39 / 90
第6章 過酷な試練
35、謎の地下通路
しおりを挟む
そこはただの廊下だった。
マンホベータ内の光が辛うじて周囲を照らしているが、どうやら一方通行のようだ。エシルバは3人が隣にいることを時折確認しながら暗闇の中を慎重な足取りで進んだ。パシャッと何かを踏んだ。リフはヒヤッとして金切り声を上げそうになったが単なる水だった。ある場所から床が水浸しになっていた。
「なんだよここ」リフは言った。「靴がグチャグチャだ」
「明かりがほしい。なにかない?」エシルバは急かすように言った。
「そうだ! 携帯灯があれば」
リフが暗闇の中でひらめきジャケットをまさぐり始めた。
「最悪だ」リフが沈んだ声で言った。「部屋に置いてきた」
エシルバはジャケットのポケットに手を突っ込みながら、おぼろげな記憶を頼りに携帯灯を探した。
「あった?」
今度はリフが急かした。
エシルバの指先がポケットの中にある携帯灯に触れた。使う機会がなかったため、長い間ポケットの中で眠らせたままだった。まさかこんな形で使うことになるとは予想もしていなかった。
エシルバは携帯灯にブユエネルギーをこめた。手の中からポーッと赤色の光源が飛び出して4人の周りをクルクル回った。赤い光は怖かったので、調節して白い光に変えた。光は何かに伝染して暗闇を一瞬にして消し去った。4人は突如開けた視界を見てあっと驚いた。
巨大な木のトンネル内部のようだ。左右にはエシルバのブユエネルギーを宿したランプが光を放ち、曲がりくねった道の奥先まで照らしていた。
「すごいよ。一瞬でこの光量をランプにともすなんて」
リフはハラハラして言った。
しかし、エシルバの関心はまったく別のところにあった。この廊下は一体誰が造ったものなのだろうか? 古代ブユ人? それとも古代ブユ人と関係のあるシクワ=ロゲンの役人だろうか?
エシルバはポカンと口を開けて立ち尽くすリフの横でギュッと唇をかみ締めた。ユラユラ揺れ動くランプの明かりはまるで4人を恐ろしい闇底へといざなっているかのようだった。そのとき、突然後ろにあった光が消えた。マンホベータの扉がピタリと閉まったのだ。
「うそだろ? ボタンがない」
慌ててボタンを押そうとしたリフは顔を青くして言った。
「進もう」
エシルバは3人の目を見て言った。
リフは後ろを振り返り同じようにエシルバを見返した。歩き出した4人の歩調は最初よりも速くなっていた。暗闇に対する恐怖心が薄れたせいもあるがそれだけではない。すぐそばで、誰かがこちらをじっと見つめているような気がしたのだ。ただ、その正体は分からなかった。廊下をしばらく奥に進んで行くと水位はふくらはぎの中間まで達するようになった。
「分かったぞ。この廊下は真っすぐに見えて緩やかな下り坂になっているんだ」
エシルバはそう分析した。
「どこまで続いている?」
カヒィの問いにエシルバは「さぁ」と答えた。進める所までは進むつもりだった。同じ景色の中を歩いているうちに、4人の心には少し余裕が生まれていた。進んで行くうちに、水位はどんどん増しているようだ。このまま行けばいずれ腰まで水に浸かってしまうのではないだろうか。
「待て。今、なにか聞こえなかったか?」カヒィが言った。
「聞こえた」リフが耳をそばだてた。
エシルバは立ち止まって目と口以外動かすのを止めた。トンネル内に響き渡るかすかな反響音……嫌な予感がした。
「まさか、あの影人間がここまで来たのか? あぁ、こんなときにシィーダーでもいれば安心するなんて皮肉な話だよ」
リフは来た道を振り返りながら青ざめて言い、さらにこう続けた。
「俺たちどうすればいい! このままじゃ八つ裂きにされるかもしれない。俺、あんな化け物に殺されるくらいなら、ここで溺れ死んだほうがマシだ!」
「シッ! 静かに」
エシルバの注意にリフは仕方なく黙った。
「いいかい? もしかしたら……この先にブユの石板があるかもしれない」
「見つけてどうする?」
カヒィが言った。
エシルバは目を泳がせた。
「とにかく、見つけたら敵に渡さないようにする」
「さっきからなにを言っているんだ!」ジュビオレノークがわめいた。
「大樹堂のどこかに隠されたブユの石板がこの先にあるかもしれないってことだよ。石板にはアバロンを阻止するための方法が書かれているはずなんだ」エシルバは答えた。
ジュビオレノークはそれを聞いて反論もせずに黙った。エシルバとしては彼が黙ってくれていた方が今はよかったし、そもそもけんかをしている場合ではない。
「なぁ、もしも敵と鉢合わせでもしたら?」リフが聞いた。
エシルバは言った。「戦う」
「でも、俺たち影人間にさえ勝てなかった。敵は何人いるのかさえ分からない。しかも、敵はジリー軍の一味だろ?」
「リフ。そんなことは分かってるよ」
エシルバは立ち止まらずに言った。
「ごめん。俺、とても弱気になってる」
その言葉にエシルバは小さくうなずいた。
「僕もだよ」
そのときだった。はるか後方から何か黒い物体がうごめいているのが見えた。嫌な予感は的中した。エシルバはリフ、カヒィと顔を見合わせて叫んだ。
「走れ!」
4人は猛スピードで駆け出した。激しい水しぶきを立てながら前だけを見て走る。トンネルは終わりなく続いているような気がしたが、どうやらそうではないようだ。廊下の先がどうなっているのかなんて予想もできなかったが、やがて絶望的な光景が4人の前に現れた。
「俺たちの後ろには誰も、なにもいなかったはずだろう?」カヒィが叫んだ。
「おい――アレ、なんだよ!」
ジュビオレノークがゼェハァ息をきらしながら叫んだ。エシルバは走りながら目を凝らした。廊下が切断されたようにプッツリと途絶えていたのだ!
「飛び込もう。下は水たまりだ」エシルバは言った。
「賛成! 泳ぐのは得意だ」
エシルバとカヒィの掛け合いにジュビオレノークは正気なのかと尻込みしていた。エシルバは徐々に近づいてくる道の終わりに合わせカウントダウンを始めた。
「いち、にの、さん!」
目を閉じ、鼻をつまみ、4人は大きな水たまりに飛び込んだ。水深はかなり深く飛び込んだ勢いで体は深く水の中に浸かった。水面から顔を上げ、エシルバは休む間もなく泳いだ。リフとカヒィの姿を目で追うと彼らもなんとか泳いでいた。
「向こう岸に渡ろう。あのはしごを登るんだ!」
エシルバは口に入った水を吐き出しながら言った。悪夢のような時間だ。後ろからあの黒い不気味なやつらがいつ襲ってくるのだろうかとヒヤヒヤしたし、そんな状況で底の見えない水たまりの中を泳ぐのは恐怖を倍増させるだけだからだ。
エシルバははしごにつかまり、せっせと登っていった。カヒィもすぐ後ろからついてきた。はしごを登ったところで後ろを振り返ると、何かが迫ってくる気配はなくなっていた。
「やった……あいつら、追うのを諦めたみたいだ」
リフが全身で大きく呼吸しながら言った。しかし、エシルバには「諦めた」という都合のよい解釈ができなかった。
「ジュビオは?」エシルバはすっかり忘れていたと大慌てで水たまりをのぞいた。数秒後、バシャッと手が出てきた。
「泳げないみたいだ!」カヒィは声を荒げた。
エシルバは2人と協力してジュビオレノークを引き揚げた。
「それにしても、ずいぶん奥まで来たみたいだ」エシルバはつぶやいた。
4人ともずぶぬれだったので、もう靴の中がグチャグチャだとか服がぬれるだとか、いちいち気にすることはなくなっていた。
5分ほど狭い小道を進んだところで4人は小さな広間に出た。木をくり抜いたような造りで、天井からは大きなおわん形のランプがつり下がっていた。こんなところにランプがあるなんて。しかも明かりがついている。広間の向こうには今までと雰囲気の違う抜け道があり、その向こうは真っ暗だった。
「風だ。おかしいな、ここは地下なのに」エシルバは首をかしげた。
リフが何かを発見したのかある物に視線をくぎ付けにしていた。
「あれなんだと思う?」
壁際にゴツゴツした大きめの何かがゆったりとした布に覆われていた。リフは興味津々で近づいていったが、エシルバは真っ暗闇に続く抜け道からどうしても目をそらせなかった。この先には一体何があるのだろうか? と、そのときリフが大きな布をバサッと取り払った。
「こりゃ驚いた! これ、ウランカ=ルギスだよ。めったにお目にかかれないロラッチャーの車種だ。しかも72年式だって! でも、どうしてこんな所にあるんだろう」
リフは車体をなめるように見回して、エシルバそっちのけで独り言が止まらなかった。「キーが刺さったままだ。もしかしたら動くかもしれない」
一方で、ジュビオレノークはほこりをかぶった石碑の前で立ち尽くしていた。エシルバも気になってその石碑をのぞいた。「これ、お墓だよ。誰のだろう」
「これは難しい古代アマク語で書かれているんだ」
ジュビオレノークは簡単な古代アマク語なら読めるのだと言い、お墓に刻まれたその名前を読み上げた。
「――シクワ|ロゲン、ここに眠る」
「それじゃあ!」
エシルバの叫び声で駆け付けたリフとカヒィも同じように驚いた。
「このお墓は君の祖先のものだ。シクワ|ロゲンはここの創設者でもある偉大な人だよ」
エシルバは言った。
「古過ぎてよく分からないけど、どうしてこんな所に……」
ジュビオレノークはしばらくお墓の前で黙っていた。
エシルバが1人薄暗い抜け道に足を踏み入れると、風を感じた。風は冷たく邪悪な空気を運んできているようだった。エシルバは足元を確認しながら少しだけ進んだ。なぜか、頭の先から足の先まで震えが止まらなかった。突然、後方の光が一切遮断された。
「エシルバ?」
リフのくぐもった声が分厚い扉の向こうから聞こえた。石の壁が道をふさいでしまったのだ。エシルバは扉をたたいたり蹴ったりしてみたがびくともしなかった。
「駄目だ! 開かないよ!」
一層のこと、バドル銃で試してみようか。そう思ったとき再びリフの声がした。
「こんなときに変なこと言うけど……まるでこの部屋全体に意志があるみたいだ。あのマンホベータにせよ、とにかくここは変だ。君を呼んでいるんだよ。そうとしか考えられない」
リフの声が聞こえなくなった。
「リフ? カヒィ! なにがあったの? 返事をしてよ!」
「彼らなら平気だ」
突然声が変わり、エシルバは扉から顔をバッと離した。
「誰?」
エシルバはたじろぎ、恐ろしく足がすくむ思いだった。すると、閉まったはずの扉がゆっくりと開き始め、足から徐々に見え始めたその姿に確信した。
「ナジーン……」
一瞬、彼女が助けに来てくれたのかとも思った。しかし、その腕に抱えられた1人の少女を見てそれは100パーセント間違いなのだと理解した。
マンホベータ内の光が辛うじて周囲を照らしているが、どうやら一方通行のようだ。エシルバは3人が隣にいることを時折確認しながら暗闇の中を慎重な足取りで進んだ。パシャッと何かを踏んだ。リフはヒヤッとして金切り声を上げそうになったが単なる水だった。ある場所から床が水浸しになっていた。
「なんだよここ」リフは言った。「靴がグチャグチャだ」
「明かりがほしい。なにかない?」エシルバは急かすように言った。
「そうだ! 携帯灯があれば」
リフが暗闇の中でひらめきジャケットをまさぐり始めた。
「最悪だ」リフが沈んだ声で言った。「部屋に置いてきた」
エシルバはジャケットのポケットに手を突っ込みながら、おぼろげな記憶を頼りに携帯灯を探した。
「あった?」
今度はリフが急かした。
エシルバの指先がポケットの中にある携帯灯に触れた。使う機会がなかったため、長い間ポケットの中で眠らせたままだった。まさかこんな形で使うことになるとは予想もしていなかった。
エシルバは携帯灯にブユエネルギーをこめた。手の中からポーッと赤色の光源が飛び出して4人の周りをクルクル回った。赤い光は怖かったので、調節して白い光に変えた。光は何かに伝染して暗闇を一瞬にして消し去った。4人は突如開けた視界を見てあっと驚いた。
巨大な木のトンネル内部のようだ。左右にはエシルバのブユエネルギーを宿したランプが光を放ち、曲がりくねった道の奥先まで照らしていた。
「すごいよ。一瞬でこの光量をランプにともすなんて」
リフはハラハラして言った。
しかし、エシルバの関心はまったく別のところにあった。この廊下は一体誰が造ったものなのだろうか? 古代ブユ人? それとも古代ブユ人と関係のあるシクワ=ロゲンの役人だろうか?
エシルバはポカンと口を開けて立ち尽くすリフの横でギュッと唇をかみ締めた。ユラユラ揺れ動くランプの明かりはまるで4人を恐ろしい闇底へといざなっているかのようだった。そのとき、突然後ろにあった光が消えた。マンホベータの扉がピタリと閉まったのだ。
「うそだろ? ボタンがない」
慌ててボタンを押そうとしたリフは顔を青くして言った。
「進もう」
エシルバは3人の目を見て言った。
リフは後ろを振り返り同じようにエシルバを見返した。歩き出した4人の歩調は最初よりも速くなっていた。暗闇に対する恐怖心が薄れたせいもあるがそれだけではない。すぐそばで、誰かがこちらをじっと見つめているような気がしたのだ。ただ、その正体は分からなかった。廊下をしばらく奥に進んで行くと水位はふくらはぎの中間まで達するようになった。
「分かったぞ。この廊下は真っすぐに見えて緩やかな下り坂になっているんだ」
エシルバはそう分析した。
「どこまで続いている?」
カヒィの問いにエシルバは「さぁ」と答えた。進める所までは進むつもりだった。同じ景色の中を歩いているうちに、4人の心には少し余裕が生まれていた。進んで行くうちに、水位はどんどん増しているようだ。このまま行けばいずれ腰まで水に浸かってしまうのではないだろうか。
「待て。今、なにか聞こえなかったか?」カヒィが言った。
「聞こえた」リフが耳をそばだてた。
エシルバは立ち止まって目と口以外動かすのを止めた。トンネル内に響き渡るかすかな反響音……嫌な予感がした。
「まさか、あの影人間がここまで来たのか? あぁ、こんなときにシィーダーでもいれば安心するなんて皮肉な話だよ」
リフは来た道を振り返りながら青ざめて言い、さらにこう続けた。
「俺たちどうすればいい! このままじゃ八つ裂きにされるかもしれない。俺、あんな化け物に殺されるくらいなら、ここで溺れ死んだほうがマシだ!」
「シッ! 静かに」
エシルバの注意にリフは仕方なく黙った。
「いいかい? もしかしたら……この先にブユの石板があるかもしれない」
「見つけてどうする?」
カヒィが言った。
エシルバは目を泳がせた。
「とにかく、見つけたら敵に渡さないようにする」
「さっきからなにを言っているんだ!」ジュビオレノークがわめいた。
「大樹堂のどこかに隠されたブユの石板がこの先にあるかもしれないってことだよ。石板にはアバロンを阻止するための方法が書かれているはずなんだ」エシルバは答えた。
ジュビオレノークはそれを聞いて反論もせずに黙った。エシルバとしては彼が黙ってくれていた方が今はよかったし、そもそもけんかをしている場合ではない。
「なぁ、もしも敵と鉢合わせでもしたら?」リフが聞いた。
エシルバは言った。「戦う」
「でも、俺たち影人間にさえ勝てなかった。敵は何人いるのかさえ分からない。しかも、敵はジリー軍の一味だろ?」
「リフ。そんなことは分かってるよ」
エシルバは立ち止まらずに言った。
「ごめん。俺、とても弱気になってる」
その言葉にエシルバは小さくうなずいた。
「僕もだよ」
そのときだった。はるか後方から何か黒い物体がうごめいているのが見えた。嫌な予感は的中した。エシルバはリフ、カヒィと顔を見合わせて叫んだ。
「走れ!」
4人は猛スピードで駆け出した。激しい水しぶきを立てながら前だけを見て走る。トンネルは終わりなく続いているような気がしたが、どうやらそうではないようだ。廊下の先がどうなっているのかなんて予想もできなかったが、やがて絶望的な光景が4人の前に現れた。
「俺たちの後ろには誰も、なにもいなかったはずだろう?」カヒィが叫んだ。
「おい――アレ、なんだよ!」
ジュビオレノークがゼェハァ息をきらしながら叫んだ。エシルバは走りながら目を凝らした。廊下が切断されたようにプッツリと途絶えていたのだ!
「飛び込もう。下は水たまりだ」エシルバは言った。
「賛成! 泳ぐのは得意だ」
エシルバとカヒィの掛け合いにジュビオレノークは正気なのかと尻込みしていた。エシルバは徐々に近づいてくる道の終わりに合わせカウントダウンを始めた。
「いち、にの、さん!」
目を閉じ、鼻をつまみ、4人は大きな水たまりに飛び込んだ。水深はかなり深く飛び込んだ勢いで体は深く水の中に浸かった。水面から顔を上げ、エシルバは休む間もなく泳いだ。リフとカヒィの姿を目で追うと彼らもなんとか泳いでいた。
「向こう岸に渡ろう。あのはしごを登るんだ!」
エシルバは口に入った水を吐き出しながら言った。悪夢のような時間だ。後ろからあの黒い不気味なやつらがいつ襲ってくるのだろうかとヒヤヒヤしたし、そんな状況で底の見えない水たまりの中を泳ぐのは恐怖を倍増させるだけだからだ。
エシルバははしごにつかまり、せっせと登っていった。カヒィもすぐ後ろからついてきた。はしごを登ったところで後ろを振り返ると、何かが迫ってくる気配はなくなっていた。
「やった……あいつら、追うのを諦めたみたいだ」
リフが全身で大きく呼吸しながら言った。しかし、エシルバには「諦めた」という都合のよい解釈ができなかった。
「ジュビオは?」エシルバはすっかり忘れていたと大慌てで水たまりをのぞいた。数秒後、バシャッと手が出てきた。
「泳げないみたいだ!」カヒィは声を荒げた。
エシルバは2人と協力してジュビオレノークを引き揚げた。
「それにしても、ずいぶん奥まで来たみたいだ」エシルバはつぶやいた。
4人ともずぶぬれだったので、もう靴の中がグチャグチャだとか服がぬれるだとか、いちいち気にすることはなくなっていた。
5分ほど狭い小道を進んだところで4人は小さな広間に出た。木をくり抜いたような造りで、天井からは大きなおわん形のランプがつり下がっていた。こんなところにランプがあるなんて。しかも明かりがついている。広間の向こうには今までと雰囲気の違う抜け道があり、その向こうは真っ暗だった。
「風だ。おかしいな、ここは地下なのに」エシルバは首をかしげた。
リフが何かを発見したのかある物に視線をくぎ付けにしていた。
「あれなんだと思う?」
壁際にゴツゴツした大きめの何かがゆったりとした布に覆われていた。リフは興味津々で近づいていったが、エシルバは真っ暗闇に続く抜け道からどうしても目をそらせなかった。この先には一体何があるのだろうか? と、そのときリフが大きな布をバサッと取り払った。
「こりゃ驚いた! これ、ウランカ=ルギスだよ。めったにお目にかかれないロラッチャーの車種だ。しかも72年式だって! でも、どうしてこんな所にあるんだろう」
リフは車体をなめるように見回して、エシルバそっちのけで独り言が止まらなかった。「キーが刺さったままだ。もしかしたら動くかもしれない」
一方で、ジュビオレノークはほこりをかぶった石碑の前で立ち尽くしていた。エシルバも気になってその石碑をのぞいた。「これ、お墓だよ。誰のだろう」
「これは難しい古代アマク語で書かれているんだ」
ジュビオレノークは簡単な古代アマク語なら読めるのだと言い、お墓に刻まれたその名前を読み上げた。
「――シクワ|ロゲン、ここに眠る」
「それじゃあ!」
エシルバの叫び声で駆け付けたリフとカヒィも同じように驚いた。
「このお墓は君の祖先のものだ。シクワ|ロゲンはここの創設者でもある偉大な人だよ」
エシルバは言った。
「古過ぎてよく分からないけど、どうしてこんな所に……」
ジュビオレノークはしばらくお墓の前で黙っていた。
エシルバが1人薄暗い抜け道に足を踏み入れると、風を感じた。風は冷たく邪悪な空気を運んできているようだった。エシルバは足元を確認しながら少しだけ進んだ。なぜか、頭の先から足の先まで震えが止まらなかった。突然、後方の光が一切遮断された。
「エシルバ?」
リフのくぐもった声が分厚い扉の向こうから聞こえた。石の壁が道をふさいでしまったのだ。エシルバは扉をたたいたり蹴ったりしてみたがびくともしなかった。
「駄目だ! 開かないよ!」
一層のこと、バドル銃で試してみようか。そう思ったとき再びリフの声がした。
「こんなときに変なこと言うけど……まるでこの部屋全体に意志があるみたいだ。あのマンホベータにせよ、とにかくここは変だ。君を呼んでいるんだよ。そうとしか考えられない」
リフの声が聞こえなくなった。
「リフ? カヒィ! なにがあったの? 返事をしてよ!」
「彼らなら平気だ」
突然声が変わり、エシルバは扉から顔をバッと離した。
「誰?」
エシルバはたじろぎ、恐ろしく足がすくむ思いだった。すると、閉まったはずの扉がゆっくりと開き始め、足から徐々に見え始めたその姿に確信した。
「ナジーン……」
一瞬、彼女が助けに来てくれたのかとも思った。しかし、その腕に抱えられた1人の少女を見てそれは100パーセント間違いなのだと理解した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

その答えは恋文で
百川凛
児童書・童話
あの手紙を拾ったことが、全ての始まりだったのだ。
「成瀬さん、俺の彼女になってみない?」
「全力でお断りさせて頂きます」
「ははっ。そう言うと思った」
平岡くんの冗談を、私は確かに否定した。
──それなのに、私が平岡くんの彼女ってどういうこと?
ちょっと待ってよ、ウソでしょう?
アイラと神のコンパス
ほのなえ
児童書・童話
自称鼻のきく盗賊サルマは、お宝の匂いを辿り、メリス島という小さな島にやってくる。そこで出会った少女、アイラからはお宝の匂いがして……そのアイラの家にあったコンパスは、持ち主の行くべき場所を示すという不思議なものだった。
そのコンパスの話を聞いて、針の示す方向を目指して旅に出ることを決意するアイラに対し、サルマはコンパスを盗む目的でアイラの旅に同行することを決めたのだが……
不思議なコンパスを手に入れた二人が大海原を駆け巡り、いくつもの島を訪れ様々な人々に出会い、
やがて世界に差し迫る危機に立ち向かう…そんな冒険の物語。
※本文は完結しました!挿絵は順次入れていきます(現在第8話まで挿絵あり)
※この作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています(カクヨムは完結済、番外編もあり)

シンデレラの忘れもの
つなざきえいじ
児童書・童話
深夜0時の鐘が鳴り、シンデレラは逃げるように城をあとにしました。
ガラスの靴を履いたまま…。
忘れたのは、物?
※【小説家になろう】へも投稿しています。
「私は○○です」?!
咲駆良
児童書・童話
マイペースながらも、仕事はきっちりやって曲がったことは大の苦手な主人公。
一方、主人公の親友は周りの人間を纏めるしっかり者。
偶々、そんな主人公が遭遇しちゃった異世界って?!
そして、親友はどうなっちゃうの?!
これは、ペガサスが神獣の一種とされる異世界で、主人公が様々な困難を乗り越えていこうとする(だろう)物語です。
※まだ書き始めですが、最後は「○○○だった主人公?!」みたいなハッピーエンドにしたいと考えています。
※都合によりゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします。

あいうえおぼえうた
なるし温泉卿
児童書・童話
五十音(ごじゅうおん)を たのしく おぼえよう。
あいうえ「お」のおほしさま ころんと
そらに とんでいる。
さてさて、どこへいくのかな?
五十音表と共に、キラキラ星の音程で歌いながら「ひらがな」をたのしく覚えちゃおう。
歌う際は「 」の部分を強調してみてね。
*もともとは「ひらがな」にあまり興味のなかった自分の子にと作った歌がはじまりのお話です。
楽しく自然に覚える、興味を持つ事を第一にしています。
1話目は「おぼえうた」2話目は、寝かしつけ童話となっています。
2話目の◯◯ちゃんの部分には、ぜひお子様のお名前を入れてあげてください。
よろしければ、おこさんが「ひらがな」を覚える際などにご利用ください。
セプトクルール『すぐるとリリスの凸凹大進撃!』
マイマイン
児童書・童話
『引っ込み思案な魔法使い』の少年すぐると、『悪魔らしくない悪魔』の少女リリスの凸凹カップルが贈る、ドタバタファンタジー短編集です。
このシリーズには、終わりという終わりは存在せず、章ごとの順番も存在しません。
随時、新しい話を載せていきますので、楽しみにしていてください。

鬼の叩いた太鼓
kabu
児童書・童話
優しい性格のために悪さを働けない鬼の黄平は、鬼の住む山里を追放されてしまう。
ひとりさ迷っているときに、山の主である白い大蛇に出会い、
山の未来のためにひと月の間、太鼓を奉納してほしいとお願いをされる。
不眠不休で太鼓をたたく、その命がけの奉納の果てには……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる