星物語

秋長 豊

文字の大きさ
上 下
85 / 90
第10章 シクワ=ロゲン祭<閉幕>

38、三大国美食フェスティバル

しおりを挟む
 夜、それとも朝だろうか? エシルバが目を覚ましたのはガインベルトカップ初戦の全日程が終了した夜の十時だった。エシルバにしてみればもう三日も眠りについていたような感覚だったが、窓の外から漏れるさわがしい街の光を見るにシクワ=ロゲン祭は終わっていようだ。さらに、屯所の床には薄い毛布を掛けて眠るリフやポリンチェロ、カヒィがいた。

 エシルバが包帯でぐるぐる巻きにされた額にできたたんこぶがをさすっていると、薄暗い室内で夜食を食べるレグニーと目があった。

「シー。みんな、寝かせておいてあげよう」

「試合はどうなったの?」

「君が途中棄権でジュビオレノークは二戦目を棄権した。いや、させられたといったほうがいいのか」

「あんなもの、試合とは言わない。他のチームは違反もなかったけど、青少年師団のメンバーは目立っていた。彼らは誰かに言わされてあんなことを?」

「みんな怒っていたよ、どうやら審判が買収されていたようだ]

 エシルバは失望した。「誰が?」

「内密な捜査が行われているが、これはおそらく内部の関係者による仕組まれたことだ」

「じゃあ、すぐに悪い人は見つかるんだね」

「分からない。どこかでそんたくが働くかもしれない」

 二重に失望するくらいなら、むしろ聞かない方が幸せだったとエシルバは思った。

「シブーは公平であるべきじゃないの?」

 公平という言葉にレグビーはひどく落ち込んだ様子でうつむき、実に楽しくなさそうに夜食の木の実をむさぼった。「その通りさ」

 翌朝、エシルバはさっそくリフたちに昨日の出来事をさんざん言われるはめになった。

「役人主体の大会でこんなことがまかり通るなら、正義って一体なんのためにあるのか分からないわ」ポリンチェロはきつい言葉を吐いた。

「君とジュビオが棄権すれば、使節団の望みはもういない! エシルバなら十二歳以下の部で上位入賞できると思ったのに、これじゃああまりに理不尽ってもんだ」

 プンプン怒るリフの横で、エシルバは昨日の出来事を思い出しながら口を開いた。

「青少年師団の選手はなにか隠しているみたいだった。違反にはならないことを知っていたみたいだし、なにか強力な口止め料みたいなのをもらっていたに違いないよ」

「汚いやつら!」リフはまた憤慨した。「やってることは汚職にまみれた政治家同然じゃないか」

「ガインベルトカップは最後まで続けるみたいだし、どちらにせよ私たちの出番はないはずよ。なんだかすっきりしないけど、気分を変えて残り二日間を乗り切りましょう」

 エシルバたちが密になって話し込んでいるところに、ダントとカヒィが屋台の料理を両手に持ちながら現れた。美味しそうな香りにおなかを鳴らした三人は、ここでようやく自分たちが朝ご飯も食べずにいたことを思い出した。

「君たちも美食フェスティバルに行っておいでよ。美味しそうなものばっかりで迷っちゃうくらい、たくさん出店が出てるんだ。早いもの勝ちのところもあるから、午前中に行くことをお勧めするよ」ダントはそうご機嫌に教えてくれた。

 三大国美食フェスティバルと旗が掲げられた会場にたどり着いた三人は、想像以上の人の多さに圧倒された。朝食を済まそうとする役人が多いかと思いきや、一般人が半数を占めていたことには驚いたものだ。

 会場に所せましと並ぶ屋台は三大国から集まった選りすぐりの味どころばかりで――ホカホカと湯気の立ちあがる大量のまんじゅう、甘辛く炒めた幼虫の炒め物、果物酒で野菜と肉をクツクツと煮込んだスープ、ぶつ切りに切った魚を皮ごとハーブ、ミルクと香辛料で一緒に煮込んだ家庭風料理、卵そぼろと地鶏の燻製が乗った香り豊かな弁当、種類豊富な魚介類をツボ漬けにしてオーブンで焼いた料理、海豆のつぶし練り焼き……など、三大国の食文化が一堂に会している。

 じっくり吟味しながらお店を見て回る四十分間は、三人にとってこの上ない幸せだった。やがて、両腕いっぱいに買い占めた三人はうじゃうじゃいる人だかりの中から頭三つ分も飛び出た大きな男を見つけた。

「ブルウンドも来てたんだね、さすが料理研究科!」リフが声を掛けた。

「こんなに素晴らしい食の祭典に来ないのは大損に違いない! 奥で開いてる市場をぶらぶらと散策しててな、いい食材があったから仕入れたところだった。それにしても、昨日はとんだとばっちりを受けたな、エシルバ。もう調子は大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ」

「それはよかった。まぁ、あんまり無理せずにな」

 そう言うブルウンドの声は、シクワ=ロゲン祭が無事に終わることを願っているようだった。三人は屯所に戻ってから屋台で買った朝ご飯を食べ、それぞれ仕事に移った。エシルバとリフは銀の卵の警備に戻り、これといった事件も起こらないまま二日目の任務は終わった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結!】ぼくらのオハコビ竜 ーあなたの翼になりましょうー

Sirocos(シロコス)
児童書・童話
『絵本・児童書大賞(君とのきずな児童書賞)』にエントリーしている作品になります。 皆さまどうぞ、応援くださいませ!!ペコリ(o_ _)o)) 【本作は、アルファポリスきずな文庫での出版を目指して、本気で執筆いたしました。最後までどうぞお読みください!>^_^<】 君は、『オハコビ竜』を知っているかな。かれらは、あの空のむこうに存在する、スカイランドと呼ばれる世界の竜たち。不思議なことに、優しくて誠実な犬がまざったような、世にも奇妙な姿をしているんだ。 地上界に住む君も、きっとかれらの友達になりたくなるはず! 空の国スカイランドを舞台に、オハコビ竜と科学の力に導かれ、世にも不思議なツアーがはじまる。 夢と楽しさと驚きがいっぱい! 竜と仮想テクノロジーの世界がミックスした、ドラゴンSFファンタジー! (本作は、小説家になろうさん、カクヨムさんでも掲載しております)

あいうえおぼえうた

なるし温泉卿
児童書・童話
 五十音(ごじゅうおん)を たのしく おぼえよう。  あいうえ「お」のおほしさま ころんと そらに とんでいる。 さてさて、どこへいくのかな? 五十音表と共に、キラキラ星の音程で歌いながら「ひらがな」をたのしく覚えちゃおう。 歌う際は「 」の部分を強調してみてね。 *もともとは「ひらがな」にあまり興味のなかった自分の子にと作った歌がはじまりのお話です。  楽しく自然に覚える、興味を持つ事を第一にしています。 1話目は「おぼえうた」2話目は、寝かしつけ童話となっています。  2話目の◯◯ちゃんの部分には、ぜひお子様のお名前を入れてあげてください。 よろしければ、おこさんが「ひらがな」を覚える際などにご利用ください。

セプトクルール『すぐるとリリスの凸凹大進撃!』

マイマイン
児童書・童話
 『引っ込み思案な魔法使い』の少年すぐると、『悪魔らしくない悪魔』の少女リリスの凸凹カップルが贈る、ドタバタファンタジー短編集です。 このシリーズには、終わりという終わりは存在せず、章ごとの順番も存在しません。 随時、新しい話を載せていきますので、楽しみにしていてください。

アイラと神のコンパス

ほのなえ
児童書・童話
自称鼻のきく盗賊サルマは、お宝の匂いを辿り、メリス島という小さな島にやってくる。そこで出会った少女、アイラからはお宝の匂いがして……そのアイラの家にあったコンパスは、持ち主の行くべき場所を示すという不思議なものだった。 そのコンパスの話を聞いて、針の示す方向を目指して旅に出ることを決意するアイラに対し、サルマはコンパスを盗む目的でアイラの旅に同行することを決めたのだが…… 不思議なコンパスを手に入れた二人が大海原を駆け巡り、いくつもの島を訪れ様々な人々に出会い、 やがて世界に差し迫る危機に立ち向かう…そんな冒険の物語。 ※本文は完結しました!挿絵は順次入れていきます(現在第8話まで挿絵あり) ※この作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています(カクヨムは完結済、番外編もあり)

その答えは恋文で

百川凛
児童書・童話
あの手紙を拾ったことが、全ての始まりだったのだ。 「成瀬さん、俺の彼女になってみない?」 「全力でお断りさせて頂きます」 「ははっ。そう言うと思った」 平岡くんの冗談を、私は確かに否定した。 ──それなのに、私が平岡くんの彼女ってどういうこと? ちょっと待ってよ、ウソでしょう?

グリフォンとちいさなトモダチ

Lesewolf
児童書・童話
 とある世界(せかい)にある、童話(どうわ)のひとつです。  グリフォンという生き物(いきもの)と、ちいさな友達(ともだち)たちとのおはなしのようなものです。  グリフォンがトモダチと世界中(せかいじゅう)をめぐって冒険(ぼうけん)をするよ!  よみにくかったら、おしえてね。 ◯グリフォン……とおいとおい世界《せかい》からやってきたグリフォンという生《い》き物《もの》の影《かげ》。鷲《わし》のような頭《あたま》を持《も》ち、おおきなおおきな翼《つばさ》をもった獅子《しし》(ライオン)の胴体《どうたい》を持《も》っている。  鷲《わし》というおおきなおおきな鳥《とり》に化けることができる、その時《とき》の呼《よ》び名《な》はワッシー。 ◯アルブレヒト……300年《ねん》くらい生《い》きた子供《こども》の竜《りゅう》、子《こ》ドラゴンの影《かげ》。赤毛《あかげ》の青年《せいねん》に化《ば》けることができるが、中身《なかみ》はかわらず、子供《こども》のまま。  グリフォンはアルブレヒトのことを「りゅうさん」と呼《よ》ぶが、のちに「アル」と呼《よ》びだした。  影《かげ》はドラゴンの姿《すがた》をしている。 ☆レン……地球《ちきゅう》生《う》まれの|白銀《はくぎん》の少《すこ》しおおきな狐《きつね》。背中《せなか》に黒《くろ》い十字架《じゅうじか》を背負《せお》っている。いたずら好《ず》き。  白髪《はくはつ》の女性《じょせい》に化《ば》けられるが、湖鏡《みずうみかがみ》という特別《とくべつ》な力《ちから》がないと化《ば》けられないみたい。 =====  わからない言葉(ことば)や漢字(かんじ)のいみは、しつもんしてね。  おへんじは、ちょっとまってね。 =====  この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。  げんじつには、ないとおもうよ! =====  アルファポリス様、Nolaノベル様、カクヨム様、なろう様にて投稿中です。 ※別作品の「暁の荒野」、「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 =====

鬼の叩いた太鼓

kabu
児童書・童話
優しい性格のために悪さを働けない鬼の黄平は、鬼の住む山里を追放されてしまう。 ひとりさ迷っているときに、山の主である白い大蛇に出会い、 山の未来のためにひと月の間、太鼓を奉納してほしいとお願いをされる。 不眠不休で太鼓をたたく、その命がけの奉納の果てには……。

台風ヤンマ

関谷俊博
児童書・童話
台風にのって新種のヤンマたちが水びたしの町にやってきた! ぼくらは旅をつづける。 戦闘集団を見失ってしまった長距離ランナーのように……。 あの日のリンドバーグのように……。

処理中です...