をつけた。そこからもうっすらと血がにじみ出る感触がした。


「苦しいんでしょ? 俺の名前を言えよ」


架鞍くんの膝が足の間に割って入る。


「やめて、架鞍くん……」


急にどうして、こんなことするの……? せっかく仲良くなってきたと思ったのに。


「言えよ……」


苦いものでも噛んだような口調で、架鞍くんはつぶやく。

片手でつかまれていた両手首が外されたかと思うと、両方の腰骨に手を添えられていた。


「! やめて……!」


いくらわたしが架鞍くんに好意を持ち始めたといっても、恋愛のそれかどうかも分からない。仮に恋愛の「好き」だったとしても、こんなことをされたくなんかない。

哀しくて、視界が滲む。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて行く。

それでも架鞍くんはやめようとしなかった。


「俺が欲しいって言えよ!」

「い、や──っ……!!」


熱く滾るものがわたしの中に一息に突き込まれた。

愛撫もまったくなしに、無理矢理割り込んできたのだ。


​「痛い、痛いよっ……架鞍くん! やめて、……抜いて……!」


【鬼精虫】の暴れる痛みなどとうに忘れていた。それよりも数倍、そして初体験の時の数百倍もの痛みが凌駕していた。


「痛い? 痛いよね。ワザと痛くしてるんだから」


乱暴に架鞍くんが動き出す。


「!! ……やあっ!」

「苺……苺」


架鞍くんは一体今、どんな表情をしているのか。

初めて架鞍くんに自分の名前を呼ばれたことにも気づけないほどの痛みと強い振動に、気絶できないことをわたしは呪った。


バタンと扉の開く音。


「苺っ!」


禾牙魅、さんの……声。


「架鞍……お前何やってんだ!」


続いて、霞の声もする。


架鞍くんは二人が入ってくるのが分かっていたように、あっさりとわたしから離れた。

痛みで霞がかっている意識に、朦朧と三人のやり取りが聞こえてくる。


「そろそろ結界が破かれる頃だと思ってたけどね」


架鞍くんの言葉に、


「【鬼精虫】が暴れ出す気配がしたから来てみれば結界が張られていた。どういうことか説明しろ」


禾牙魅さんの責めるような質問。


「お前……そりゃ暴れる【鬼精虫】をおとなしくさせる方法のひとつに確かに、そいつが与える痛みより強い痛みを与えればいいってのはあるけどよ……こんなやり方あるかよ」


霞の声は、怒りを通り越してあきれているようだった。


「二人とも安心してよ。出してはいないから。ま……こんな女相手じゃ出るものも出ないけどね」

「架鞍……? お前……まさか苺ちゃんのこと本当は」
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