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第8章 それぞれの葛藤
29、ガインベルトカップへの立候補
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翌朝、エシルバが着替えを済まして屋敷のリビングに下りると、わいわいがやがやガインベルトカップの話題で持ち切りだった。
「ジュビオ、あなたならきっと優勝できるに違いないわ。誰かさんとは違って育ちも剣の扱いも桁違いに上手なんですもの。ねぇ、そうでしょう? 私が保証するわよ」
エシルバはウリーンのキンキン声に耳をふさぎながら自分の席に着き、スピーゴが食事を運んできてくれたので笑顔で受け取った。使節団で飼っている老犬のバイセルがゆたゆた歩いてきて窓辺のじゅうたんの上で日向ぼっこしているのが目に入った。
「エシルバも立候補するだろ?」
食事にありつく前に、隣に座っていたリフがバインダーに挟まった名簿をドンと置きながら言った。
「なにこれ?」エシルバは無関心に尋ねた。
「ガインベルトカップの出場に決まってるじゃないか! やだなぁ、君ほどの人が知らないわけないだろう?」
名簿を見てみると「ガインベルトカップ十二歳以下の部~出場者名簿~(男性団員)」とあり、その下にリフやカヒィの名前まで書かれていた。最後の欄にジュビオレノークの名前があるのを見た瞬間、突然関心がポッと湧き起こった。フツフツと心の底から闘志が燃え盛るのが分かった。リフからペンをかっさらって乱暴に自分の名前をサインすると、遠目で食事を終えたジュビオレノークと目がバッチリ合った。
「使節団からこの部で出られるのは男女合わせて三人だけだ」
リフは名簿の裏にあるもう一枚の女性団員用名簿を示して言った。
「ポリンチェロとウリーンも出るの?」
エシルバが驚いて言うと、リフは面白そうにうなずいた。
「あぁ、今月中にさっそく団内で予選を行うらしいよ。誰が勝ち残るのか……」
険悪な雰囲気を感じ取ったエシルバが話している途中のリフを小突いた。
「あら、ポリンチェロ、あなたも出場するのね。悪いけれど、予選で残るのは私とジュビオだわ。だってあなたは水壁師だし、普段まったくガインベルトやバドル銃の練習をしていないじゃない。それでよく立候補できたものね」
ウリーンが通りがかりざまにポリンチェロに話し掛けている。
「水壁師であろうとシブーであることに変わりないわ」
「負け惜しみなら私に負けてからいいなさい、それじゃあ今日もよろしくね」
ルンルン気分で去っていくウリーンの後姿をリフが何十歳も老けたような顔で見ていた。
「僕も負ける気がしないよ」
エシルバは余裕の笑みを浮かべるジュビオレノークに目をやって言った。
翌日の夕方、エシルバはカヒィからヴィーラ|アリュードの在籍記録を見せてもらえることになった。彼の正体に一歩近づけると思いウキウキしていた。
「これは団外秘だから屯所からは持ちだせないよ」
仕事終わりのリフ、ポリンチェロと合流したエシルバは、情報資料室の一角を借りてその資料を受け取った。全十二ページあったが、そのうち十ページが個人情報のため情報が暗号化されていた。
「十八歳でバドル銃ロッフルタフ杯優勝? バドル銃の腕前はすさまじいみたい」
リフが資料を見ながらうらやましそうに言った。
「ロッフルタフ大学を卒業後、大樹堂銀行で二年間務めた後ゴドランのボディーガードに任命される」エシルバが口に出して言った。
「絵に描いたようなエリートだわ」
「ほら、ここを見て。特に称号をもらっていたわけではないみたい。雇われたボディーガードだったのかも。一応使節団に所属はしていたみたいだから、特別職扱いだったんだよ」
エシルバの推測に、ポリンチェロは深くうなずいた。
「影武者にすご腕のボディーガード。本当に、ゴドランという人は唯一無二の人だったのね。普通は一人のシブーにそこまで手厚くしないもの」
「ねぇ、そんなに真剣になってなにを見ているのさ」カヒィがのんびりした声で尋ねた。
「この間屯所に来た男のことだよ。それよりカヒィ、ダイワンの在籍記録も見たいんだけど……」
「それが、一部の在籍記録がデータ上から削除されていたんだ。まるでポッカリと穴があいたみたいに。だからそれは無理なお願いだよ。ダイワンが所属していたとしても確かめようがない」
「どういうこと?」リフがいぶかしげに聞いた。
「ダントも理由が分からないらしい。記録係の僕にもこれ以上は深入りできないよ」
「分かった、ありがとう」
エシルバは考え事をしながら言った。
「でも、変よね」情報資料室を出てすぐにポリンチェロが言った。「一部の在籍記録が消されていたなんて」
「僕たちが入るうんと前の話だもん。何人か辞めていった団員もいたんだよ、きっと」
「ポリンチェロの言う通りだ、エシルバ。ダイワンの在籍記録がなかったのは謎だけど、きっと理由があるはずだ」
リフは言ってから急に視界に入った男を見て驚いた。
「やあぁ、今日も一日お疲れ様」ルバラーはにっこり笑った。
「ジュビオ、あなたならきっと優勝できるに違いないわ。誰かさんとは違って育ちも剣の扱いも桁違いに上手なんですもの。ねぇ、そうでしょう? 私が保証するわよ」
エシルバはウリーンのキンキン声に耳をふさぎながら自分の席に着き、スピーゴが食事を運んできてくれたので笑顔で受け取った。使節団で飼っている老犬のバイセルがゆたゆた歩いてきて窓辺のじゅうたんの上で日向ぼっこしているのが目に入った。
「エシルバも立候補するだろ?」
食事にありつく前に、隣に座っていたリフがバインダーに挟まった名簿をドンと置きながら言った。
「なにこれ?」エシルバは無関心に尋ねた。
「ガインベルトカップの出場に決まってるじゃないか! やだなぁ、君ほどの人が知らないわけないだろう?」
名簿を見てみると「ガインベルトカップ十二歳以下の部~出場者名簿~(男性団員)」とあり、その下にリフやカヒィの名前まで書かれていた。最後の欄にジュビオレノークの名前があるのを見た瞬間、突然関心がポッと湧き起こった。フツフツと心の底から闘志が燃え盛るのが分かった。リフからペンをかっさらって乱暴に自分の名前をサインすると、遠目で食事を終えたジュビオレノークと目がバッチリ合った。
「使節団からこの部で出られるのは男女合わせて三人だけだ」
リフは名簿の裏にあるもう一枚の女性団員用名簿を示して言った。
「ポリンチェロとウリーンも出るの?」
エシルバが驚いて言うと、リフは面白そうにうなずいた。
「あぁ、今月中にさっそく団内で予選を行うらしいよ。誰が勝ち残るのか……」
険悪な雰囲気を感じ取ったエシルバが話している途中のリフを小突いた。
「あら、ポリンチェロ、あなたも出場するのね。悪いけれど、予選で残るのは私とジュビオだわ。だってあなたは水壁師だし、普段まったくガインベルトやバドル銃の練習をしていないじゃない。それでよく立候補できたものね」
ウリーンが通りがかりざまにポリンチェロに話し掛けている。
「水壁師であろうとシブーであることに変わりないわ」
「負け惜しみなら私に負けてからいいなさい、それじゃあ今日もよろしくね」
ルンルン気分で去っていくウリーンの後姿をリフが何十歳も老けたような顔で見ていた。
「僕も負ける気がしないよ」
エシルバは余裕の笑みを浮かべるジュビオレノークに目をやって言った。
翌日の夕方、エシルバはカヒィからヴィーラ|アリュードの在籍記録を見せてもらえることになった。彼の正体に一歩近づけると思いウキウキしていた。
「これは団外秘だから屯所からは持ちだせないよ」
仕事終わりのリフ、ポリンチェロと合流したエシルバは、情報資料室の一角を借りてその資料を受け取った。全十二ページあったが、そのうち十ページが個人情報のため情報が暗号化されていた。
「十八歳でバドル銃ロッフルタフ杯優勝? バドル銃の腕前はすさまじいみたい」
リフが資料を見ながらうらやましそうに言った。
「ロッフルタフ大学を卒業後、大樹堂銀行で二年間務めた後ゴドランのボディーガードに任命される」エシルバが口に出して言った。
「絵に描いたようなエリートだわ」
「ほら、ここを見て。特に称号をもらっていたわけではないみたい。雇われたボディーガードだったのかも。一応使節団に所属はしていたみたいだから、特別職扱いだったんだよ」
エシルバの推測に、ポリンチェロは深くうなずいた。
「影武者にすご腕のボディーガード。本当に、ゴドランという人は唯一無二の人だったのね。普通は一人のシブーにそこまで手厚くしないもの」
「ねぇ、そんなに真剣になってなにを見ているのさ」カヒィがのんびりした声で尋ねた。
「この間屯所に来た男のことだよ。それよりカヒィ、ダイワンの在籍記録も見たいんだけど……」
「それが、一部の在籍記録がデータ上から削除されていたんだ。まるでポッカリと穴があいたみたいに。だからそれは無理なお願いだよ。ダイワンが所属していたとしても確かめようがない」
「どういうこと?」リフがいぶかしげに聞いた。
「ダントも理由が分からないらしい。記録係の僕にもこれ以上は深入りできないよ」
「分かった、ありがとう」
エシルバは考え事をしながら言った。
「でも、変よね」情報資料室を出てすぐにポリンチェロが言った。「一部の在籍記録が消されていたなんて」
「僕たちが入るうんと前の話だもん。何人か辞めていった団員もいたんだよ、きっと」
「ポリンチェロの言う通りだ、エシルバ。ダイワンの在籍記録がなかったのは謎だけど、きっと理由があるはずだ」
リフは言ってから急に視界に入った男を見て驚いた。
「やあぁ、今日も一日お疲れ様」ルバラーはにっこり笑った。
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