星物語

秋長 豊

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第7章 十二番目の星宝

28、十年に一度の祭典

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「君にお願いがあるんだ」

 その日の仕事終わり。エシルバは屯所に帰ろうとしていたカヒィを呼び止めた。

「君からのお願いとあればお安い御用さ。で、どんなこと?」

 カヒィはデータ資料をサクサクしまいながら尋ねた。

「使節団の在籍記録って見られるかい?」

「それなら見られると思うけど、ダントにも聞いてみるよ。でも、どうしてそんなもの見たいの?」

「話すといろいろ複雑で」

「いいよ、分かった」カヒィは物知り顔で了承してくれた。「ところで、調べたい人の名前は?」

「ヴィーラ|アリュード」

 在籍記録は明日の夕方までに調べておいてくれるそうで、エシルバはさっそくトロベム屋敷に戻ってからそのことをリフとポリンチェロに話した。夕食を終えたばかりの三人はリラクゼーションルームのソファに座りながらデザートを頬張っているところで、二人は驚き過ぎてのどを詰まらせるところだった。

「でも、彼は敵じゃないんだろう?」リフは言った。

「調べてみないと分からない」

「まぁ、敵ならそんな堂々と乗り込んでこないよな」

「どうして偽名にする必要があったのかしら」

「まぁ、自分の名前を変えるくらいだから、よっぽど嫌なことがあったんじゃない?」

 リフは憶測でものを言った。

「メグロヴィンはザク=ハイド自警団の団長なんだってさ」

 エシルバはそういえば、と付け足した。

「調べてみよう!」

 リフはササッとゴイヤ=テブロで検索機能をいじり、二人にある画面を提示した。ザク=ハイド自警団はスラム街ハイドオーケンで結成されたアマクの防犯組織――と書かれている。画像にはゴーストタウンと化した街並みが写っていた。

「ここ見てよ。ハイドオーケンはかつてテロによってターミナルが爆破され、危険物質で汚染された街で、一時期巨大な壁に周囲を取り囲まれ廃墟と化した。程度除染が進んだ現在は、立ち入り禁止が解除されてスラム街になっている、だってさ」

 リフは沈んだ声で言った。

「大樹堂を中心に、ずっと北東へ進んだ所にある”壁の町”のことだわ。ここからも遠目に見えるけど。でも、だいたいの人はあそこがごみ処理場だと思っているわ」

「ひどい話だ。ハイドオーケンはロッフルタフで一番治安の悪い場所だしね」

「ぜんぜん結びつかないよ、使節団で働いていた人がスラム街の自警団をやっているなんて」エシルバはもやもやして言った。
 三人はしばらく黙りこんでデザートのアイスクリームが溶けていくのを眺めていた。

「グリニアも口を閉ざしたままだし、メグって人がなんのために使節団にやってきたのかはさっぱり分からない」

 エシルバは言いながら振り出しに戻ったと思い、話を変えることにした。

「それより、あれ以来ルバラーに会っていないんだ。今週中には会って話をしないと」

「私も一緒に行く」

「お気に入りの大先生ですものねぇ」

 リフがわざと上品ぶって茶化すと、ポリンチェロはリフが大事に残しておいた最後のイチゴを食べてしまった。リフはそんなことでは怒らないと見栄を張っていたが、本当はイチゴが食べたかったのだという顔をしていた。

 デザートを食べ終わったお皿を下げようとした時、ゴイヤ=テブロに一斉送信のメールが送られてきた。三人とも自分のメールボックスを開いて中身を確認した。


【シクワ=ロゲン使節団各位
 ~第二十二回シクワ=ロゲン祭でお披露目される「銀の卵」事前公開について~
ロゲン祭開催に当たり、「銀の卵」を役人向けに事前公開します。

場所 シクワ=ロゲン大集会場
日時 一〇三〇年 六月三日
 
席次の案内を添付しました。ご確認の上、出席をお願いします。
       シクワ=ロゲン使節団事務局】


「大集会場だって!」

 リフは目を輝かせて言ったがエシルバはさっぱりだった。

「大集会場は出席権を持った役人しか入れない特別な会場なんだ。そこに俺たちが入れるってすごいだろ」

「それじゃあ、僕たちは一足先に銀の卵を見られるってわけだね」

「もっと早くに見られればいいのに。だって、銀の卵に問題解決のヒントが隠されているかもしれないんだろう?」

「私たちが思う以上に、銀の卵は大切に扱われているから無理よ。万が一盗まれるようなことがあればそれこそ大事件だし、慎重になっているんだわ」

 ポリンチェロはそう言って二人を納得させた。

 後日、またも事務局からメールが届いたが今度は七月に開催される祭りの詳細日程についての告知だった。シクワ=ロゲン祭は三日間の日程で開催される十年に一度のお祭りだ。ざっくり言うと開催式、記念式典、パレード、女王あいさつ、ガインベルトカップ、三大国美食フェスティバル、閉会式(その他数えきれないほどの市民向けのイベント)などが催される。

 繰り返すようだが、十年に一度なのだ。日程はぎっしり詰まっていた。細かいイベントも各種開かれるので、エシルバは警備よりも自由時間の方が楽しみだった。
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