5 / 12
5.デブと登山。
しおりを挟む僕が登山を計画したシジミ山は上級者用と初級者用の2つの登山コースがある。
今回はありがたく難易度の低い初心者コースでチャレンジすることにした。
お父さんの運転する車が目的地に到着。
頂上から少し離れた中腹の駐車場だ。
家を出た時は真っ暗だったけど、日の出を予感させる明るさになってきた。
しばし、休憩タイム。
そして、――準備完了。
「登り始める前に、いくつか確認しよう」とお父さん。
「まずは装備だ。登山靴はしっかり履いてるね。そして防寒具や雨具も持っているね」
「リュックに水、非常食、応急処置キットもちゃんと入ってるかしら?」 お母さんも補足する。
「そうだな。そして、気象情報をしっかりと確認して、天候が急変しないかも注意しよう。今のところは、今日は晴れだ」
「さらに、山道を外れないように地図やコンパス、GPSを持っておくのも忘れずにな」
「全部、お店の人の受け売りだけどね」とお母さん。
「他の登山者とのコミュニケーションも大事だよ。誰かとすれ違ったら挨拶を心がけよう」
僕は2人にわかったと頷いてみせる。
「分かったよ、お父さん。お母さん。安全第一で行こう」
「無理はするなよ、タカシ。お母さんも」
「うん」
「おとうさんこそ無理しちゃダメよ。明日普通にお仕事なんだから」
「分かってる。安全第一で行こう」
「りょーかい」
「じゃあ、出発!」
僕の号令で、登山開始。
まずは僕が先頭だ。
しばらくは散策エリアと呼ばれる景色を楽しめる、緩やかな登り坂で、ここは楽だった。
しかし、散策エリアを過ぎて、段々と傾斜キツくなってきた。
進むにつれて木々や岩肌によりシャープになり、足元の道も段々と岩や根っこで覆われ、坂道は急になり、息が上がり始めた。
疲れが肉体を襲い、足は重く感じられる。
専門店の店員に勧められたこだわりのアイテムを詰め込んだリュックの重さが増し、背中と肩に食い込む。
呼吸が荒くなり、汗が流れ落ちる。
お父さんに先頭を譲る。
……いつしか、僕は最後尾になっていた。
「お母さん、ほら水分とって」
「ふふっ。登山デートっぽくて良いわね」
「タカシもいるぞ」
「久々の家族デートね」
家族デートという言葉は初耳だな。
両親は意外に健脚で、それは本当に意外だった。
とうとう僕は、現実逃避するかの様に、変なことを考え始めた。
例えば、「2人共ムダに美男美女だなー」とか、「2人共デブではない両親と僕の遺伝関係はどうなってるのだろう」とか、「昔そういえば、本当の親子関係なのか調べたっけなー」とか。
そして後悔。
どうしてこんな山登りを始めてしまったのか。
「後悔先に立たず」とはこの事か。
しばらくすると考えることさえも億劫になってきた。
何も考えずに黙々と足を動かす。
「タカシ、見てみろ。日の出だ」
お父さんの言う通り、太陽が顔を出しそうだった。
頂上で見る予定だったけど、まだ頂上にはついてない。
「山の上の方が日の出は早いんだよな。ほら、上の方は明るい。下の方はまだ影に覆われていて、上の方からだんだん明るいところが広がっている。見えるか?」
確かに本当だ。
「ここで休んで日の出を見ていきましょう。お母さん、少し息があがっちゃったし、休憩~」
僕の方があがってるけどね。
お母さんに気を使われてしまったかな。
日の出だ。
いつぶりだろう。
何年か前に見た、初日の出以来だ。
「不登校の理由だけど、本当はいじめが原因だったんだ」
不意に、僕は両親に、これまで話してこなかった、不登校の本当の理由を打ち明けていた。
両親は静かに驚きつつも、僕の言葉を待っているようだった。
いつの間にか、僕の目から涙が溢れていた。
「僕、県外の高校に進学したい」
「そうか……」
「おかあさんは賛成♪」
「お母さん!?」
「おとうさんももちろん賛成よね?」
「あ、うん。もちろんだとも」
両親はいじめの事実に憤慨しながらも、打ち明けた僕に感謝しているようだった。
「おかあさんとおとうさんは、タカシのことを本当に愛してるんだから。いじめっこの連中はおかあさんが抹殺しようかな?」
お母さんが本当に怒っているようだった。
僕は、あわててなだめた。
県外の高校に行くことを許してもらえるなら、やり直せるなら未来は明るいと思ってると。
僕は自然と、シンジという不思議な青年に出会った話もしていた。
そして、彼から「デブ&テイク」という哲学を学んだこと。
これから変わっていきたいという想いのこと。
両親は、驚きつつもシンジと「デブ&テイク」の話を信じてくれたようだった。
「タカシを県外の高校に行かせるくらいの貯えはあるからな。心配するな」
「うん」
僕は涙をふきながら、ぎこちないけど、久方振りの笑顔で2人に答えたのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる