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第9章 シクワ=ロゲン祭<開幕>
36、にぎやかな式典
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エシルバは今年の年始にトロレルで参加した博覧会のことを思い出したが、シクワ=ロゲン祭はまた別の素晴らしい人々の活気と情熱が感じられた。楽しい楽しいパレードは過ぎてみればあっという間で、女王が退場するとエシルバたちは予定通り各自持ち場に移動することになった。
「カヒィ! 先頭を歩くなんてすごいよ!」
エシルバが一目散に駆け寄ると、カヒィは頭から湯気でも出ているのではないかと思うくらいのぼせていた。
「ありがとう。でも緊張し過ぎて僕、もう駄目かも」
「大丈夫か? こりゃあ、熱があるみたいだ」
ダントが心配そうにダントの肩を持ち、大樹堂の方へと歩いていってしまった。
「俺たちは十二時まで暇だぜ」
リフがパンフレットをヒラヒラさせながら聞いた。
「二人とも、銀の卵の警備は確か午後のメンバーよね」そこへポリンチェロが現れた。
「そうだよ、君はさっそく見回りに?」
「私、変則的でお昼に少し出たらまた自由行動なの。そうそう、十時からカヒィとルバラーの講演会に行こうと思っていたんだけど、彼知らない? 私との約束忘れたのかしら」
「それならさっき、屯所の医務室に行ったと思うよ」リフは答えた。
「そう、後で差し入れでも買っていってあげないと」
ポリンチェロは言ってからある画像を二人に見せた。
ブルワスタック史特別講義
~改革とは? バデンシアが崩壊からネイジット誕生までの軌跡~
〈講師〉ルバラー|ヒューバン(アマク大学教授)
二人の顔にサッと影が差した。
「楽しそうだね」エシルバは棒読みで言った。
こんなに素晴らしいお祭りのしょっぱなから歴史の授業を貪るように四時間も聞くなんて! 二人はなんだか絶望したい気分だった。
「三日間に分けて三大史の講義をするなんて、すてきじゃない? 初日はブルワスタックだから、どうしても参加しないとと思って!」ポリンチェロはウフフと笑った。
「そうだ、アーガネルも同じスケジュールなら一緒に行ってくれば? ネルってすごく優しいだろ?」リフがごまをするように聞いた。
「あら、ネルって怒ると恐ろしく口が悪くなるのよ。二人とも、知らないの?」
二人は黙り込んだ。
「それに、ネルはグラスハープ愛好会の記念イベントに引っ張りだこなの。そこで、よかったらあなたたちも参加してみない? 最初の一時間だけでもいいから」
ポリンチェロのお願いに折れた二人は、大樹堂二階の会議室まで歩いていくことにした。会場は社会人と大学生が大半で、エシルバたちと同年代の子は自分たちののぞいて一人もいなかった。ルバラーはいつも通り落ち着いた足取りで会議室に現れ、水のボトルをテーブルの上に置くとさっそく話し始めた。
「ねぇ、今目が合ったかも」
前のめりになって集中するポリンチェロとは違い、リフはその横で滑り台のように座って目をショボショボさせていた。丁度いい空調、丁度いいマイクの反響音……いつもより四時間も早く起きていればそりゃあ眠くなるだろう。エシルバもルバラーの話を聞きながら眠気をこらえるのに大変だった。
ルバラーが話し上手なこともあって、四時間の講義は意外とあっという間だった。ポリンチェロはというと、最後に設けられた質問タイムでしっかり質問して、講義終了後にわざわざあいさつまでしに行っていた。熱心なことだ。
午前の警備チームと交代することになったエシルバとリフは一度ポリンチェロと分かれ、第一炎の間に向かった。
「二人とも、こっちこっち」
エシルバのチームメート、ウルベータがジグ、ルゼナンのそばで手招きしていた。どうやら少しだけ到着が遅れてしまったらしい。午前を担当していたルシカやジャキリーンはうんと大きなあくびと背伸びをしてからワイワイさわいで自由行動へと移っていった。エシルバはやる気満々で任務に挑んだのだが、これがまた恐ろしく退屈な仕事だった。
なにか問題(迷子・危険人物・挙動不審な人など)があればすべてシクワ=ロゲン師局(いわゆる警察)が対応してくれるからだ。使節団の任務は主に「銀の卵」の特別警備であって、それ以外のことは任務外。大事故・事件がそう簡単に起こるはずもなく、エシルバたちは平和な時を過ごしていた。
午後二時を回ったところでジグがやってきた。
「あとは僕らに任せて、ガインベルトカップに参加しておいで。エシルバの予選試合は三時からだろう?」
「途中で抜けても大丈夫なの?」
「心配しなくても大丈夫、代わりにアムレイとジオノワーセンが入ってくれる。リフもつれていって構わない」
「ありがとう」
エシルバは最後まで自分の剣を信じて戦うことを心の中で改めて近い、リフと一緒に第一炎の間を後にした。リフは自分まで仕事を抜けられるなんて思っていなかったらしく、いい口実ができたとうれしそうにしていた。
「カヒィ! 先頭を歩くなんてすごいよ!」
エシルバが一目散に駆け寄ると、カヒィは頭から湯気でも出ているのではないかと思うくらいのぼせていた。
「ありがとう。でも緊張し過ぎて僕、もう駄目かも」
「大丈夫か? こりゃあ、熱があるみたいだ」
ダントが心配そうにダントの肩を持ち、大樹堂の方へと歩いていってしまった。
「俺たちは十二時まで暇だぜ」
リフがパンフレットをヒラヒラさせながら聞いた。
「二人とも、銀の卵の警備は確か午後のメンバーよね」そこへポリンチェロが現れた。
「そうだよ、君はさっそく見回りに?」
「私、変則的でお昼に少し出たらまた自由行動なの。そうそう、十時からカヒィとルバラーの講演会に行こうと思っていたんだけど、彼知らない? 私との約束忘れたのかしら」
「それならさっき、屯所の医務室に行ったと思うよ」リフは答えた。
「そう、後で差し入れでも買っていってあげないと」
ポリンチェロは言ってからある画像を二人に見せた。
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二人の顔にサッと影が差した。
「楽しそうだね」エシルバは棒読みで言った。
こんなに素晴らしいお祭りのしょっぱなから歴史の授業を貪るように四時間も聞くなんて! 二人はなんだか絶望したい気分だった。
「三日間に分けて三大史の講義をするなんて、すてきじゃない? 初日はブルワスタックだから、どうしても参加しないとと思って!」ポリンチェロはウフフと笑った。
「そうだ、アーガネルも同じスケジュールなら一緒に行ってくれば? ネルってすごく優しいだろ?」リフがごまをするように聞いた。
「あら、ネルって怒ると恐ろしく口が悪くなるのよ。二人とも、知らないの?」
二人は黙り込んだ。
「それに、ネルはグラスハープ愛好会の記念イベントに引っ張りだこなの。そこで、よかったらあなたたちも参加してみない? 最初の一時間だけでもいいから」
ポリンチェロのお願いに折れた二人は、大樹堂二階の会議室まで歩いていくことにした。会場は社会人と大学生が大半で、エシルバたちと同年代の子は自分たちののぞいて一人もいなかった。ルバラーはいつも通り落ち着いた足取りで会議室に現れ、水のボトルをテーブルの上に置くとさっそく話し始めた。
「ねぇ、今目が合ったかも」
前のめりになって集中するポリンチェロとは違い、リフはその横で滑り台のように座って目をショボショボさせていた。丁度いい空調、丁度いいマイクの反響音……いつもより四時間も早く起きていればそりゃあ眠くなるだろう。エシルバもルバラーの話を聞きながら眠気をこらえるのに大変だった。
ルバラーが話し上手なこともあって、四時間の講義は意外とあっという間だった。ポリンチェロはというと、最後に設けられた質問タイムでしっかり質問して、講義終了後にわざわざあいさつまでしに行っていた。熱心なことだ。
午前の警備チームと交代することになったエシルバとリフは一度ポリンチェロと分かれ、第一炎の間に向かった。
「二人とも、こっちこっち」
エシルバのチームメート、ウルベータがジグ、ルゼナンのそばで手招きしていた。どうやら少しだけ到着が遅れてしまったらしい。午前を担当していたルシカやジャキリーンはうんと大きなあくびと背伸びをしてからワイワイさわいで自由行動へと移っていった。エシルバはやる気満々で任務に挑んだのだが、これがまた恐ろしく退屈な仕事だった。
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午後二時を回ったところでジグがやってきた。
「あとは僕らに任せて、ガインベルトカップに参加しておいで。エシルバの予選試合は三時からだろう?」
「途中で抜けても大丈夫なの?」
「心配しなくても大丈夫、代わりにアムレイとジオノワーセンが入ってくれる。リフもつれていって構わない」
「ありがとう」
エシルバは最後まで自分の剣を信じて戦うことを心の中で改めて近い、リフと一緒に第一炎の間を後にした。リフは自分まで仕事を抜けられるなんて思っていなかったらしく、いい口実ができたとうれしそうにしていた。
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