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真実
油断
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この戦い以降、ル=マルデには誰も住もうとはせず、瓦礫と雑草しかない、無人の荒れ果てた地へと変わってしまった。
なんでも、ここを通りがかった旅人が、無数の亡霊に出くわしたという話だが……うん。そりゃ居続けたくねえな。
「そうだ、俺が夢で見た場所……ここだったのか⁉」
つい我を忘れてあちこち散策してしまった。もしかしたら、どこかに俺をずっと悩ませ続けていたあの嫌な夢の痕跡、少しくらいならあるんじゃないかと思って。
ーパスッ
……突然、左の肩口に、針で刺したような痛みが走った。
「え……おわっ⁉︎」唐突に変な声が出てしまった。
俺は慌てて近くの瓦礫の陰に身を隠した。痛みのする箇所……背中側を探ると、短い矢が。
持ち前の固い毛のおかげでそれほど深くは刺さってはいなかったようだが……まずは傷口が広がらないように注意深くゆっくり引き抜いて……っと、その前に親方に以前言われたチェックをだな。こんなときに一本だけ矢を射るだなんておかしすぎる。
俺は引き抜いた矢にこびりついた血を拭い取り、ちょこんと先端を舐めてみた。
……うっすらとだが、甘い。
ーいいかバカ犬。もし予期せぬ場所で投げナイフや飛び道具とかをいきなり食らった時は、ケガの度合いよりかまず毒矢かどうか確かめるんだ。ある程度なら切っ先に付いた味をみりゃ分かる。ちょびっと舐めてみろ。なんとも言えねえ嫌な味がずっと口の中に残るなら、そいつは絶対に毒だ。
逆に甘いと感じたのなら、それは眠り薬に違いない。
なぁに、幾度となく俺はカラダを張って経験してきたんだ、間違えることなんてねぇさ。
……親方が言ってくれた、あの言葉を思い出した直後、いきなり目の前の瓦礫がぐにゃりと、まるで陽炎のようにゆらめきだした。
急いで立ち上がると、今度はまるで水の中にいるかのようなふわふわとした感覚が……
ヤバい。こいつ即効で来るやつだ!
そうだ、こうしている間にも、連中は俺の命を狙いに来るはずだ。くそっ、油断した。
「は……っ。はや、く、アスティ……のところ、に、もど、らっ……」
だんだんと意識が遠のいていく。もはや自身がなにを喋っているかすらわからなくなってきた。
そう、これが夢か、現実かも。
歩こうと足を踏み出すと、今度は足の裏から固くて柔らかい、つまりは気持ちの悪い感触がゾワっと背筋にまで伝わってきた。
これは……人の身体か?
いや俺の足元だけじゃない。見渡す限り一面、血と泥にまみれた死体が転がっている。
身に帯びた鉄の鎧の形状、そして育ちが良さそうな顔つきからして……こいつはリオネングの騎士団か。
その周りには装備すらまちまちな骸が。
……ああ、分かる。こいつらは俺と同じ雇われ共だ。元締めの大金のお誘いにまんまと乗ってしまった挙句、先陣切ってさっさとオコニドの弓兵の罠にかかり、いい的にされちまった。
そんな何千、何万人ものバカな奴らが、俺の周りで朽ち果ててしまっている。
ふと、今度は俺の顔面……いや、頭の中を、鋭く刺すような痛みが走った。
無理やり記憶を戻すのを妨げているかのような。
ああ、そうだったな、俺もそのバカの一人だったっけ。まだガキで無謀というものを知らなかった。罠とも知らずに最前線に飛び出ちまったとき、岩陰や仲間の死体の下に潜んでいた無数の弓兵に……
あのとき、空が急に真っ暗になったから、通り雨でも来るのかと思って……
直後、後ろにいた奴らは針山になって息絶えていた。
そして、もちろん俺も。
……俺自身も、血と泥の混じったぬかるみに溺れて……いや、あれは俺の流した血か。
胸の中まで血が溢れかえって、息もだんだんできなくなって、もう指の一本すら動かすことができなかった。
でも……そうだ。俺の目の前に誰か立ってたんだっけ。
そいつが、俺に……
「ったく、まだ倒れねえのかよ。頑丈なやつだな」
ゴッ!!
硬いゲンコツで殴られたような一撃が俺の頭に響いてきて……
俺の残された意識が、飛んだ。
なんでも、ここを通りがかった旅人が、無数の亡霊に出くわしたという話だが……うん。そりゃ居続けたくねえな。
「そうだ、俺が夢で見た場所……ここだったのか⁉」
つい我を忘れてあちこち散策してしまった。もしかしたら、どこかに俺をずっと悩ませ続けていたあの嫌な夢の痕跡、少しくらいならあるんじゃないかと思って。
ーパスッ
……突然、左の肩口に、針で刺したような痛みが走った。
「え……おわっ⁉︎」唐突に変な声が出てしまった。
俺は慌てて近くの瓦礫の陰に身を隠した。痛みのする箇所……背中側を探ると、短い矢が。
持ち前の固い毛のおかげでそれほど深くは刺さってはいなかったようだが……まずは傷口が広がらないように注意深くゆっくり引き抜いて……っと、その前に親方に以前言われたチェックをだな。こんなときに一本だけ矢を射るだなんておかしすぎる。
俺は引き抜いた矢にこびりついた血を拭い取り、ちょこんと先端を舐めてみた。
……うっすらとだが、甘い。
ーいいかバカ犬。もし予期せぬ場所で投げナイフや飛び道具とかをいきなり食らった時は、ケガの度合いよりかまず毒矢かどうか確かめるんだ。ある程度なら切っ先に付いた味をみりゃ分かる。ちょびっと舐めてみろ。なんとも言えねえ嫌な味がずっと口の中に残るなら、そいつは絶対に毒だ。
逆に甘いと感じたのなら、それは眠り薬に違いない。
なぁに、幾度となく俺はカラダを張って経験してきたんだ、間違えることなんてねぇさ。
……親方が言ってくれた、あの言葉を思い出した直後、いきなり目の前の瓦礫がぐにゃりと、まるで陽炎のようにゆらめきだした。
急いで立ち上がると、今度はまるで水の中にいるかのようなふわふわとした感覚が……
ヤバい。こいつ即効で来るやつだ!
そうだ、こうしている間にも、連中は俺の命を狙いに来るはずだ。くそっ、油断した。
「は……っ。はや、く、アスティ……のところ、に、もど、らっ……」
だんだんと意識が遠のいていく。もはや自身がなにを喋っているかすらわからなくなってきた。
そう、これが夢か、現実かも。
歩こうと足を踏み出すと、今度は足の裏から固くて柔らかい、つまりは気持ちの悪い感触がゾワっと背筋にまで伝わってきた。
これは……人の身体か?
いや俺の足元だけじゃない。見渡す限り一面、血と泥にまみれた死体が転がっている。
身に帯びた鉄の鎧の形状、そして育ちが良さそうな顔つきからして……こいつはリオネングの騎士団か。
その周りには装備すらまちまちな骸が。
……ああ、分かる。こいつらは俺と同じ雇われ共だ。元締めの大金のお誘いにまんまと乗ってしまった挙句、先陣切ってさっさとオコニドの弓兵の罠にかかり、いい的にされちまった。
そんな何千、何万人ものバカな奴らが、俺の周りで朽ち果ててしまっている。
ふと、今度は俺の顔面……いや、頭の中を、鋭く刺すような痛みが走った。
無理やり記憶を戻すのを妨げているかのような。
ああ、そうだったな、俺もそのバカの一人だったっけ。まだガキで無謀というものを知らなかった。罠とも知らずに最前線に飛び出ちまったとき、岩陰や仲間の死体の下に潜んでいた無数の弓兵に……
あのとき、空が急に真っ暗になったから、通り雨でも来るのかと思って……
直後、後ろにいた奴らは針山になって息絶えていた。
そして、もちろん俺も。
……俺自身も、血と泥の混じったぬかるみに溺れて……いや、あれは俺の流した血か。
胸の中まで血が溢れかえって、息もだんだんできなくなって、もう指の一本すら動かすことができなかった。
でも……そうだ。俺の目の前に誰か立ってたんだっけ。
そいつが、俺に……
「ったく、まだ倒れねえのかよ。頑丈なやつだな」
ゴッ!!
硬いゲンコツで殴られたような一撃が俺の頭に響いてきて……
俺の残された意識が、飛んだ。
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