星物語

秋長 豊

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第8章 それぞれの葛藤

30、予選に向けた訓練

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「どうして屯所に?」

 エシルバが聞くと、ルバラーは笑顔に余韻を残しながら口を開いた。

「実はこの間の一件があってから専門家会議が招集されてね、君が見たと言うコインについて意見が交わされたんだ」

 ルバラーは話しながら三人をリビングのソファまで招いた。

「それにはシハンも参加したんですか?」

 エシルバの質問にルバラーはうなずいた。

「結論からいうと、君が手にしたというコインは星宝の類に近しい存在だ」

「近しい?」

 エシルバは詰め寄った。

「君たちのおかげで、確証がもてた。つまり、真実の太陽が真実のコインであるという事実が、これで九割がた立証されたようなものだ」

 興奮で目を輝かせながら、ルバラーは熱っぽく言った。

「でも僕は、あの時コインをつかまえたけど消えたんです」

「鍵の文様に変化があったということは、星宝による影響があったととらえて問題ないだろう。真実のコインという星宝は、実体のつかみづらいものということだ。そして、ある一致を見つけた」

 ルバラーはすぐさま石板表面の画像を三人に見せた。それは、以前エシルバが見せてもらった古代ブユ人のナカレ遺跡で発見された石絵だった。

「三体の真上に描かれた円、これにエシルバの右手に新しく現れた文様と石板中央にある模様を重ね合わせてみるんだ」

 画像上で模様が重ね合った時、三人はどこか見覚えのあるマークに首をかしげた。

「分かる。見たことがあるんだけど、なんだっけ?」

 リフがもどかしそうに言った。

「トロレルの国章だよ」

 ルバラーが簡潔に答えると、ポリンチェロが難しそうな顔になってうなった。

「トロレルの国章にはそんなマークないわ」

「三大国にはそれぞれ国章があるが、トロレルは表と裏の二種類があるんだ。表は新トロレルを象徴する太陽モス=バレル。裏が旧トロレル王家を表すこのマークというわけさ。つまり、起源は分からないが旧トロレルの国章はこの文様を元にしてつくられたものという可能性が高い。偶然には思えないからね」

 三人は信じられない一致を目撃し、しばらく黙り込んでしまった。

「銀の卵が発見されたミセレベリーヨ空洞には不可解な謎が多い。空洞は旧トロレル王家が保護してきたが、いまだに空洞の奥がどうなっているのかを知る者はいないんだ」

「俺には、空洞のどこが不可解なのか理解できないけど」

「もし、この予測が偶然の一致ではなく正しいとすれば、コインという星宝の力を得た君がミセレベリーヨに隠された謎を解くことができるかもしれない」

「謎って、銀のつるぎのこと?」

 エシルバの問いに、ルバラーは静かにうなずいた。

「あくまで仮定の話だがね。エシルバ、いずれミセレベリーヨ空洞に行き、調査を共にすることになるだろう」

 結局、使節団の在籍記録は大した当てにはならなかった。銀の卵が事前公開されるまでの間、エシルバたちは日常業務をこなしながら今月行われる予定のガインベルトカップ団内予選に向けたバドル銃とガインベルトの技を磨いていた。
 予選までの時間は限られているため、参加選手は各々忙しいスケジュールの中仕事や訓練に励んでいた。ガインベルトカップは大手ガインベルト社が主催し、シクワ=ロゲンが協賛する大会だという。一対一の試合で、選手はガインベルトとバドル銃の所持のみ認められる。十二歳以下の部では基本技術集から応用技術集までの技しか使えず、高度技術集は一般の部でのみ認められる。

 予選一週間前になると試合のルールと仮日程が配布され、予選トーナメントのメンバーが発表された。エシルバは自分の初戦の相手がカヒィであることを知り、少しだけホッとした。彼が弱いとかそういうわけではなく、単に初戦の相手がジュビオレノークだったら気が重く感じるからだ。一方リフの初戦は運悪くジュビオレノーク、ポリンチェロはウリーンだった。

「高度技術集ってそんなに難しいのかな?」
 エシルバはリフと一緒に屯所内の実習室に向かいながら聞いた。

「そりゃあもう、鬼のようにね」

 リフはポケットに詰め込んだお菓子をエシルバにパスしながら答えた。

「去年、ナジーンとシィーダーのブユシールドを見ただろう? あれを習得するには相当な忍耐と時間が必要らしいよ。俺たちなんてまだ基本術集も習得していないんだ。水中歩行に水面歩行、壁歩行だってまだ教えてもらえないし、完璧にできるのは補助跳躍くらいのものだ」

「おーい! 二人とも、これから練習に行くんだね」

 聞き覚えのあるのんきそうな声が後ろから聞こえてきた。

「あぁ、カヒィも行くの?」

 リフの問いにカヒィは勢いよくうなずいた。

「うん。予選まで一週間を切ったしね。エシルバがジグに教えてもらうなら僕も技術を盗まないとと思って」

「あぁ、ダントが弟子じゃあね」リフが肩をすくめた。「俺だって、ジグが師なんてうらやましいよ。これ何回言ってんだろう俺」
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