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第10章 シクワ=ロゲン祭<閉幕>
39、閉幕
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シクワ=ロゲン祭も最終日を迎えると、役人の出入りしかない大樹堂の日常風景が恋しく思われるほどだ。警備の仕事もついに終わり、あとは閉会式を待つのみとなったエシルバはリフと大樹堂内の散策に乗り出した。
ポリンチェロはルバラーの最終講演に参加するそうで、誘っても断られてしまった。一般向けに設けられた「水面歩行体験」に行ってみると、ガインベルトではない市民向けの装備品で水面を歩く体験ができた。実習ではなく単なる遊びだったので、エシルバとリフは景品をかけたゲームバトルをして一時間以上も暇をつぶした。
閉会式までに残された四時間というタイムリミットの中、エシルバとリフはお祭りの総仕上げとして超人気屋内型アトラクションに参加することを決意した。
なぜ決意しなければいけないかというと、人気すぎて並ぶだけで半日はかかる上恐ろしく怖いホラー要素まであると聞いていたからだ。うわさのアトラクションは防衛相が国防の観点を取り入れて作った三日間限定の出し物で、大樹堂のフロアを丸々一つ使ったダンジョン型射的ゲームだ。
二人が覚悟を決めてアトラクションのあるフロアまで行くと、行列の後ろに立った一人の役人が「最後尾」というプラカードを手に持って整理券を配っていた。
「あなたたちはペア?」
「そうだよ」リフは答えた。
「じゃあ、三四五番目ね。基本的に敵は全方向から襲い掛かってくるからしっかりとチームワークを見せてちょうだいね」
「閉会式まで間に合うかな?」
エシルバがそう言う間にも人は次々と押し寄せ、一向に収まる気配はない。
「あと六時間もあるんだから余裕で間に合うさ、生きて帰れれば」
「不吉なこと言わないでよ」
人間、手持無沙汰でいれば考えなくてもいいことばかり考えてしまうものだ。列の半分ぐらいまで進んだところで二人のワクワク感は過ぎ、どうしようもなく不安でみじめったらしい気持ちに様変わりしてした。やっと入り口が見えたところで、出口から泣きながら出てくる幾つものグループを目の当たりにすることとなった。
いよいよ二人の出番が訪れた。頭に変なヘルメットとおもちゃのレーザー銃を持たせられ、ダンジョン内での簡単な説明を受けることになった。
「敵は全方向からあなたたちを襲ってきます。ダンジョン内は入りくんだ迷路のように続いており、薄暗いので足元には十分に気を付けてお進みください」
そう言って真っ暗なダンジョンに放り出された二人は、必要以上に肩を寄せ合い身長に歩を進めていった。
「足を踏まないでよ!」
エシルバは開始一分でそんな声を上げた。
「俺、踏んでないぞ。絶対に踏んでないぞ!」
リフの言う通り、エシルバの足を踏んだのはバーチャル映像の気持ち悪い顔のない人間だった。地面をはうように襲い掛かってきたそいつにめがけ、二人は無我夢中でレーザー銃を放った。顔のない人間は体力ゲージが減って消滅した。
「こんなもんがバーチャルで襲い掛かってくるなんて悪い冗談だぜ」リフは肩を激しく上下させて言った。「そもそもなんで君は踏まれたって分かったんだよ。いいや、そもそもなんで防衛相はこんなものつくったんだ。年齢制限くらいかけろよ!」
「先に進もう、ラスボスまで頑張るんだ」
「正気か? 序盤でこれなのにラスボスなんて想像しただけで発狂するよ」
でも、開始数分でギブアップなんて情けないにもほどがあるだろう。二人は改めて覚悟を決め、通路を進みだした。顔なし人間はその後も何人か現れたが、単体であることだけが唯一の救いだった。それなのに、分かれ道を右に進んで行ったところで前後を計七人もの顔なし人間が占拠したことでエシルバたちはついに命の危機を感じた。
「こんなのが人生最後の瞬間だなんて嫌だ! 父さん!」
リフは悲劇の最後を飾る役者のようなセリフを吐いた。二人はついにやつらの餌食となり、ゲームオーバーしたのだ。さんさんたる結果でげっそりしながらダンジョンの外に出た二人はベンチに腰掛けてジュースを乾杯した。
「さっきのはポリンチェロに言わないでくれよ、情けないなんて思われたくない」
リフはすっかりだらけながら言った。エシルバが何気なく近くの時計を見ると、午後七時をとっくに過ぎていることに気が付いて背筋も凍る思いだった。
「大変だ」エシルバは慌ててマナーモードにしていたゴイヤ=テブロを見た。「ジグから不在通知が十六件も入ってる」
二人は石造のようにかたまり、サァーッと顔から血の気が引いて真っ青になった。
「やっちまった! 女王が参加する閉会式に遅刻するなんて破門どころじゃない」
エシルバの脳裏に「言い訳」の文字が浮かびあがったが、罪悪感と誘惑の間でさまよった挙句とうとう口にすることができなかった。
「どうする? もう閉会式はとっくに始まってる」
エシルバは頭をかいてから数秒考え込んでから
「警備の問題で今更列には入れない。他の団員は今電話したって閉会式に参加してるから出られないだろうし、屯所には事務員くらいしかいない。とにかく、いつまでもここでじっとしてはいられないから会場には行こう!」と言った。
閉会式が行われているロッフルタフ大庭園に行くと、閉会の盛大なセレモニーが催されていた。なにせ、十年後の開催国であるトロレルに銀の卵を渡す儀式の前段階なのだ。会場の雰囲気は最高潮に達していたし、遅刻して醜態をさらすことしか頭になかった二人などちっぽけな存在にほかならなかった。
しかし、さすがにシブーたちが参列している場所にはセキュリティー問題上行けそうになかった。相変わらず罪悪感は拭えなかったが、列には入らないで役人スペースの隅の方で閉会式に参加することにした。
会場の巨大スクリーンにはトロレルの文化が集約された素晴らしい短編映像が流され、最後にはトロレルの国旗とアマクの国旗がスクリーンの前に掲げられた。壮大な音楽から穏やかな音楽へと音調が変わる中、トロレルのロエルダ女王とアマクのロッフルタフ女王が前に出てくると拍手が巻き起こった。ロッフルタフ女王の手には銀の卵が抱かれており、拍手が収まってからロエルダ女王に贈呈された。
ポリンチェロはルバラーの最終講演に参加するそうで、誘っても断られてしまった。一般向けに設けられた「水面歩行体験」に行ってみると、ガインベルトではない市民向けの装備品で水面を歩く体験ができた。実習ではなく単なる遊びだったので、エシルバとリフは景品をかけたゲームバトルをして一時間以上も暇をつぶした。
閉会式までに残された四時間というタイムリミットの中、エシルバとリフはお祭りの総仕上げとして超人気屋内型アトラクションに参加することを決意した。
なぜ決意しなければいけないかというと、人気すぎて並ぶだけで半日はかかる上恐ろしく怖いホラー要素まであると聞いていたからだ。うわさのアトラクションは防衛相が国防の観点を取り入れて作った三日間限定の出し物で、大樹堂のフロアを丸々一つ使ったダンジョン型射的ゲームだ。
二人が覚悟を決めてアトラクションのあるフロアまで行くと、行列の後ろに立った一人の役人が「最後尾」というプラカードを手に持って整理券を配っていた。
「あなたたちはペア?」
「そうだよ」リフは答えた。
「じゃあ、三四五番目ね。基本的に敵は全方向から襲い掛かってくるからしっかりとチームワークを見せてちょうだいね」
「閉会式まで間に合うかな?」
エシルバがそう言う間にも人は次々と押し寄せ、一向に収まる気配はない。
「あと六時間もあるんだから余裕で間に合うさ、生きて帰れれば」
「不吉なこと言わないでよ」
人間、手持無沙汰でいれば考えなくてもいいことばかり考えてしまうものだ。列の半分ぐらいまで進んだところで二人のワクワク感は過ぎ、どうしようもなく不安でみじめったらしい気持ちに様変わりしてした。やっと入り口が見えたところで、出口から泣きながら出てくる幾つものグループを目の当たりにすることとなった。
いよいよ二人の出番が訪れた。頭に変なヘルメットとおもちゃのレーザー銃を持たせられ、ダンジョン内での簡単な説明を受けることになった。
「敵は全方向からあなたたちを襲ってきます。ダンジョン内は入りくんだ迷路のように続いており、薄暗いので足元には十分に気を付けてお進みください」
そう言って真っ暗なダンジョンに放り出された二人は、必要以上に肩を寄せ合い身長に歩を進めていった。
「足を踏まないでよ!」
エシルバは開始一分でそんな声を上げた。
「俺、踏んでないぞ。絶対に踏んでないぞ!」
リフの言う通り、エシルバの足を踏んだのはバーチャル映像の気持ち悪い顔のない人間だった。地面をはうように襲い掛かってきたそいつにめがけ、二人は無我夢中でレーザー銃を放った。顔のない人間は体力ゲージが減って消滅した。
「こんなもんがバーチャルで襲い掛かってくるなんて悪い冗談だぜ」リフは肩を激しく上下させて言った。「そもそもなんで君は踏まれたって分かったんだよ。いいや、そもそもなんで防衛相はこんなものつくったんだ。年齢制限くらいかけろよ!」
「先に進もう、ラスボスまで頑張るんだ」
「正気か? 序盤でこれなのにラスボスなんて想像しただけで発狂するよ」
でも、開始数分でギブアップなんて情けないにもほどがあるだろう。二人は改めて覚悟を決め、通路を進みだした。顔なし人間はその後も何人か現れたが、単体であることだけが唯一の救いだった。それなのに、分かれ道を右に進んで行ったところで前後を計七人もの顔なし人間が占拠したことでエシルバたちはついに命の危機を感じた。
「こんなのが人生最後の瞬間だなんて嫌だ! 父さん!」
リフは悲劇の最後を飾る役者のようなセリフを吐いた。二人はついにやつらの餌食となり、ゲームオーバーしたのだ。さんさんたる結果でげっそりしながらダンジョンの外に出た二人はベンチに腰掛けてジュースを乾杯した。
「さっきのはポリンチェロに言わないでくれよ、情けないなんて思われたくない」
リフはすっかりだらけながら言った。エシルバが何気なく近くの時計を見ると、午後七時をとっくに過ぎていることに気が付いて背筋も凍る思いだった。
「大変だ」エシルバは慌ててマナーモードにしていたゴイヤ=テブロを見た。「ジグから不在通知が十六件も入ってる」
二人は石造のようにかたまり、サァーッと顔から血の気が引いて真っ青になった。
「やっちまった! 女王が参加する閉会式に遅刻するなんて破門どころじゃない」
エシルバの脳裏に「言い訳」の文字が浮かびあがったが、罪悪感と誘惑の間でさまよった挙句とうとう口にすることができなかった。
「どうする? もう閉会式はとっくに始まってる」
エシルバは頭をかいてから数秒考え込んでから
「警備の問題で今更列には入れない。他の団員は今電話したって閉会式に参加してるから出られないだろうし、屯所には事務員くらいしかいない。とにかく、いつまでもここでじっとしてはいられないから会場には行こう!」と言った。
閉会式が行われているロッフルタフ大庭園に行くと、閉会の盛大なセレモニーが催されていた。なにせ、十年後の開催国であるトロレルに銀の卵を渡す儀式の前段階なのだ。会場の雰囲気は最高潮に達していたし、遅刻して醜態をさらすことしか頭になかった二人などちっぽけな存在にほかならなかった。
しかし、さすがにシブーたちが参列している場所にはセキュリティー問題上行けそうになかった。相変わらず罪悪感は拭えなかったが、列には入らないで役人スペースの隅の方で閉会式に参加することにした。
会場の巨大スクリーンにはトロレルの文化が集約された素晴らしい短編映像が流され、最後にはトロレルの国旗とアマクの国旗がスクリーンの前に掲げられた。壮大な音楽から穏やかな音楽へと音調が変わる中、トロレルのロエルダ女王とアマクのロッフルタフ女王が前に出てくると拍手が巻き起こった。ロッフルタフ女王の手には銀の卵が抱かれており、拍手が収まってからロエルダ女王に贈呈された。
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