星物語

秋長 豊

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第7章 十二番目の星宝

26、鍵の文様の形

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 眠っていたのは数時間のような気もするし、はたまた何十年もたった後のような気分がした。そう、エシルバは目を開けて天井を見上げていた。柔らかいベッドの感覚に、朝日とそよ風が前髪をなぶった。見覚えのある天井だった。分かるだろうか? 全身麻酔を受けて臨んだ手術が気が付けば終わっているかのような感覚。しかも、見知った顔が四つも並んでいる。

「いい天気だろ? 君、あれから目を覚まさなくて、どうなるのかと心配したよ。また石の中に入っていっちゃうんだから心臓が止まるかと思った。それにずっと石板に向かってブツブツ話し掛けていたし」

 リフは自分の前髪をかきあげてふぅと息を吐いた。

「なんだか今朝から上の人たちが騒がしくしていたみたい」カヒィが言った。

「シハンも会議に出るとかで、夕方までは屯所に戻らないそうよ。多分、石板が動いたことで話し合っているのよ」

 ポリンチェロは考え込むようにして言った。

「石板!」エシルバは思わず飛び起きた。「そうだ、手に入れたんだよ!」

「なにを?」

 そばにいたダントが不思議そうに聞いた。

「そう言われると上手く言えないんだけど、なんていうのかな」

 エシルバは声を詰まらせた。

「エシルバ、右手を見せて」

 リフに言われて右手を差し出すと、鍵の文様の形が変わっていることにエシルバはすぐ気が付いた。ささいな違いではあるが、円に近い形が付け足されていた。

「あの時なにがあったの?」

「石板の中に入って、光を見たんだ。それから」

 エシルバはおぼろげな記憶をたどりながら話したが、映像が途切れ途切れで上手く説明できなかった。

「小さなコインを握ったんだ、金色の」

「コイン? コインなんてどこにもないじゃないか」

「そうなんだけど、確かに握ったんだ」

 エシルバはリフにそう説明した。

「コインって、まさか!」ポリンチェロが叫んだ。「真実のコインよ! 十二番目の星宝っていう」

「じゃあ、エシルバはそれを捕まえたってわけか!」

 リフはみるみるうちに顔を朗らかにさせて喜んだ。

「夜中に屋敷を抜け出すのは感心しないな」

 ドキッとして五人が振り返ると、少し疲れた顔のジグが立っていた。エシルバは、自分の行動で一番先に迷惑がいくのが師のジグであることを今更ながら痛感した。みんな怒られるのを恐れて立ち去ろうとしたところ、ジグの後ろからルゼナンとアーガネルがぬっと現れて、結局リフとポリンチェロも残ることになった。

 説明責任を果たすことになったエシルバは、しょんぼりする二人の前に出て怖い顔をした三人の師に事の経緯を説明した。話している間ずっとジグはメモしながら聞いていて、一通り話し終えたところで立ち上がった。

「分かった」彼はそう言ってルゼナンとアーガネルを見た。「君たちもこれで納得したかい?」

「話の筋はちゃんと通っているじゃないか。それにただほっつき歩いていたわけじゃない。子どもだけで行動するのは危険だがね」

「えぇ」アーガネルはうなずいた。

「三人とも、規則でも決まっていなくても夜中に誰にも告げず抜け出して出歩くのは以後しないようにね」

「待って!」エシルバは言った。「夜じゃないと駄目だったんだ。でないと、石板は動かなかった。僕が見た光は隠された星宝の一つに違いない」

 ジグは少し考えていたが、これ以上話を続けるつもりはないようだった。

「さぁ、この話はとりあえずこれでおしまい。各自師の元で通常業務に戻って」

「始末書じゃないの?」リフはキョトンとした。

「始末書は書かないよ」

 三人ともその言葉にニンマリと笑ってしまった。リフとポリンチェロが師と一緒に立ち去った後、ジグはエシルバに入れたてのお茶を持ってきてくれた。

「二人とも、一睡もしていないみたいだよ。君のことが心配で屯所に来てからずっとそばにいてくれたみたいだし」

 エシルバは温かいお茶を一口飲んで心を落ち着かせた。
「君が話してくれたコインのことだけど、恐らく星宝の一つだよ。きっと、この先解決の糸口になるはずだ。さてと、僕は仕事に移るけど君は念のためもう一度医務室のレグニーに診てもらうといい。ちゃんと診断書をもらってからまた僕のところへ戻ってくるように、いいね?」 ジグはふと窓の外を見ながら言った。
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