星物語

秋長 豊

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第10章 シクワ=ロゲン祭<閉幕>

37、不正

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 会場である大樹堂五十階の闘技場に着くと、さっそく観客たちの歓声や熱気が伝わってきた。試合自体は午前十時から始まっているため、一日目のトーナメントは半分ほど終了していた。

「俺、上で応援してるから! 頑張れよ」

 エシルバはリフと別れて選手控室に向かった。十二歳以下の部ということもあり、同じ背丈の男の子しかいなかった。知らない顔ばかりなので肩身が狭くなっていると、奥のイスでストレッチ中のジュビオレノークを発見した。こんな時に見る彼は数少ないよりどころのように思え、話し掛けずにはいられなかった。

「もしかして、この次の試合?」

「あぁ、そうだ。君はまだ三十分以上も時間があるんだから、入念に負けないための準備でもしていたらいいさ」

 そう言うと、ジュビオレノークはさっさと控室を後にしてしまった。いつもならもっとあおり文句を言ってくるはずなのに、今日の彼はなんだかしおらしい。それもこれも、エシルバが実習で彼を負かしたせいなのかと思ったが、そんなことで慢心するようではジグに笑われてしまうと思った。

 ジュビオレノークの相手は青少年師団の同い年だった。彼の試合状況は中継映像で確認できたので、エシルバは自分の出番を待ちながら様子を見守ることにした。こうして大規模な試合風景を見ることはなかなかなかったので、選手の動作一つとっても新鮮でハラハラするものだった。

 開始十分が経過し、ある異変が起こった。相手選手が動作を誤ったのかジュビオレノークの顔に一撃を食らわせてしまったのだ。これにが観客席からも困惑する声が上がったが、審判は様子をみてから続行の合図を送った。試合は続くが、相手選手は明らかに狙ってやったとしか思えない剣の突きで今度はジュビオの首元をかすった。

「今のは違反だ!」

 エシルバが近くにいた男の子に訴え掛けると、彼はわれ関せずといった感じで肩をすくめた。

「どうして試合を中止しないんだ! ねぇ、あんなのおかしいよ」

 わけも分からず頭を抱えていると、後半戦でうまく巻き返したジュビオレノークがポイントを決めてけん制に成功した。嫌な相手だとはいえ、ルール違反を黙って見過ごすことはできない。そうこうしているうちに試合は終わり、鼻血にまみれた鼻をタオルで押さえながら控室に戻ってきた。

「どういうつもり?」

 カンカンに怒ったエシルバを見たジュビオレノークは、やけに冷めた口調でこう言った。

「勝ったんだから問題ないだろ」

「急所への攻撃は違反だって君も知ってるだろう? どうしてなにも言わないんだ。抗議しないと!」

 ジュビオレノークは機嫌悪そうに背中を見せ、話し掛けないでくれというオーラを醸し出した。すぐに顔を真っ青にしたウリーンが飛び込んできて「ひどいわ!」「早く医務室に行きましょう」と手厚く看護をし始めた。さっきの試合が偶然ならいいと思っていたが、その後行われた試合では特に目立った違反もなく進んでいった。

 エシルバの相手は青少年師団の背が高い子だった。何千といる観客の視線を浴びて頭の中が真っ白になるかと思ったが、向かい合わせになってバドル銃を構えたところで正気に戻ることができた。

 信用できない審判から試合開始の合図があり、エシルバはジリジリと前進して相手との距離を保った。なかなか攻めてこないのでこちらから突きをお見舞いしてやったが、相手も普段から訓練を積んできたシブーだ。軽々とかわして剣を振ってきた。これから距離を詰めて攻撃に回ろうとしたとき、ジュビオレノークが対戦していたのと同じタイミングで矛先がエシルバの頬をかすった。

「君も青少年師団の団員だ。ジュビオの顔や首を執拗に狙っていたのはわざとだろう?」

 エシルバは頬を手で拭いながら叫んだ。

「でも、僕らは違反にはならない」

 同年代とは思えないほど落ち着いた声で男の子は笑いながら言った。

「汚い手は使わないで、堂々と戦ったらどうだ!」

 以後、何も答えるつもりはないらしく、男の子は何度もエシルバの顔めがけて攻撃してきた。急所ばかりを狙われる実習なんてしたことのないエシルバにとって、防御に回るしかない苦しい展開にもつれ込んだ。

「話を聞いて!」 

 しかし、次の瞬間には男の子の一撃がエシルバの額に直撃して目の前が真っ暗になった。
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