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第4章 星宝
16、トップシークレット
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「ちょっと待って」
エシルバはふと疑問に思った。
「トルザ=クドナイって! 僕の首をしめようとした人間が確か言っていた」
「去年、空中散歩館で襲ってきたとかいう男のことか」
「そうです。それに、彼らはとても危険な存在で、裏では密輸とか奴隷商とかひどいことをしているらしいんです。それなのに! 大事な星宝をどうして渡したんですか?」
グリニアは世界史モードになって咳払いした。
「星宝分散法が提唱された頃、トルザ=クドナイはアークエイドという名の善良な組織だった。しかし、アークエイド崩壊とともにトップは変わり、現在のトルザ=クドナイとなった。石台は分散法のなごりでまだ彼らの手中にあるというわけだ」
世界史一こま分の授業をわずか一分で聞いた気分だった。
「取り戻せないんですか?」
「それには交渉が必要だ。まぁ、段階でみていくと今はまだその時期にないがね」
エシルバは難しい話の途中で一息ついて、こうまとめた。
「分かりました」
本当に分かっているのかと言われれば、怪しいところである。よく授業中に真面目な顔をして先生の話を聞いているが、いざ質問をされるとしどろもどろになるあれだ。
「でも、時間をください」
「もちろんだとも」
グリニアはパッと明るい顔になって立ち上がった。
「さぁ、行こうか」
「どこへ?」
十分後、エシルバは大樹堂八十九階の環境省正門前に立っていた。絶滅危惧種の野鳥でも調査するのだろうかと待ち構えていると、門の奥から話を通しに向かっていたグリニアが戻ってきた。
「ここから先はトップシークレットだ。ブユの暴走対策課と言ってね、ごく一部のシブーにしか立ち入ることができない場所だ。ここで見たり聞いたりした情報を関係のない人間に漏らした場合は罪になる」
エシルバが慎重にうなずくとグリニアは扉を開けて先に進んだ。中はコンピューターに埋め尽くされた静かなフロアで、シークレットバッチをつけた役人たちが黙々と画面に向かっている。さらにゲートがあり、そこで監視をしていた役人の男が立ち上がった。
「シクワ=ロゲン証の提示をお願いします」
同じ場所で、同じ言葉を何千回と発してきたかのように完璧な対応だった。グリニアとエシルバは例外なくシクワ=ロゲン証を提示し、見学用のバッチを身に着けて奥へ進んだ。
中央にはいつの日か見た紅い隕石アバロンの立体映像がリアルタイムで表示され、衝突までのカウントダウンが一秒ごとに表示されていた。この映像を見ると心臓がドキドキして、とてつもない不安に襲われてしまう。そう、アバロンは一秒も待ってはくれないのだ。
環境省の偉そうな役人がやって来て「こちらです」案内した。
「現在中継して映像をつないでいますが、特に変化は見られません」
「ありがとう」
グリニアはそう言って目の前の巨大パネルに映し出された映像に顔を向けた。映像には、エシルバが去年大樹堂の地下空間で見つけた巨大なブユの石板が映っていた。石板にのみ込まれそうになった生々しい感触、床に滴った血、悲痛な叫び声……一瞬にしてあの時の出来事がフラッシュバックした。
「大丈夫か」
ふと苦しい顔を上げるとグリニアだった。
エシルバは何とか答えた。「怖いんです」
「君は正常だ」
グリニアは静かに言った。
「でも、僕なら大丈夫です。むしろ、早く石板からなにかヒントを見つけ出したいんです。あの絵がなにを意味しているのかさえ分かれば、きっと前に進めるのに。僕はずっと石板が見つかればすぐ解決するのだと信じていました。でも、ナジーンは石板に”具体的な方法”が書いてあると言っていたのも間違いです」
「エシルバ、君が石板に隠された文字を読めないからといって自分を責めてはいけない」
石板には大きな三つの円が重なるようにあり、それぞれに三大界の守護者が描かれている。エシルバが最初に見た時と状況は何一つ変わっていなかった。
「一番上にある三つの顔を持った鳥はなんですか?」
「守護者につかえるといわれる伝説の鳥だ」
エシルバはまばたきもせず、映像の中にある石板を見ていた。しばらく恐怖心は拭えなかったが、緊張感漂う環境省での滞在はそれ程長くなかった。二人は数名の捜査局員とともにマンホベータへ移り、地下一四七階に進んでいった。
リフとジュビオレノークの三人で迷い込んだマンホベータがまさに今乗っているものと同じで、あっという間に地下一四七階へ着いてしまった。先にあるリフたちと恐怖にかられながら走った長い廊下も、ロラッチャーで簡単に移動しあっという間に奥の間まで来てしまった。
エシルバはふと疑問に思った。
「トルザ=クドナイって! 僕の首をしめようとした人間が確か言っていた」
「去年、空中散歩館で襲ってきたとかいう男のことか」
「そうです。それに、彼らはとても危険な存在で、裏では密輸とか奴隷商とかひどいことをしているらしいんです。それなのに! 大事な星宝をどうして渡したんですか?」
グリニアは世界史モードになって咳払いした。
「星宝分散法が提唱された頃、トルザ=クドナイはアークエイドという名の善良な組織だった。しかし、アークエイド崩壊とともにトップは変わり、現在のトルザ=クドナイとなった。石台は分散法のなごりでまだ彼らの手中にあるというわけだ」
世界史一こま分の授業をわずか一分で聞いた気分だった。
「取り戻せないんですか?」
「それには交渉が必要だ。まぁ、段階でみていくと今はまだその時期にないがね」
エシルバは難しい話の途中で一息ついて、こうまとめた。
「分かりました」
本当に分かっているのかと言われれば、怪しいところである。よく授業中に真面目な顔をして先生の話を聞いているが、いざ質問をされるとしどろもどろになるあれだ。
「でも、時間をください」
「もちろんだとも」
グリニアはパッと明るい顔になって立ち上がった。
「さぁ、行こうか」
「どこへ?」
十分後、エシルバは大樹堂八十九階の環境省正門前に立っていた。絶滅危惧種の野鳥でも調査するのだろうかと待ち構えていると、門の奥から話を通しに向かっていたグリニアが戻ってきた。
「ここから先はトップシークレットだ。ブユの暴走対策課と言ってね、ごく一部のシブーにしか立ち入ることができない場所だ。ここで見たり聞いたりした情報を関係のない人間に漏らした場合は罪になる」
エシルバが慎重にうなずくとグリニアは扉を開けて先に進んだ。中はコンピューターに埋め尽くされた静かなフロアで、シークレットバッチをつけた役人たちが黙々と画面に向かっている。さらにゲートがあり、そこで監視をしていた役人の男が立ち上がった。
「シクワ=ロゲン証の提示をお願いします」
同じ場所で、同じ言葉を何千回と発してきたかのように完璧な対応だった。グリニアとエシルバは例外なくシクワ=ロゲン証を提示し、見学用のバッチを身に着けて奥へ進んだ。
中央にはいつの日か見た紅い隕石アバロンの立体映像がリアルタイムで表示され、衝突までのカウントダウンが一秒ごとに表示されていた。この映像を見ると心臓がドキドキして、とてつもない不安に襲われてしまう。そう、アバロンは一秒も待ってはくれないのだ。
環境省の偉そうな役人がやって来て「こちらです」案内した。
「現在中継して映像をつないでいますが、特に変化は見られません」
「ありがとう」
グリニアはそう言って目の前の巨大パネルに映し出された映像に顔を向けた。映像には、エシルバが去年大樹堂の地下空間で見つけた巨大なブユの石板が映っていた。石板にのみ込まれそうになった生々しい感触、床に滴った血、悲痛な叫び声……一瞬にしてあの時の出来事がフラッシュバックした。
「大丈夫か」
ふと苦しい顔を上げるとグリニアだった。
エシルバは何とか答えた。「怖いんです」
「君は正常だ」
グリニアは静かに言った。
「でも、僕なら大丈夫です。むしろ、早く石板からなにかヒントを見つけ出したいんです。あの絵がなにを意味しているのかさえ分かれば、きっと前に進めるのに。僕はずっと石板が見つかればすぐ解決するのだと信じていました。でも、ナジーンは石板に”具体的な方法”が書いてあると言っていたのも間違いです」
「エシルバ、君が石板に隠された文字を読めないからといって自分を責めてはいけない」
石板には大きな三つの円が重なるようにあり、それぞれに三大界の守護者が描かれている。エシルバが最初に見た時と状況は何一つ変わっていなかった。
「一番上にある三つの顔を持った鳥はなんですか?」
「守護者につかえるといわれる伝説の鳥だ」
エシルバはまばたきもせず、映像の中にある石板を見ていた。しばらく恐怖心は拭えなかったが、緊張感漂う環境省での滞在はそれ程長くなかった。二人は数名の捜査局員とともにマンホベータへ移り、地下一四七階に進んでいった。
リフとジュビオレノークの三人で迷い込んだマンホベータがまさに今乗っているものと同じで、あっという間に地下一四七階へ着いてしまった。先にあるリフたちと恐怖にかられながら走った長い廊下も、ロラッチャーで簡単に移動しあっという間に奥の間まで来てしまった。
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