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第10章 シクワ=ロゲン祭<閉幕>
38、三大国美食フェスティバル
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夜、それとも朝だろうか? エシルバが目を覚ましたのはガインベルトカップ初戦の全日程が終了した夜の十時だった。エシルバにしてみればもう三日も眠りについていたような感覚だったが、窓の外から漏れるさわがしい街の光を見るにシクワ=ロゲン祭は終わっていようだ。さらに、屯所の床には薄い毛布を掛けて眠るリフやポリンチェロ、カヒィがいた。
エシルバが包帯でぐるぐる巻きにされた額にできたたんこぶがをさすっていると、薄暗い室内で夜食を食べるレグニーと目があった。
「シー。みんな、寝かせておいてあげよう」
「試合はどうなったの?」
「君が途中棄権でジュビオレノークは二戦目を棄権した。いや、させられたといったほうがいいのか」
「あんなもの、試合とは言わない。他のチームは違反もなかったけど、青少年師団のメンバーは目立っていた。彼らは誰かに言わされてあんなことを?」
「みんな怒っていたよ、どうやら審判が買収されていたようだ]
エシルバは失望した。「誰が?」
「内密な捜査が行われているが、これはおそらく内部の関係者による仕組まれたことだ」
「じゃあ、すぐに悪い人は見つかるんだね」
「分からない。どこかでそんたくが働くかもしれない」
二重に失望するくらいなら、むしろ聞かない方が幸せだったとエシルバは思った。
「シブーは公平であるべきじゃないの?」
公平という言葉にレグビーはひどく落ち込んだ様子でうつむき、実に楽しくなさそうに夜食の木の実をむさぼった。「その通りさ」
翌朝、エシルバはさっそくリフたちに昨日の出来事をさんざん言われるはめになった。
「役人主体の大会でこんなことがまかり通るなら、正義って一体なんのためにあるのか分からないわ」ポリンチェロはきつい言葉を吐いた。
「君とジュビオが棄権すれば、使節団の望みはもういない! エシルバなら十二歳以下の部で上位入賞できると思ったのに、これじゃああまりに理不尽ってもんだ」
プンプン怒るリフの横で、エシルバは昨日の出来事を思い出しながら口を開いた。
「青少年師団の選手はなにか隠しているみたいだった。違反にはならないことを知っていたみたいだし、なにか強力な口止め料みたいなのをもらっていたに違いないよ」
「汚いやつら!」リフはまた憤慨した。「やってることは汚職にまみれた政治家同然じゃないか」
「ガインベルトカップは最後まで続けるみたいだし、どちらにせよ私たちの出番はないはずよ。なんだかすっきりしないけど、気分を変えて残り二日間を乗り切りましょう」
エシルバたちが密になって話し込んでいるところに、ダントとカヒィが屋台の料理を両手に持ちながら現れた。美味しそうな香りにおなかを鳴らした三人は、ここでようやく自分たちが朝ご飯も食べずにいたことを思い出した。
「君たちも美食フェスティバルに行っておいでよ。美味しそうなものばっかりで迷っちゃうくらい、たくさん出店が出てるんだ。早いもの勝ちのところもあるから、午前中に行くことをお勧めするよ」ダントはそうご機嫌に教えてくれた。
三大国美食フェスティバルと旗が掲げられた会場にたどり着いた三人は、想像以上の人の多さに圧倒された。朝食を済まそうとする役人が多いかと思いきや、一般人が半数を占めていたことには驚いたものだ。
会場に所せましと並ぶ屋台は三大国から集まった選りすぐりの味どころばかりで――ホカホカと湯気の立ちあがる大量のまんじゅう、甘辛く炒めた幼虫の炒め物、果物酒で野菜と肉をクツクツと煮込んだスープ、ぶつ切りに切った魚を皮ごとハーブ、ミルクと香辛料で一緒に煮込んだ家庭風料理、卵そぼろと地鶏の燻製が乗った香り豊かな弁当、種類豊富な魚介類をツボ漬けにしてオーブンで焼いた料理、海豆のつぶし練り焼き……など、三大国の食文化が一堂に会している。
じっくり吟味しながらお店を見て回る四十分間は、三人にとってこの上ない幸せだった。やがて、両腕いっぱいに買い占めた三人はうじゃうじゃいる人だかりの中から頭三つ分も飛び出た大きな男を見つけた。
「ブルウンドも来てたんだね、さすが料理研究科!」リフが声を掛けた。
「こんなに素晴らしい食の祭典に来ないのは大損に違いない! 奥で開いてる市場をぶらぶらと散策しててな、いい食材があったから仕入れたところだった。それにしても、昨日はとんだとばっちりを受けたな、エシルバ。もう調子は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「それはよかった。まぁ、あんまり無理せずにな」
そう言うブルウンドの声は、シクワ=ロゲン祭が無事に終わることを願っているようだった。三人は屯所に戻ってから屋台で買った朝ご飯を食べ、それぞれ仕事に移った。エシルバとリフは銀の卵の警備に戻り、これといった事件も起こらないまま二日目の任務は終わった。
エシルバが包帯でぐるぐる巻きにされた額にできたたんこぶがをさすっていると、薄暗い室内で夜食を食べるレグニーと目があった。
「シー。みんな、寝かせておいてあげよう」
「試合はどうなったの?」
「君が途中棄権でジュビオレノークは二戦目を棄権した。いや、させられたといったほうがいいのか」
「あんなもの、試合とは言わない。他のチームは違反もなかったけど、青少年師団のメンバーは目立っていた。彼らは誰かに言わされてあんなことを?」
「みんな怒っていたよ、どうやら審判が買収されていたようだ]
エシルバは失望した。「誰が?」
「内密な捜査が行われているが、これはおそらく内部の関係者による仕組まれたことだ」
「じゃあ、すぐに悪い人は見つかるんだね」
「分からない。どこかでそんたくが働くかもしれない」
二重に失望するくらいなら、むしろ聞かない方が幸せだったとエシルバは思った。
「シブーは公平であるべきじゃないの?」
公平という言葉にレグビーはひどく落ち込んだ様子でうつむき、実に楽しくなさそうに夜食の木の実をむさぼった。「その通りさ」
翌朝、エシルバはさっそくリフたちに昨日の出来事をさんざん言われるはめになった。
「役人主体の大会でこんなことがまかり通るなら、正義って一体なんのためにあるのか分からないわ」ポリンチェロはきつい言葉を吐いた。
「君とジュビオが棄権すれば、使節団の望みはもういない! エシルバなら十二歳以下の部で上位入賞できると思ったのに、これじゃああまりに理不尽ってもんだ」
プンプン怒るリフの横で、エシルバは昨日の出来事を思い出しながら口を開いた。
「青少年師団の選手はなにか隠しているみたいだった。違反にはならないことを知っていたみたいだし、なにか強力な口止め料みたいなのをもらっていたに違いないよ」
「汚いやつら!」リフはまた憤慨した。「やってることは汚職にまみれた政治家同然じゃないか」
「ガインベルトカップは最後まで続けるみたいだし、どちらにせよ私たちの出番はないはずよ。なんだかすっきりしないけど、気分を変えて残り二日間を乗り切りましょう」
エシルバたちが密になって話し込んでいるところに、ダントとカヒィが屋台の料理を両手に持ちながら現れた。美味しそうな香りにおなかを鳴らした三人は、ここでようやく自分たちが朝ご飯も食べずにいたことを思い出した。
「君たちも美食フェスティバルに行っておいでよ。美味しそうなものばっかりで迷っちゃうくらい、たくさん出店が出てるんだ。早いもの勝ちのところもあるから、午前中に行くことをお勧めするよ」ダントはそうご機嫌に教えてくれた。
三大国美食フェスティバルと旗が掲げられた会場にたどり着いた三人は、想像以上の人の多さに圧倒された。朝食を済まそうとする役人が多いかと思いきや、一般人が半数を占めていたことには驚いたものだ。
会場に所せましと並ぶ屋台は三大国から集まった選りすぐりの味どころばかりで――ホカホカと湯気の立ちあがる大量のまんじゅう、甘辛く炒めた幼虫の炒め物、果物酒で野菜と肉をクツクツと煮込んだスープ、ぶつ切りに切った魚を皮ごとハーブ、ミルクと香辛料で一緒に煮込んだ家庭風料理、卵そぼろと地鶏の燻製が乗った香り豊かな弁当、種類豊富な魚介類をツボ漬けにしてオーブンで焼いた料理、海豆のつぶし練り焼き……など、三大国の食文化が一堂に会している。
じっくり吟味しながらお店を見て回る四十分間は、三人にとってこの上ない幸せだった。やがて、両腕いっぱいに買い占めた三人はうじゃうじゃいる人だかりの中から頭三つ分も飛び出た大きな男を見つけた。
「ブルウンドも来てたんだね、さすが料理研究科!」リフが声を掛けた。
「こんなに素晴らしい食の祭典に来ないのは大損に違いない! 奥で開いてる市場をぶらぶらと散策しててな、いい食材があったから仕入れたところだった。それにしても、昨日はとんだとばっちりを受けたな、エシルバ。もう調子は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「それはよかった。まぁ、あんまり無理せずにな」
そう言うブルウンドの声は、シクワ=ロゲン祭が無事に終わることを願っているようだった。三人は屯所に戻ってから屋台で買った朝ご飯を食べ、それぞれ仕事に移った。エシルバとリフは銀の卵の警備に戻り、これといった事件も起こらないまま二日目の任務は終わった。
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