星物語

秋長 豊

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第11章 友とともに

41、生きていた男

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 翌朝、エシルバが出勤すると屯所は静まり返っていた。いつもなら師のジグが来て今日一日の流れについて説明があるのに、この日は誰一人大人がいない。屯所のリビングでエシルバたちが師の到着を待っていると、それぞれの師が続々とやってきた。最後に入室したエレクンがみんなの前に立つと、こう声を掛けた。

「女王から緊急招集がかかった。それぞれ師に従い指定の場所まで速やかに移動すること。私からは以上だ」

 まさに突然のことだった。エシルバとウルベータはジグ、リフはルゼナン、ポリンチェロはアーガネル、それぞれ自分の師に従い無駄な会話はせずに移動を開始した。こんな重たい雰囲気は初めてだったのでみんな目は合わせども口は一切開こうとしなかった。
 一行が向ったのは大樹堂にある一一七階の王室だった。グリニアでさえも普段は立ち入ることのできない厳かな場所に、使節団総出で向かうなんて考えただけでも不思議なことだった。マンホベータを降りると天井の高いホールが現れ、中央の立派なイスには幕のかかった女王のイスがわずかに隠れて見えた。

「女王陛下がいらっしゃいます」
 イスの両脇に立っていた侍女の一人が静かにそう伝えた。エレクンは後ろに従う団員たちに目を向けてから、やがてゆっくりと現れた女王を前に膝をつき頭を下げた。エシルバたちも同じように深々と頭を下げた。

「皆さま、よくぞいらっしゃいました。そうあまり気を使わずにしてください。今回は特別なお願いがあってあなた方をお招きしたのですから」

 恐れ多くもゆっくりと頭を上げて前を見ると、開催式で遠目に見た女王が見事な伝統衣装を身にまといイスに鎮座していた。半透明の幕越しに女王の顔が見え、責任感と落ち着きを兼ね備えたりりしいご尊顔を見ることができた。一方で、広間の壁際で近衛師団が見張りをしているのを見る限り、ここで少しでも妙な行動を起こせば即刻殺されかねない張り詰めた雰囲気でもあった。

「まず、十年に一度のシクワ=ロゲン祭を無事に閉会することができたことをうれしく思っています。これも、祭りの運営に携わる一端として任務に当たってくださったあなた方のおかげ。心より、感謝申し上げます」

「身に過ぎて光栄なことです」エレクンは代表して短く答えた。

「本題に入りますが、私があなた方に直接お願いしたいことはトロレルへの派遣なのです。目的は銀の卵が発掘された地、ミセレベリーヨ空洞の調査。
 専門家会議を重ねた結果、守護者の怒りを開放するために必要な銀のつるぎがミセレベリーヨ空洞に隠されているという結論に至ったためです。大樹堂の地下で見つかった巨大なブユの石板から星宝と思われるものを得たエシルバ|スーが、長年謎に包まれていたこの空洞の秘密を解き明かすことを願います。
 ご存じの通り、シクワ=ロゲンは十数年後に衝突するアバロンの存在を機密情報として国民にはまだ公表していません。ですので、秘密りにトロレルへの派遣を遂行し、銀のつるぎを探し出すことを事の最優先事項として任務に当たっていただきたいのです」

 女王は意思のはっきりとした口調で伝えた。

「陛下」エレクンが口を開いた。

「どうぞ、使節団のエレクン」

「任務時期についてはどのようにお考えでしょうか」

「調査期間は本日から一カ月間。最長で二カ月までとします。出発は本日午後十一時、トロベム屋敷にタクシーを送るのでロッフルタフターミナルからシークレットロラッチャーで出立してください。それから、メンバーにヴィーラ|アリュードの同伴を命じます」

 王室の間にどよめきが起こり、大人たちは皆けげんそうな顔をしてお互いの顔を見合った。エシルバは以前使節団屯所に乗り込んできたメグロヴィンとオンブリンを思い出していた。ヴィーラ、つまりはあのメグロヴィンが? まったく理解ができなかった。

「お言葉ですが、女王陛下」

 ここで出てきたのはさっきまで壁に張り付いてした近衛師団副長のノルクス|ロゲンだった。女王の会話を遮るほど、彼は同様しており反発的な目をしていた。

「アリュードはもはや役人でもなければ国家機密を知る必要すらないではありませんか。それに、彼は十年前に姿を消したきり戻って来ないような無責任な人間。死んだのではありませんか? でなければ、あのダイワン同様裏ではジリー軍とつながっているかもしれません」

「彼は生きています」

 女王の言葉とともに後ろの扉がパッと開き、メグロヴィン|レーグリィ(ヴィーラ|アリュード)が入ってきた。これには使節団の団員たちもあ然として言葉を失い、ノルクスは亡霊でも見るように目を丸々とさせた。
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