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第7章 十二番目の星宝
25、石板の中
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トロベム屋敷を抜け出すことになんら罪悪感を覚えなかったのは、夜中の外出が特別禁止されているわけではないからだ。仕事以外の時間は基本的に自己管理自己責任というのが暗黙のルールで、誰かに見つかれば多少注意されるかもしれないがそれ以上の罰則はないのだ。
さすがは眠らない街ロッフルタフだ。終電なんて存在せずに常に電車は動き続けている。三人は何の問題もなく大樹堂まで移動できた。日が昇る前に街を歩くのは初めてだったので何だか新鮮な気分に包まれていた。
マンホベータに乗って地下一四七階に到着すると、見張りの役人以外誰もいなかった。平日の真夜中にルバラーがいるわけないと夢を見ていたポリンチェロは落胆したが、人は少ない方が都合がよかった。エシルバたちは何回もここへ足を運んでいたので、見張りの役人も顔見知りになっていたが、今度ばかりは時間が遅すぎると補導されそうになったが、例のパスポートを見せれば黙らせることができたので問題はない。
「案外緩いんだな」
「いいや、ここは常にカメラで監視されているんだ。むしろガチガチだよ」
エシルバはそう言って石板に近づいていった。規制線は関係者であれば越えられるので三人とも各々観察したい所に近寄って念入りに見物し始めた。
「僕に一体どうしてほしいの?」
エシルバは石板に体を近づけて祈るようにささやいた。
「教えて、お願いだ」
三十分が過ぎた。リフとポリンチェロが観察に眠たそうにテントのイスで座っているのを尻目に、エシルバは石板に語り続けた。
「そろそろ帰ろう。また今度来ればいいさ」
リフが言ってエシルバが石板から体を離した時だった。ガクンと膝に重力がかかった。体が重くなり、その場にひざまずいてしまった。しばらく黙っていると、わずかに石板表面が動き出したのが分かった。
「おい、うそだろ」
リフは口を半開きにして目を見開いた。
「二人とも、僕に近寄らないで」
駆け寄ろうとしていたポリンチェロはもどかしい思いで立ち止った。
「なにが起こっているんだ?」
「分からない、でも圧力を感じるんだ」
エシルバは石板をにらみながら叫んだ。見張りの役人もエシルバの動きに眉をひそめたが、遠目には石板にも変化がないので自分の立ち位置から動こうとしなかった。
「僕の言葉が分かるの?」
エシルバはハッとして石板ににじり寄った。
「でも、あんなふうに扱うのはよしてよ。急にのみこむなんて驚くから」
するとどうだろう。石板に足をかけられる大きさのくぼみができて、真っすぐ中央部分まで伸び始めた。これにはようやく異変に気が付いた見張りも大慌てで誰かに連絡していた。
「こりゃあ大変だ。そこから動くんじゃないぞ!」
エシルバは見張りの言葉を無視して石板をよじ登り、石板中央で足を止めた。リフとポリンチェロはハラハラしながら様子をうかがっている。
「僕は扉を開いてアバロンを止めたいんだ。そのためにはまず銀のつるぎが必要なんだ。つるぎがどこにあるのかを、君は知っているんだろう?」
エシルバが話し掛けるように石板中央の不思議なマークに右手を置くと、硬い石板表面が柔らかく感じられた。ゆっくりと手を伸ばしていくと、沈み込んでいった。でも、今回は怖くなかった。エシルバはこの先に答えがあると思って踏み込んだ。
かろうじて息はできた。視界は閉ざされ、リフたちの声も一切聞こえない。いつの日か夢に見た暗黒の宇宙をさまよっているみたいだ。何かが体中を巡っていく感覚があった。温かく、太陽の光を浴びているようだ。頭の中に流れ込んできたのは美しく白い光を放つ一つの光――。生命力にあふれ、儚い……。目の前に小さな金色のメダルが現れ、エシルバはそれを無意識に握りしめていた。
温かい気持ちのままエシルバの意識はプッツリ途絶えた。
さすがは眠らない街ロッフルタフだ。終電なんて存在せずに常に電車は動き続けている。三人は何の問題もなく大樹堂まで移動できた。日が昇る前に街を歩くのは初めてだったので何だか新鮮な気分に包まれていた。
マンホベータに乗って地下一四七階に到着すると、見張りの役人以外誰もいなかった。平日の真夜中にルバラーがいるわけないと夢を見ていたポリンチェロは落胆したが、人は少ない方が都合がよかった。エシルバたちは何回もここへ足を運んでいたので、見張りの役人も顔見知りになっていたが、今度ばかりは時間が遅すぎると補導されそうになったが、例のパスポートを見せれば黙らせることができたので問題はない。
「案外緩いんだな」
「いいや、ここは常にカメラで監視されているんだ。むしろガチガチだよ」
エシルバはそう言って石板に近づいていった。規制線は関係者であれば越えられるので三人とも各々観察したい所に近寄って念入りに見物し始めた。
「僕に一体どうしてほしいの?」
エシルバは石板に体を近づけて祈るようにささやいた。
「教えて、お願いだ」
三十分が過ぎた。リフとポリンチェロが観察に眠たそうにテントのイスで座っているのを尻目に、エシルバは石板に語り続けた。
「そろそろ帰ろう。また今度来ればいいさ」
リフが言ってエシルバが石板から体を離した時だった。ガクンと膝に重力がかかった。体が重くなり、その場にひざまずいてしまった。しばらく黙っていると、わずかに石板表面が動き出したのが分かった。
「おい、うそだろ」
リフは口を半開きにして目を見開いた。
「二人とも、僕に近寄らないで」
駆け寄ろうとしていたポリンチェロはもどかしい思いで立ち止った。
「なにが起こっているんだ?」
「分からない、でも圧力を感じるんだ」
エシルバは石板をにらみながら叫んだ。見張りの役人もエシルバの動きに眉をひそめたが、遠目には石板にも変化がないので自分の立ち位置から動こうとしなかった。
「僕の言葉が分かるの?」
エシルバはハッとして石板ににじり寄った。
「でも、あんなふうに扱うのはよしてよ。急にのみこむなんて驚くから」
するとどうだろう。石板に足をかけられる大きさのくぼみができて、真っすぐ中央部分まで伸び始めた。これにはようやく異変に気が付いた見張りも大慌てで誰かに連絡していた。
「こりゃあ大変だ。そこから動くんじゃないぞ!」
エシルバは見張りの言葉を無視して石板をよじ登り、石板中央で足を止めた。リフとポリンチェロはハラハラしながら様子をうかがっている。
「僕は扉を開いてアバロンを止めたいんだ。そのためにはまず銀のつるぎが必要なんだ。つるぎがどこにあるのかを、君は知っているんだろう?」
エシルバが話し掛けるように石板中央の不思議なマークに右手を置くと、硬い石板表面が柔らかく感じられた。ゆっくりと手を伸ばしていくと、沈み込んでいった。でも、今回は怖くなかった。エシルバはこの先に答えがあると思って踏み込んだ。
かろうじて息はできた。視界は閉ざされ、リフたちの声も一切聞こえない。いつの日か夢に見た暗黒の宇宙をさまよっているみたいだ。何かが体中を巡っていく感覚があった。温かく、太陽の光を浴びているようだ。頭の中に流れ込んできたのは美しく白い光を放つ一つの光――。生命力にあふれ、儚い……。目の前に小さな金色のメダルが現れ、エシルバはそれを無意識に握りしめていた。
温かい気持ちのままエシルバの意識はプッツリ途絶えた。
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