73 / 85
71、麻美
しおりを挟む
「払霧師?」
「……うん」
チラッと横を見ると、麻美は目を輝かせていた。
「それって、夜の東京を守ってるかっこいい戦士たちのことだよね! こう、光の武器で霧を払って、こわーい化け物たちを倒すの。すごいなぁ、そんなものになろうなんて、私には勇気がなくて無理だよ。しかも、こんなにかわいい女の子がねぇ」
「結果が出なくて。払霧師になるためには、払霧師大学に入らなくちゃいけないんですけど、そのためには勉強だけできればいいわけじゃないんです。守護影っていう特別な生き物を、自分の影から呼び出さなくちゃいけない。私には守護影がいないって言われて、それでも諦めきれなくて……何回も通ってるんです」
「それで、思いつめてたんだね」
麻美は天のグラスからオレンジジュースを飲んだ。
「偉いね、天ちゃんは。本気で頑張ってる人だから、失望だってする。でもさ、死ぬくらいだったら逃げたっていいんだよ」
「麻美さんは優しいですね」
天は床を見つめて言った。
「私……物心つくときから孤児院暮らしで、両親もきょうだいもいなくて。友達もうまくつくれなくて、ずっと1人で、内にこもってました。そんな時、たまたま払霧師の人が戦っている姿を見たんです。たった1人で霧をあっという間に払って、紫奇霧人を倒しました。その人は、魚ノ神寿っていう払霧師で、今も立派に戦っています。それからずっと、あの人みたいな払霧師になりたいって思ってきました。払霧師になれないのなら、他には何もなりたくありません」
「その人、有名な人だよね。払霧師の中でもかなり偉いクラスだって聞いたことがある」
「雲の上にいる人みたいですよ」
天はなんだか気分がよくなってソファの上に横になった。
「天ちゃん、きっとなれるよ。払霧師に」
「そう、ですかね……」
「だって、こんなに頑張っているんだから」
体を揺すられて天ははっとした。
「大丈夫?」
「ちょっと眠たくなっちゃって」
「じゃあ、もうお会計するね」
天はぼーっとする頭で立ち上がり、荷物を持った。麻美が戻ってきて、2人は並んで駅前を歩いた。
「さっきから大丈夫? 天ちゃん」
どうしてだろう。麻美の声がぼやけて聞こえる。
「家まで遠いんでしょ? うち、すぐ近くだから寄っていきなよ。疲れているだろうし、少し休んでから家に帰ればいい。じゃなきゃ、またフラッと線路に落ちちゃうよ。聞こえてる?」
天は彼女に肩を抱かれながら歩き、なんとか返事をした。気付くとオンボロの一軒家にやって来ていて、車も止まっていなかった。
「上がって上がって、今冷たい水いれるから!」
天は玄関を上がり、ちょうどいい所にあったソファに横たわった。なんだか柔らかくて安心できる。麻美はなんていい人なんだろう。命を助けてくれたし、悩み事だって親身になって聞いてくれた。なにかお返しをしなくてはいけない。
「麻美、さん――」
突然ヒヤッとして目を開けると、冷たいグラスを持った麻美が笑っていた。
「これ、飲むと落ち着くよ」
「ありがとう」
天は冷たい水を一口飲んでまたソファに寄り掛かった。
「嫌なことは考えなくていいんだよ」
麻美は膝枕をして天の頭をなでた。
「頑張り過ぎたんだよ」
天は甘く優しい彼女の言葉を聞きながらまぶたを閉じた。なでていた手を止めると、麻美は口角を上げた。すやすや寝息を立てて眠る天を見下ろし、麻美は静かによけると制服を脱ぎ、近くにあった優雅な紫色の着物に着替えた。
「せっかくの食事だけど、今回はただ食べるだけじゃもったいない」
麻美は家の中を歩き、地下に続く隠し扉を開け、階段を下りていった。鍵のかかった扉を開けて中に入ると、死んだように眠る1人の少女がいた。
「三平陽ちゃん、新しいお友達が来たよ。お名前はねぇ、松渕天ちゃんって言うんだって。よかったね。これで、さみしくないね」
麻美は部屋の明かりをつけ、壁に張り付けられたいくつもの顔写真をながめた。皆、払霧師協会に所属する払霧師や研修生たちで、顔の隣には名前が刻まれていた。
「私が気になるのは、この子」
麻美は2枚の顔写真を外した。
「具視くんと連次くん。楽しみだな」
麻美は写真をなめるように見た。
「具視くんはどうして私たちと同じように霧を吸っても溶けないのかな。ちょっと、試してみたいな。実際、吸ったら苦しみもだえるのかな。楽しみだな。具視くんはともかく、あなたたち姉弟はどうしよっか。このまま殺しちゃう?」
「……うん」
チラッと横を見ると、麻美は目を輝かせていた。
「それって、夜の東京を守ってるかっこいい戦士たちのことだよね! こう、光の武器で霧を払って、こわーい化け物たちを倒すの。すごいなぁ、そんなものになろうなんて、私には勇気がなくて無理だよ。しかも、こんなにかわいい女の子がねぇ」
「結果が出なくて。払霧師になるためには、払霧師大学に入らなくちゃいけないんですけど、そのためには勉強だけできればいいわけじゃないんです。守護影っていう特別な生き物を、自分の影から呼び出さなくちゃいけない。私には守護影がいないって言われて、それでも諦めきれなくて……何回も通ってるんです」
「それで、思いつめてたんだね」
麻美は天のグラスからオレンジジュースを飲んだ。
「偉いね、天ちゃんは。本気で頑張ってる人だから、失望だってする。でもさ、死ぬくらいだったら逃げたっていいんだよ」
「麻美さんは優しいですね」
天は床を見つめて言った。
「私……物心つくときから孤児院暮らしで、両親もきょうだいもいなくて。友達もうまくつくれなくて、ずっと1人で、内にこもってました。そんな時、たまたま払霧師の人が戦っている姿を見たんです。たった1人で霧をあっという間に払って、紫奇霧人を倒しました。その人は、魚ノ神寿っていう払霧師で、今も立派に戦っています。それからずっと、あの人みたいな払霧師になりたいって思ってきました。払霧師になれないのなら、他には何もなりたくありません」
「その人、有名な人だよね。払霧師の中でもかなり偉いクラスだって聞いたことがある」
「雲の上にいる人みたいですよ」
天はなんだか気分がよくなってソファの上に横になった。
「天ちゃん、きっとなれるよ。払霧師に」
「そう、ですかね……」
「だって、こんなに頑張っているんだから」
体を揺すられて天ははっとした。
「大丈夫?」
「ちょっと眠たくなっちゃって」
「じゃあ、もうお会計するね」
天はぼーっとする頭で立ち上がり、荷物を持った。麻美が戻ってきて、2人は並んで駅前を歩いた。
「さっきから大丈夫? 天ちゃん」
どうしてだろう。麻美の声がぼやけて聞こえる。
「家まで遠いんでしょ? うち、すぐ近くだから寄っていきなよ。疲れているだろうし、少し休んでから家に帰ればいい。じゃなきゃ、またフラッと線路に落ちちゃうよ。聞こえてる?」
天は彼女に肩を抱かれながら歩き、なんとか返事をした。気付くとオンボロの一軒家にやって来ていて、車も止まっていなかった。
「上がって上がって、今冷たい水いれるから!」
天は玄関を上がり、ちょうどいい所にあったソファに横たわった。なんだか柔らかくて安心できる。麻美はなんていい人なんだろう。命を助けてくれたし、悩み事だって親身になって聞いてくれた。なにかお返しをしなくてはいけない。
「麻美、さん――」
突然ヒヤッとして目を開けると、冷たいグラスを持った麻美が笑っていた。
「これ、飲むと落ち着くよ」
「ありがとう」
天は冷たい水を一口飲んでまたソファに寄り掛かった。
「嫌なことは考えなくていいんだよ」
麻美は膝枕をして天の頭をなでた。
「頑張り過ぎたんだよ」
天は甘く優しい彼女の言葉を聞きながらまぶたを閉じた。なでていた手を止めると、麻美は口角を上げた。すやすや寝息を立てて眠る天を見下ろし、麻美は静かによけると制服を脱ぎ、近くにあった優雅な紫色の着物に着替えた。
「せっかくの食事だけど、今回はただ食べるだけじゃもったいない」
麻美は家の中を歩き、地下に続く隠し扉を開け、階段を下りていった。鍵のかかった扉を開けて中に入ると、死んだように眠る1人の少女がいた。
「三平陽ちゃん、新しいお友達が来たよ。お名前はねぇ、松渕天ちゃんって言うんだって。よかったね。これで、さみしくないね」
麻美は部屋の明かりをつけ、壁に張り付けられたいくつもの顔写真をながめた。皆、払霧師協会に所属する払霧師や研修生たちで、顔の隣には名前が刻まれていた。
「私が気になるのは、この子」
麻美は2枚の顔写真を外した。
「具視くんと連次くん。楽しみだな」
麻美は写真をなめるように見た。
「具視くんはどうして私たちと同じように霧を吸っても溶けないのかな。ちょっと、試してみたいな。実際、吸ったら苦しみもだえるのかな。楽しみだな。具視くんはともかく、あなたたち姉弟はどうしよっか。このまま殺しちゃう?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。
最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。
自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。
そして、その価値観がずれているということも。
これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。
※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。
基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする
風の吹くまま気の向くまま
ファンタジー
~なぜ僕にこの力が与えられたのか?~
当面、毎日お昼の11時50分頃更新して参ります。
気が付いたら異世界。
しかも不死身になっている。
何が何だか分からないけれど、とりあえず女の子を拾ったり、勇者と出会ったり、魔王に狙われてみたり。
異世界でうろうろする内に、段々明らかになっていく、規格外の自身の力。
そして、僕は世界の命運を委ねられることになった!
......ってな感じで展開していく予定の王道ファンタジー。
主人公は監禁されたり、タイムトラベルしちゃったりしますが、基本的には完敗はあり得ません。
不死身だし。
ついでに、色んな女の子から好意を寄せられますが、割と一途で行く予定。
※本作は、私が生まれて初めて書いてネットに投稿した小説を、基本、主人公視点で改稿した物となっております。
大筋の内容に大きな変更は有りませんが、改稿自体が生まれて初めての経験でございまして、果たしてうまくいくのか、多分に実験的小説になっていたりします。
お読みになろうという奇特な方は、その点を踏まえてご覧頂きますよう、お願い申し上げます。
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
文太と真堂丸
だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。
その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。
逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。
そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達
お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。
そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇
彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。
これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。
(現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)
お姉様といっしょ
菫川ヒイロ
ライト文芸
ここは、長い歴史のある由緒正しき学園
名のある家のご息女も通っている乙女の園
幼稚舎から大学までのエスカレーター式で
ここで教育を受ければ、素晴らしき淑女の完成だ。
その教育の中には姉妹制度が導入されており
二人は姉妹になった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる