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第3章 シブーになる
17、あらざる手袋
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生きた心地のしない紹介が終わり、ブルウンドとジグが部屋を外れたので、エシルバは事実上1人きりになった。そこへ、ショートカットで切れ長の目をした女性団員が近づいてきた。
「借りてきた猫みたいな顔しちゃって。緊張しなくていいのよ」
「御親切に。お姉さんは?」
エシルバの「お姉さん」という言葉に女性はうれしそうだった。
「私、ソルビア。使節団で秘書兼特別事務員を担当することになったの。分からないことがあったら、なんでも遠慮せずに聞いてちょうだい。これから大変なことも多いと思うけど、頼れる上司がたくさんいるんだから、恵まれていると思った方がいいわ。アーガネル! あなたも来なさいよ」
部屋の隅で眼鏡を掛けた男と話していた女性が、こちらに気付いてやって来た。傷みのない髪を美しい髪留めでまとめ、つぶらな瞳、小さな口と鼻が上品にまとまっている。
「こんばんは。私のことはネルって呼んで。堅苦しいのは一切なしよ、同士なんだから」
「ここではなにをしているの?」
「私は使節団で専属水壁師を任されたの。使節団には必ず各専門師が所属しなければならないでしょう?」
「よく分からないけど、すごい人たちばかりなんだね」
「変わり者は多いかもしれないわね」
アーガネルとソルビアはクスリと笑った。
エシルバが優しい女性2人に囲まれて和んでいると、突然肩に硬い何かが当たった。
驚いて振り返ると、笑顔のない女性が立っていて、一冊の本を差し出した。表紙には「ロッフルタフの歴史」と書かれている。勉強をしろということだろうか? そう思ってエシルバは本を受け取った。
「ここで生きていくための糧になる本だ」
「ちょっとセム。いきなりこんな難しい本渡さなくてもいいじゃない」
ソルビアはあきれて言った。セムは背筋が恐ろしく真っすぐな女性で、ハエ一匹彼女の肌には触れられないような近寄り難い雰囲気だ。薄い唇のそばには小さなほくろがあり、目は上品な猫のように華やかさがある。
「珍しいわね、セムが初対面の子になにかをあげるなんて」
アーガネルは去っていくセムの背中を目で追いながら言った。
そのとき、エシルバの袖を誰かが引っ張った。
「君、今何歳なんだい?」
急に質問が飛んできた。
「10だよ」
質問してきたのは爽やかで目がクリっとした青年で、笑ったときに頰の裏側まで見えるのが印象的だった。
「そうか、随分大人っぽく見えたよ。僕はダント。使節団の記録係を任されたんだ。僕にも分からないことがあったらなんでも聞いてくれ。分かる範囲でなら答えられるから、これからよろしく頼むよ」
エシルバは笑顔で応えた。
「うん、ありがとう」
「そうだ、ここにはいないんだけど、シィーダーって上司には少しだけ気を付けた方がいいよ」
「え?」
「鬼の教官って呼ばれている人なんだ。もちろん悪い人じゃないんだけど、あくが強いって言うのかな、とにかくその人と話すときは慎重にいった方が身のためだ。知っておいて損はない情報だから覚えておけよ。ここで器用に生き抜くこつだ」
その言葉はずっしりと重く響いたが、むしろ初対面なのにこんなことを教えてくれてありがたいと思った。
その晩、エシルバは2階の部屋に案内された。カノティーン材の家具で統一された室内は温かく、木の香りが心地よかった。とりあえず明日は午前10時までに起きることになっていたので、エシルバは緊張のあまり硬くなった筋肉を手でもみほぐし、ベッドにバタリと倒れた。それからは文字通り死んだように眠ったので、深い悩み事なんてする暇もなかった。
翌朝、7時すぎにダイニングへ行くとみんな席について朝食を取っているところだった。
アーガネルが天使のような笑顔を向けてくれたので、エシルバは導かれるようにその隣へ座った。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
「とっても」
「今日は忙しいわよ」
「え?」
エシルバは席に着くなり戸惑った。
「採石の儀式があるもの」
「なにそれ?」
エシルバは頭の中で工事用の帽子をかぶり、ピッケルを片手に岩を砕く自分を想像した。こんな都会にそんな鉱山は見当たらないし、役人になるためにはそんなこともしなければならないのかと恐ろしくなった。
すると、昨日見かけた男の子が話し掛けてきた。絵に描いたようなツンツン頭で、筋の通った鼻はジャンプ台のように上向いている。陽気そうな彼はエシルバを見てニッと笑うと手を引いて洗面所まで連れて行った。
「今日は儀式の日だって? 頑張れよ!」
「あぁ、うん。そうみたい。でも、採石の儀式ってなんなの? なにをするの?」
すると、男の子は少し言いづらそうに眉をひそめた。
「まずいジュース飲まされるんだ」
驚きのあまり、頭の中にあった帽子とピッケルが消し飛んだ。
「君、誰?」
「俺、リフ! リフ|イルヴィッチ。いいか? 採石の儀式でジュースの入った杯を出されたら、チビチビ飲むんじゃない。一気に飲むんだ。じゃないと2回も飲まされることになる」
「チビチビ飲むとどうなるの?」
「そりゃあ、タイムアップに決まってるさ。1分以内で飲みきるのがルールなんだ。最悪、まずいジュースを牛乳で割って飲むことになるかも。うえー」
「君もしたの?」
「うん。シブーになる人間は全員やらなきゃいけないからね。それじゃ! うまーくやれよ、新人君!」
朝食の席に戻ると、大きな猫のような耳をした女性が食事を運んできた。ギョッとしてお尻を見てみると、信じ難いほどリアルなしっぽまで生えている。朝食のバムル(アマク産のお米)に野菜スープ、卵、野菜サラダ、牛乳、その全てがどうでもよく感じるほど衝撃的な朝だった。
「あ、ありがとう」
エシルバはまばたきも忘れて言った。
猫耳の女性は恥ずかしそうにキッチンへ戻っていった。
「今の人は?」
「屋敷で働いてくれているスピーゴ。猫族の女性で、とってもシャイなの」
「あの人も? 今、洗い物をしている男の人」
エシルバはキッチンを遠目にのぞきながら尋ねた。
「ええ、彼は猫族じゃないけど普通の使用人。エヴィントラ」
エシルバは朝食を食べながらスピーゴという女性から目が離せなかった。彼女は次に朝食を運んで行った男の団員のところで立ち話をしていた。よーく見ていると、相手は昨日酔いつぶれていた髪の毛が鳥の巣みたいな男だった。名前は確かエーニヒィといっただろうか。
「エシルバ。たくさん食べて力つけてくれよ」
ブルウンドが大きな鍋を担ぎながら元気に呼び掛けた。
「そろそろ行くか」
食べ終えたのか、ダントがそう言って部屋を出て行った。団員たちの食べる終わる時間はバラバラで、ダントが出ていってからものんきに食べているメンバーがいた。
「ジグは?」
エシルバはキョロキョロした。
「もうじき戻るわ」
ジグが戻ってくるまでの間、エシルバは誰もいないリビングでのんびり待つことになった。いや、1人だけいた。電子書籍を読んでいる男がソファに座っていて、カップを片手に優雅な朝のひとときを過ごしていた。長い前髪が目元に垂れ下がり、大きいがきれいな曲線のある鼻、長いまつ毛、そして顔にはいくつもの傷がうっすらと見えた。なにより目を引いたのが、両腕とも鉛色の義手であるということだった。それは、肌を模した素材で覆われていないこと以外本物の腕そっくりだった。その驚きもあったせいか、近寄り難いオーラが柵のように張り巡らされているような気がした。
男はカップを置いてエシルバを見た。
「お前さんは、昨日屋敷に入ってきた子じゃないか。今日はさっそくお出掛けかな?」
「あ、はい。この後、儀式に出るんです」
「そうかい」
男はすっくと立ち上がり、真っ黒なコートを手に持ち、ドアを開けた。すると、これまた偶然リビングに入ろうとしたジグとはち合わせて、2人は3秒ほど石のように固まった。
男はフッと笑った。「そういえば、もう1人入ったんだったな」
「シィーダー、そう冷たく言わないでくれよ」
「私の記憶が正しければ、君の顔は10年前のそれとあまり変わっていないようだ」
今度はジグが笑った。男は意味ありげな笑みを浮かべたまま、部屋を出て行った。今の男がパネットの言っていたルウジ|シィーダーらしい。鬼の教官と言われるほどの怖さは感じなかったので、エシルバは少しホッとした。一日中意味もなく神経質にイライラするような人だと思っていたからだ。
「やぁ、待ったかい?」とジグが明るく言った。「これを君に」
エシルバはジグから包みを受け取り、中から白い箱を取り出した。中には黒の上質な生地で作られた制服がきれいにたたまれていた。
「わぁ! ありがとう、ジグ!」
エシルバは制服を鏡の前で自分に合わせた。
「着てごらん」
ジグに言われた通りエシルバは制服の上下を着て、靴を履いた。着心地が素晴らしく、重厚な見た目とは裏腹に羽のように軽かった。
「少し大きいかも」
「1年後にはちょうど良くなっているさ。それから、君にこれをあげよう」
ジグはエシルバの前で何かを差し出した。
「これは……手袋?」
網目の荒い、スカスカの手袋を見てエシルバは眉をひそめた。しかも、ペアではなく片方だけだったのでますますわけが分からない。
「あらざる手袋、秘密を隠す手袋とも呼ばれている」
意味も分からず右手にはめてみたところ、先程の荒い網目は一瞬で見えなくなり、手の中に吸い込まれていったようにも見えた。数秒後、右手の甲にあったあざのようなものが左手のようにきれいさっぱり見えなくなっていた。
「すごいよ、これ! あざはどこへいったの? 手袋は? 全然着けている感じがしないけど」
「ただ、見えなくなっただけで手袋は君の右手に着いている」
エシルバはただただ感心した。
「この手袋はシクワ=ロゲン規則によってシブーが身につけるのは禁じられている。でも、ちゃんとした理由があって、申請すれば着用が許可されるのさ。君は特別だよ」
「借りてきた猫みたいな顔しちゃって。緊張しなくていいのよ」
「御親切に。お姉さんは?」
エシルバの「お姉さん」という言葉に女性はうれしそうだった。
「私、ソルビア。使節団で秘書兼特別事務員を担当することになったの。分からないことがあったら、なんでも遠慮せずに聞いてちょうだい。これから大変なことも多いと思うけど、頼れる上司がたくさんいるんだから、恵まれていると思った方がいいわ。アーガネル! あなたも来なさいよ」
部屋の隅で眼鏡を掛けた男と話していた女性が、こちらに気付いてやって来た。傷みのない髪を美しい髪留めでまとめ、つぶらな瞳、小さな口と鼻が上品にまとまっている。
「こんばんは。私のことはネルって呼んで。堅苦しいのは一切なしよ、同士なんだから」
「ここではなにをしているの?」
「私は使節団で専属水壁師を任されたの。使節団には必ず各専門師が所属しなければならないでしょう?」
「よく分からないけど、すごい人たちばかりなんだね」
「変わり者は多いかもしれないわね」
アーガネルとソルビアはクスリと笑った。
エシルバが優しい女性2人に囲まれて和んでいると、突然肩に硬い何かが当たった。
驚いて振り返ると、笑顔のない女性が立っていて、一冊の本を差し出した。表紙には「ロッフルタフの歴史」と書かれている。勉強をしろということだろうか? そう思ってエシルバは本を受け取った。
「ここで生きていくための糧になる本だ」
「ちょっとセム。いきなりこんな難しい本渡さなくてもいいじゃない」
ソルビアはあきれて言った。セムは背筋が恐ろしく真っすぐな女性で、ハエ一匹彼女の肌には触れられないような近寄り難い雰囲気だ。薄い唇のそばには小さなほくろがあり、目は上品な猫のように華やかさがある。
「珍しいわね、セムが初対面の子になにかをあげるなんて」
アーガネルは去っていくセムの背中を目で追いながら言った。
そのとき、エシルバの袖を誰かが引っ張った。
「君、今何歳なんだい?」
急に質問が飛んできた。
「10だよ」
質問してきたのは爽やかで目がクリっとした青年で、笑ったときに頰の裏側まで見えるのが印象的だった。
「そうか、随分大人っぽく見えたよ。僕はダント。使節団の記録係を任されたんだ。僕にも分からないことがあったらなんでも聞いてくれ。分かる範囲でなら答えられるから、これからよろしく頼むよ」
エシルバは笑顔で応えた。
「うん、ありがとう」
「そうだ、ここにはいないんだけど、シィーダーって上司には少しだけ気を付けた方がいいよ」
「え?」
「鬼の教官って呼ばれている人なんだ。もちろん悪い人じゃないんだけど、あくが強いって言うのかな、とにかくその人と話すときは慎重にいった方が身のためだ。知っておいて損はない情報だから覚えておけよ。ここで器用に生き抜くこつだ」
その言葉はずっしりと重く響いたが、むしろ初対面なのにこんなことを教えてくれてありがたいと思った。
その晩、エシルバは2階の部屋に案内された。カノティーン材の家具で統一された室内は温かく、木の香りが心地よかった。とりあえず明日は午前10時までに起きることになっていたので、エシルバは緊張のあまり硬くなった筋肉を手でもみほぐし、ベッドにバタリと倒れた。それからは文字通り死んだように眠ったので、深い悩み事なんてする暇もなかった。
翌朝、7時すぎにダイニングへ行くとみんな席について朝食を取っているところだった。
アーガネルが天使のような笑顔を向けてくれたので、エシルバは導かれるようにその隣へ座った。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
「とっても」
「今日は忙しいわよ」
「え?」
エシルバは席に着くなり戸惑った。
「採石の儀式があるもの」
「なにそれ?」
エシルバは頭の中で工事用の帽子をかぶり、ピッケルを片手に岩を砕く自分を想像した。こんな都会にそんな鉱山は見当たらないし、役人になるためにはそんなこともしなければならないのかと恐ろしくなった。
すると、昨日見かけた男の子が話し掛けてきた。絵に描いたようなツンツン頭で、筋の通った鼻はジャンプ台のように上向いている。陽気そうな彼はエシルバを見てニッと笑うと手を引いて洗面所まで連れて行った。
「今日は儀式の日だって? 頑張れよ!」
「あぁ、うん。そうみたい。でも、採石の儀式ってなんなの? なにをするの?」
すると、男の子は少し言いづらそうに眉をひそめた。
「まずいジュース飲まされるんだ」
驚きのあまり、頭の中にあった帽子とピッケルが消し飛んだ。
「君、誰?」
「俺、リフ! リフ|イルヴィッチ。いいか? 採石の儀式でジュースの入った杯を出されたら、チビチビ飲むんじゃない。一気に飲むんだ。じゃないと2回も飲まされることになる」
「チビチビ飲むとどうなるの?」
「そりゃあ、タイムアップに決まってるさ。1分以内で飲みきるのがルールなんだ。最悪、まずいジュースを牛乳で割って飲むことになるかも。うえー」
「君もしたの?」
「うん。シブーになる人間は全員やらなきゃいけないからね。それじゃ! うまーくやれよ、新人君!」
朝食の席に戻ると、大きな猫のような耳をした女性が食事を運んできた。ギョッとしてお尻を見てみると、信じ難いほどリアルなしっぽまで生えている。朝食のバムル(アマク産のお米)に野菜スープ、卵、野菜サラダ、牛乳、その全てがどうでもよく感じるほど衝撃的な朝だった。
「あ、ありがとう」
エシルバはまばたきも忘れて言った。
猫耳の女性は恥ずかしそうにキッチンへ戻っていった。
「今の人は?」
「屋敷で働いてくれているスピーゴ。猫族の女性で、とってもシャイなの」
「あの人も? 今、洗い物をしている男の人」
エシルバはキッチンを遠目にのぞきながら尋ねた。
「ええ、彼は猫族じゃないけど普通の使用人。エヴィントラ」
エシルバは朝食を食べながらスピーゴという女性から目が離せなかった。彼女は次に朝食を運んで行った男の団員のところで立ち話をしていた。よーく見ていると、相手は昨日酔いつぶれていた髪の毛が鳥の巣みたいな男だった。名前は確かエーニヒィといっただろうか。
「エシルバ。たくさん食べて力つけてくれよ」
ブルウンドが大きな鍋を担ぎながら元気に呼び掛けた。
「そろそろ行くか」
食べ終えたのか、ダントがそう言って部屋を出て行った。団員たちの食べる終わる時間はバラバラで、ダントが出ていってからものんきに食べているメンバーがいた。
「ジグは?」
エシルバはキョロキョロした。
「もうじき戻るわ」
ジグが戻ってくるまでの間、エシルバは誰もいないリビングでのんびり待つことになった。いや、1人だけいた。電子書籍を読んでいる男がソファに座っていて、カップを片手に優雅な朝のひとときを過ごしていた。長い前髪が目元に垂れ下がり、大きいがきれいな曲線のある鼻、長いまつ毛、そして顔にはいくつもの傷がうっすらと見えた。なにより目を引いたのが、両腕とも鉛色の義手であるということだった。それは、肌を模した素材で覆われていないこと以外本物の腕そっくりだった。その驚きもあったせいか、近寄り難いオーラが柵のように張り巡らされているような気がした。
男はカップを置いてエシルバを見た。
「お前さんは、昨日屋敷に入ってきた子じゃないか。今日はさっそくお出掛けかな?」
「あ、はい。この後、儀式に出るんです」
「そうかい」
男はすっくと立ち上がり、真っ黒なコートを手に持ち、ドアを開けた。すると、これまた偶然リビングに入ろうとしたジグとはち合わせて、2人は3秒ほど石のように固まった。
男はフッと笑った。「そういえば、もう1人入ったんだったな」
「シィーダー、そう冷たく言わないでくれよ」
「私の記憶が正しければ、君の顔は10年前のそれとあまり変わっていないようだ」
今度はジグが笑った。男は意味ありげな笑みを浮かべたまま、部屋を出て行った。今の男がパネットの言っていたルウジ|シィーダーらしい。鬼の教官と言われるほどの怖さは感じなかったので、エシルバは少しホッとした。一日中意味もなく神経質にイライラするような人だと思っていたからだ。
「やぁ、待ったかい?」とジグが明るく言った。「これを君に」
エシルバはジグから包みを受け取り、中から白い箱を取り出した。中には黒の上質な生地で作られた制服がきれいにたたまれていた。
「わぁ! ありがとう、ジグ!」
エシルバは制服を鏡の前で自分に合わせた。
「着てごらん」
ジグに言われた通りエシルバは制服の上下を着て、靴を履いた。着心地が素晴らしく、重厚な見た目とは裏腹に羽のように軽かった。
「少し大きいかも」
「1年後にはちょうど良くなっているさ。それから、君にこれをあげよう」
ジグはエシルバの前で何かを差し出した。
「これは……手袋?」
網目の荒い、スカスカの手袋を見てエシルバは眉をひそめた。しかも、ペアではなく片方だけだったのでますますわけが分からない。
「あらざる手袋、秘密を隠す手袋とも呼ばれている」
意味も分からず右手にはめてみたところ、先程の荒い網目は一瞬で見えなくなり、手の中に吸い込まれていったようにも見えた。数秒後、右手の甲にあったあざのようなものが左手のようにきれいさっぱり見えなくなっていた。
「すごいよ、これ! あざはどこへいったの? 手袋は? 全然着けている感じがしないけど」
「ただ、見えなくなっただけで手袋は君の右手に着いている」
エシルバはただただ感心した。
「この手袋はシクワ=ロゲン規則によってシブーが身につけるのは禁じられている。でも、ちゃんとした理由があって、申請すれば着用が許可されるのさ。君は特別だよ」
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