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30、本物の自信
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具視は審査会場の外を出てとぼとぼ歩き、ガクッと膝を折り曲げて床を見つめた。
”獅子は目を覚まさなかった”
数時間待った結果が、この言葉。
守護影審査に落ちた。
正直ショックだ。
守護影を呼び出すこと。払霧師大学へ入学するための大切な第一条件なのに。前日に食べたものがよくなかったのだろうか。それとも筋肉痛の……
「もしかして、駄目だった?」
顔を上げると頭をポリポリかく龍太郎が立っていた。
「龍太郎さん……」
「おっ、おい! めそめそすんなよ。お前は天才じゃない。駄目だったらまた挑戦すればいい、それだけだ」
龍太郎は大きな手を差し出した。具視は情けなく思いながらも彼の手を取り立ち上がった。
「才能ないんじゃないかって」
「まず、どこまで話が進んでるんだ」
「守護影が獅子だって、ところまで」
「おぉ! すげぇじゃん!」
龍太郎は大きな声で言った。
「それ、お前の中にちゃんと守護影がいたってことだろ? だったら、自分に払霧師としての才能がないんじゃないかって考えるのはやめろよ。見つかってよかったな、守護影。次はうまくいく」
龍太郎は具視に近寄った。
「お前は今、不安になってる。次もうまくいかなかったらどうしようって。大丈夫、次はうまくいくって言えよ。保証なんてなくたっていい。俺にだって自信なんてない。だけど、あるように見せてる」
ポカンと口を開けたままの具視を見て龍太郎は言った。
「それがいつか、本物の自信になる」
言葉は心の薬にもなる。具視は龍太郎の前向きな言葉を聞いて、そう思わずにはいられなかった。
龍太郎という男は、とにかくポジティブだ。具視は自分が落ち込みやすい性格だと知っていたが、そのほとんどは自意識過剰からくる過度の期待だ。期待するから、予想が外れた時にがっかりする。でも、龍太郎は期待するなと言っているわけじゃない。例えば誰かから”あめ”をあげると言われた時。その個数が2個だったらなんて反応するか考えてみてほしい。「たったの2個か」と「2個もくれるの?」では、ぜんぜん意味が違ってくる。
そんなことを考えながら龍太郎と大学構内を歩いていると、生徒たちがわらわら寄ってきた。お目当ては現役払霧師の龍太郎。キャーキャー女子のファンが多いようで、彼は嫌がることなく笑顔で対応していた。具視は文字通り影になって待機していた。
大学案内と称して、龍太郎は大学の構内を案内してくれた。地図を見てみる限り、大学の建物はコの字形をしていて、3階建てになっている。実習棟、特別実験棟、学部棟、情報棟、装備開発棟、交流広場、事務局――専門的な教室がいくつもあった。龍太郎は講義を受けている也草の教室を後ろからこっそりのぞいた。
「おぉ、いたいた」
教室の隅で教授の話を聞く也草の横顔が見えた。教室の中には、也草の他に2人の学生しかいなかった。年齢層もバラバラで、明らかに小学生くらいの男の子がいた。授業内容は、移動中にかかる圧の計算という、ひどく難しそうなものだった。
(払霧師ってこんなに難しいこと習うのか)
「そんじゃあ、昼飯といこう」
龍太郎は迷うことなく広い大学の中をすいすい歩いていった。いったいどこでご飯を食べると言うのだろう、なんて考えていると分かりやすく「食堂」と書かれた大広間にやってきた。
すぐさまおいしそうな匂いが鼻の辺りを漂い食欲を刺激した。メニュー表を見てみると、どれもおいしそうなものばかりだ。龍太郎はかつ丼定食、具視はミネストローネとパンの洋風定食にした。お昼の時間を狙ってちりぽりと学生の姿が増える中、具視たちは安くておいしい学食を平らげた。
これにて守護影審査は閉幕。帰りの車の中ではもうぐったりで、龍太郎は声を掛けずに寝かせてくれた。龍太郎いわく、次の守護影審査は最低でも1週間の間を空けなければならない。
吉田は具視の守護影が深い眠りについていると言っていた。あと何回審査に通えば目覚めさせることができるのだろうか。こうなれば、気長に挑戦するしかない。焦ったってこの1週間が縮まるわけでも、次の審査で合格するとも限らないのだ。
”獅子は目を覚まさなかった”
数時間待った結果が、この言葉。
守護影審査に落ちた。
正直ショックだ。
守護影を呼び出すこと。払霧師大学へ入学するための大切な第一条件なのに。前日に食べたものがよくなかったのだろうか。それとも筋肉痛の……
「もしかして、駄目だった?」
顔を上げると頭をポリポリかく龍太郎が立っていた。
「龍太郎さん……」
「おっ、おい! めそめそすんなよ。お前は天才じゃない。駄目だったらまた挑戦すればいい、それだけだ」
龍太郎は大きな手を差し出した。具視は情けなく思いながらも彼の手を取り立ち上がった。
「才能ないんじゃないかって」
「まず、どこまで話が進んでるんだ」
「守護影が獅子だって、ところまで」
「おぉ! すげぇじゃん!」
龍太郎は大きな声で言った。
「それ、お前の中にちゃんと守護影がいたってことだろ? だったら、自分に払霧師としての才能がないんじゃないかって考えるのはやめろよ。見つかってよかったな、守護影。次はうまくいく」
龍太郎は具視に近寄った。
「お前は今、不安になってる。次もうまくいかなかったらどうしようって。大丈夫、次はうまくいくって言えよ。保証なんてなくたっていい。俺にだって自信なんてない。だけど、あるように見せてる」
ポカンと口を開けたままの具視を見て龍太郎は言った。
「それがいつか、本物の自信になる」
言葉は心の薬にもなる。具視は龍太郎の前向きな言葉を聞いて、そう思わずにはいられなかった。
龍太郎という男は、とにかくポジティブだ。具視は自分が落ち込みやすい性格だと知っていたが、そのほとんどは自意識過剰からくる過度の期待だ。期待するから、予想が外れた時にがっかりする。でも、龍太郎は期待するなと言っているわけじゃない。例えば誰かから”あめ”をあげると言われた時。その個数が2個だったらなんて反応するか考えてみてほしい。「たったの2個か」と「2個もくれるの?」では、ぜんぜん意味が違ってくる。
そんなことを考えながら龍太郎と大学構内を歩いていると、生徒たちがわらわら寄ってきた。お目当ては現役払霧師の龍太郎。キャーキャー女子のファンが多いようで、彼は嫌がることなく笑顔で対応していた。具視は文字通り影になって待機していた。
大学案内と称して、龍太郎は大学の構内を案内してくれた。地図を見てみる限り、大学の建物はコの字形をしていて、3階建てになっている。実習棟、特別実験棟、学部棟、情報棟、装備開発棟、交流広場、事務局――専門的な教室がいくつもあった。龍太郎は講義を受けている也草の教室を後ろからこっそりのぞいた。
「おぉ、いたいた」
教室の隅で教授の話を聞く也草の横顔が見えた。教室の中には、也草の他に2人の学生しかいなかった。年齢層もバラバラで、明らかに小学生くらいの男の子がいた。授業内容は、移動中にかかる圧の計算という、ひどく難しそうなものだった。
(払霧師ってこんなに難しいこと習うのか)
「そんじゃあ、昼飯といこう」
龍太郎は迷うことなく広い大学の中をすいすい歩いていった。いったいどこでご飯を食べると言うのだろう、なんて考えていると分かりやすく「食堂」と書かれた大広間にやってきた。
すぐさまおいしそうな匂いが鼻の辺りを漂い食欲を刺激した。メニュー表を見てみると、どれもおいしそうなものばかりだ。龍太郎はかつ丼定食、具視はミネストローネとパンの洋風定食にした。お昼の時間を狙ってちりぽりと学生の姿が増える中、具視たちは安くておいしい学食を平らげた。
これにて守護影審査は閉幕。帰りの車の中ではもうぐったりで、龍太郎は声を掛けずに寝かせてくれた。龍太郎いわく、次の守護影審査は最低でも1週間の間を空けなければならない。
吉田は具視の守護影が深い眠りについていると言っていた。あと何回審査に通えば目覚めさせることができるのだろうか。こうなれば、気長に挑戦するしかない。焦ったってこの1週間が縮まるわけでも、次の審査で合格するとも限らないのだ。
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