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9.ラブ&テイク。
しおりを挟む「それで、田中くんは何を最初に作るかは決めてるのかしら?」
「ダイエット用のクッキーを考えてます」
割りと即答できた。
僕はデブ。
それは間違いない。
でもデブが健康を志したっていいよね?
僕だってシンジさんのような動けるデブになりたい。
そんな僕が自分の生活を省みて、気づいたことがある。
間食が多い……
僕の食欲的に、すぐに間食を減らすのは厳しいと判断。
ならば間食に適したダイエットメニューを考える。
美味しければ尚良し!
「良いですね、ダイエット用のクッキーですか」
ふふっ、と部長さんが微笑む。
キツ目のセンパイ女子の不意打ちに、おもわずドキッとした。
「個人負担の部費はない代わりに、材料費の負担は各自で行います。調味料は部室にあるものであれば自由に使って良いです。学校支給の部費も少しありますが、ほとんどは皆で使える調味料などを揃えるのに使います。希望の物はリクエストしてください」
ふむふむ。
「分かりました!」
高橋センパイとはうまくやっていけそうだ。
まだ警戒している様子の他の皆さんとは、追々仲良くなれたらいいな。
◆
とりあえず初日はこれくらいにして、料理研究部の部室を後にする。
ついでに、他に気になっている部の前をいくつか通って見てみようかな。
まだ入部はしないつもりだけど。
そんな感じで部室棟を見学してると、突然背後から声をかけられる。
「ねぇ、入る部活決めたの?」
その声に振り返ると、声の主はいかにもスクールカースト上位の美少女だった。
「……」
「あっ、田中くんだよね? アタシのこと分かる?」
自己紹介でなんとなく見覚えある。
えっと……
同じクラスの、名前は水嶋ナナコさんだったか。
陰キャの僕は女子の顔の直視は微妙に避けたまま返答する。
「同じクラスの水嶋さん?」
「あ、認識されてた。嬉しい!」
ドキッ。
ボッチ陰キャは女子に微笑まれただけで好きになっちゃうから気を付けてほしいよ。
高橋センパイもね!
猫のように人懐っこい微笑みを見せて近づいてくる彼女。
女子に免疫のない僕はこれだけでキョドってしまいそうになる。
いや、間違いなくキョドる。
なぜ、彼女みたいなスクールカースト上位美少女が僕なんかに声を掛けるのか。
君、もうクラスの中心グループの中心人物ですよね。
視界の片隅で見てましたけど。
もしか、クラスに馴染めてない僕に憐れんでるのでしょうか。
それとも、僕のこと好きなの?
と、さっそく僕のボッチ陰キャ脳が勘違いしそうになる。
いやまて。
こんな時はデブ&テイクの師匠の教えを思い出して一旦落ち着こう。
えっと……
◆
かつて交わしたシンジさんとの会話を思い出す。
「師匠、デブも女の子と仲良くなれますか? ぼくも彼女作れますか?」
シンジさんが「師匠はやめてね」と少し困ってみせながら、うんと力強く頷いた。
「デブ&テイクの教えに従って自分を磨き続ければ、とびきりの運命の女性に出会えると保証する」
「本当ですか!?」
「『デブは痩せた人よりもラブする事ができる、つまりすごいラブをあげられる人がデブなんだ』と自分に言い聞かせ続けるだけでね」
「デブ&テイクのラブバージョン!?」
「ラブ&テイクさ!」
「ラブ&テイク!?」
「でも、出会ったばかりで相手を好きになりすぎたり、すぐに告白したりするのは絶対に失敗するからね。好きという感情は封印して、いつも紳士でいることを心がけて。僕はそうしてるよ」
「なるほど、デブ紳士ムーブを心がければ……」
◆
そうだ。思いだした。
と目の前にいる彼女が僕の運命の女性?
(いや、ないでしょ)
だって、釣り合いが取れてなさ過ぎだもの!
心の中で自分自身に笑ってしまう。
(それはそうとして。彼女の目的がどうであれ、僕はデブ紳士ムーブを心がけなきゃ)
少し落ち着きを取り戻した僕は、そっと決意する。
恐らく彼女は、良く知らないけどクラスメイトがいたので、ただ声を掛けただけなのだ。
「同じクラスはそうなんだけど、学校入学前に会ってるんだけど、覚えてる?」
ん?
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