10 / 59
架鞍の異変2
しおりを挟む「な、にするのっ!」
反射的に、架鞍くんの頬を叩く。
架鞍くんの切れた唇から一筋、血が形のいい顎を伝う。
彼は冷たい瞳で見下ろし、わたしの頬を叩き返した。
「!」
叩かれた頬が熱を持つ。
──架鞍くんがおかしい。もしかして【鬼精鬼】に操られでもしたのだろうか?
架鞍くんは片手でわたしの両手首をつかんで床に押し付ける。
わたしはリビングにいるはずのふたりに向けて叫んだ。
「か、霞っ……禾牙魅さん……、架鞍くんがおかし……!」
「無駄だよ。強い結界を張っておいたからしばらくは誰も入れないし向こうの声も何も聞こえないよ。たとえ【鬼精王】の二人でもね」
架鞍くんはそう言って、更に片手でわたしの服を引き裂いていく。
「やだ、いや、助けて!」
「だから」
わたしの顎をつかむ架鞍くんの瞳の色が、暗い。
「助けてやるって言ってんだろ。黙れよ」
口調まで変わっている。
架鞍くんは顎をつかんだまま、わたしの唇を自分のそれで塞いだ。噛みつくようなキス。
「……、……っ」
舌が侵入してくる。わたしは思わずそれを噛んだ。架鞍くんはちょっと顔を離し、もう一度口づけてきた。舌を再度入れて来つつ、空いているほうの手で前触れもなく花芯を探り、中指を入れてくる。
「っ……!」
まだ乾ききっているのに。しかも初体験の時の痛みもまだ脳が覚えている。
その隙を突かれ、舌を噛まれ返された。
「んっ!」
それだけでは架鞍くんは許してくれず、唇を食いちぎるかのように噛む。
わたしの唇からも、血が流れてくる。
架鞍くんはその血を舐め取りながら、片手をわたしの心臓の下に移動させる。
ぐっと爪を立て、傷をつけた。そこからもうっすらと血がにじみ出る感触がした。
「苦しいんでしょ? 俺の名前を言えよ」
架鞍くんの膝が足の間に割って入る。
「やめて、架鞍くん……」
急にどうして、こんなことするの……? せっかく仲良くなってきたと思ったのに。
「言えよ……」
苦いものでも噛んだような口調で、架鞍くんはつぶやく。
片手でつかまれていた両手首が外されたかと思うと、両方の腰骨に手を添えられていた。
「! やめて……!」
いくらわたしが架鞍くんに好意を持ち始めたといっても、恋愛のそれかどうかも分からない。仮に恋愛の「好き」だったとしても、こんなことをされたくなんかない。
哀しくて、視界が滲む。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて行く。
それでも架鞍くんはやめようとしなかった。
「俺が欲しいって言えよ!」
「い、や──っ……!!」
熱く滾るものがわたしの中に一息に突き込まれた。
愛撫もまったくなしに、無理矢理割り込んできたのだ。
「痛い、痛いよっ……架鞍くん! やめて、……抜いて……!」
【鬼精虫】の暴れる痛みなどとうに忘れていた。それよりも数倍、そして初体験の時の数百倍もの痛みが凌駕していた。
「痛い? 痛いよね。ワザと痛くしてるんだから」
乱暴に架鞍くんが動き出す。
「!! ……やあっ!」
「苺……苺」
架鞍くんは一体今、どんな表情をしているのか。
初めて架鞍くんに自分の名前を呼ばれたことにも気づけないほどの痛みと強い振動に、気絶できないことをわたしは呪った。
バタンと扉の開く音。
「苺っ!」
禾牙魅、さんの……声。
「架鞍……お前何やってんだ!」
続いて、霞の声もする。
架鞍くんは二人が入ってくるのが分かっていたように、あっさりとわたしから離れた。
痛みで霞がかっている意識に、朦朧と三人のやり取りが聞こえてくる。
「そろそろ結界が破かれる頃だと思ってたけどね」
架鞍くんの言葉に、
「【鬼精虫】が暴れ出す気配がしたから来てみれば結界が張られていた。どういうことか説明しろ」
禾牙魅さんの責めるような質問。
「お前……そりゃ暴れる【鬼精虫】をおとなしくさせる方法のひとつに確かに、そいつが与える痛みより強い痛みを与えればいいってのはあるけどよ……こんなやり方あるかよ」
霞の声は、怒りを通り越してあきれているようだった。
「二人とも安心してよ。出してはいないから。ま……こんな女相手じゃ出るものも出ないけどね」
「架鞍……? お前……まさか苺ちゃんのこと本当は」
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説




ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。


年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる