MAESTRO-K!

RU

文字の大きさ
上 下
67 / 90
S3:猫と盗聴器

34.恐怖のペアリング

しおりを挟む
 その後、それぞれが持っているスマホのカメラを使ってビルの中を見て回り、呆れるほど大量のカメラと盗聴器を発見した。
 最初に白砂サンが見つけたのはACアダプターに擬態していたが、他にも火災報知器やハンガーフック、電球に擬態している物まであった。
 ちなみに白砂サンの背負っていたナップザックの中には、もっと本格的な隠しカメラと盗聴器を探知する機材が複数ハイっていて、念入りに全部の部屋を調べてくれた。

「うは、スゲェ数だなぁ~」

 ペントハウスの床にごっちゃりと積み上がった機器の山を眺めながら、それでもまだ余裕に状況を楽しんでいる様子のシノさんが言った。

「信じられない…アイツ、何考えてんだよ…?」

 従兄弟のイカレた所業に、驚きのあまり暗闇で卒倒したホクトは、ぶつけた後頭部を氷で冷やしながら応接セットふうのソファで横になっている。

「んなこたぁコッチが聞きたいわ! ひとんちの風呂場から便所まで覗いてやがって、オマエの親戚迷惑過ぎだろ!」

 俺達が暗闇でスマホをかざしつつ、隠しカメラ探しをしているところに帰宅したエビセンは、その異様な空気に流石に少々面食らい、更に事情が判ったところでお怒り心頭モードに突入していた。
 幸いにして俺の部屋にはカメラは無かったが、敬一クン繋がりなのだろう、コグマとエビセンの住まいには、カメラも盗聴器もしっかり設置されていたのだ。

「海老坂、やったのは南さんで、天宮じゃない。天宮を責めても仕方が無いだろう」
「何言ってンだ! 天宮繋がりで出てきたお変人じゃねェか、天宮の所為だろが!」
「そんなことを言い出したらキリがないだろう」
「いいんだよケイ…。アイツ、ケイの入浴まで覗いてて、頭おかし過ぎだ。迷惑掛けて本当にすまない」

 二階のフライングVコンビの仕事場と部屋は盗撮を免除されていたが、一階の店舗は客席も厨房もアナログレコード部屋も盗撮されていたし、どういう繋がりなのかワカラナイが、白砂サンの住まいにもカメラと盗聴器が設置されていた。

「見られて困ることはしていないが、盗撮も盗聴も御免こうむりたい。柊一、君からやめるようクレームしてくれ」
「そー言われてもなぁ。俺がやめろって言ったからって、ホントにやめるかどーかまでは請け負えないからなぁ」
「ミナミが変わり者で、猫以外に憩いを求められないことは知っている。彼がホクト君に極端なライヴァル心を燃やしていることも、彼の生い立ちから理解出来る。だがこれは少々やり過ぎだろう」
「白砂サン。俺はミナミの事情なんか理解してやれませんよ。警察に訴えます」
「俺も海老坂の意見に賛成です。いくら親族でも酷すぎる」

 珍しく、エビセンの意見にホクトが同調した。

「君達がそうすると言うなら、私に止める権利は無い。だが訴状に名前を連ね、協力することは出来ない。それはミナミが私の友人だからだけでなく、ミナミの不祥事がミナトにどんな余波をもたらすのか、想像が出来ないからだ。私はこれ以上、ミナトを大人の不始末に巻き込みたくない」
「俺も出来れば南さんを訴えるより、ミナト君の立場を優先したい」

 白砂サンと敬一クンにそう言われて、エビセンとホクトは顔を見合わせる。
 エビセンは肩を竦めて「しょーがねェな」と言い、ホクトも「ケイがそう言うなら」と頷く。
 すると白砂サンの隣に座っていたミナトがボソッと言った。

「あんな奴、おまわりさんに捕まっちゃえばいいんだ。聖一もあんな奴の友達なんて、やめたほうがいいよ」

 ミナトは如何にも強情そうな目で周囲の大人を見ている。
 するとミナトの肩に手を置いた白砂サンが、その可愛げのない顔を、そっと覗き込んだ。

「だが、私がミナミの友人で無かったら、ミナトと知り合えなかったよ?」

 ミナトは白砂サンの言うことはちゃんと聞くらしい。
 不満そうだったが、それ以上は口を噤んだ。
 ミナトが不満ながらも納得した様子を見せたら、白砂サンは顔を上げ、視線をホクトに向ける。

「ホクト君。失礼だが、君のスマホを見せてもらえまいか?」
「え? 俺のスマホですか?」

 ホクトがポケットからスマホを取り出し白砂サンに渡すと、白砂サンはそれを少しいじってから、おもむろにホクトに向かって質問を始めた。

「これ、買ってどれくらいかね?」
「半年ぐらいだと思います」
「電池の減りが、早いと感じているかね?」
「そうなんですよ。まえに使っていた物より早くて」
「このアプリ、何に使っているのかね?」

 差し出されたスマホの画面を見て、ホクトは首を傾げた。

「なんだろう? そんなアプリ入れたかな?」

 ホクトの答えに、白砂サンは頷いた。

「うむ、やはりな…」
「何がですか? 今の質問の意味は?」
「君のスマホ、ペアリングされているんじゃないかと思ってね」
「はいいっ?!」

 ホクトはソファの上で跳ね起きる。

「ペアリングってなんじゃい?」
「ペアの現在分詞で、二つのものを組み合わせるという意味だね。今回のことに限って言えば、通話内容や個人情報などホクト君のスマホで行われた全てが、ペアリングされたもう一台のスマホでも行われていて、相手がその様子を見聞き出来る環境にあると言う意味だ。盗聴アプリもインストールされているようだから、遠隔操作で盗聴もされていると思うよ」

 見る間にホクトの顔が強張った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...