MAESTRO-K!

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S3:猫と盗聴器

4.白砂サンの美観

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「一つ気になったんだけど、セイちゃんとレンの偉さが変わると、何が変わるん? 壁のポスターだけ?」
「私が不満に感じていても、多聞君に遠慮して口に出していなかったことを、即座に改革することが出来る」
「えええ…えと、えと…、それは…なんでございましょう?」

 俺は、過去に勤めたブラックな職場で、上司に「居るだけで不愉快」とか「優柔不断さがイライラする」とか言われたことを一気に思い出して、全身からブワッと変な汗が出てきてしまった。

「君のエプロンだ」
「はぁ?」
「多聞さんのエプロンに、問題が?」
「このカフェに置かれている調度品や、私の作る菓子の趣に対して、そのエプロンはあまりにもそぐわない。もしカフェをメインに据えるのならば、給仕をする人間のユニフォームを整えてもらいたい」

 そこまで説明されて、ようやくそれが俺個人へのクレームじゃないことが判明して、俺は脱力した。

「ん~。そーだな。確かにシャレオツなカフェ~なら、見た目からハイらないとダメだなぁ! てか、なんで今までそのコト黙ってたん?」
「君は最初に、カフェはレコード店の付属だと言った。私はカフェの担当だから、レコード店への口出しは控えるべきだろう」
「フロアの給仕は、カフェの話じゃん」
「だが、多聞君はレコード店の店長なのだろう? 店で扱う商品は、ロックのアナログレコードだと聞いている。故に、色がまだらに抜けくたびれたデニムのエプロンに、私が口出しするべきでは無いだろう」

 なんだかものすごく詰られたような気がしなくも無いが、白砂サンの持つ "ロック" のイメージからの発想…と思っておこう…。

「あ~、にゃるほど、そーいう理屈なのね」

 シノさんは、うんうんと大きく頷いた。

「そーいうの遠慮しないで、どんどこ言ってくれて良かったよ? てか、セイちゃんもウチにゴハン食べにくれば、メシ食いながらそーいう細かい話も出来るンじゃけど」
「しかし、私はそちらに食費を支払っていない。夕食の席に度々招かれる|わけにはいかんだろう」
「食材持ち寄りのミーティング…だと思ってくれればいいぜ! てか、セイちゃんのばやい・・・、オイチー料理を振る舞ってくれれば、その腕前料テクニックで相殺じゃん。俺にウマイ夕飯、作ってちょ」

 シノさんがいつものチシャ猫みたいな顔でニイッと笑うと、白砂サンは何回か瞬きをしたのちに、頷いた。

「了解した。それで、ユニフォームはどうするのかね?」
「ん~、とりあえず、服装をセイちゃんから提案してよ。俺もレンもエプロンがダメなんて思ってなかったから、方向性がワカランもん」
「そちらも了解した。近日中に、原案を提出しよう」
「んじゃ、営業時間は11時に変更で良い?」
「ヒエラルキーの件は?」
「全部、セイちゃんが決めて構わんよ。てか、そのほーがレンも気楽でえーよな?」

 シノさんの問いに、俺は首をガクガク上下に振って同意を示した。

「了解した。それでは、開店時間はどちらも11時にしよう」
「んじゃ、それで決まりな! あー、これで早起きから解放されるー!」
「あ、それはナイ」
「なんでじゃっ?」

 俺の返事に、のびのびと両手を上げて思いっきり深呼吸していたシノさんが、バッと振り返った。

「だって、開店時間をカフェに合わせるってコトは、白砂サンのスケジュールは変わらないってコトだから、俺のスケジュールも変わらないモン。シノさんの起床時間も変更はナシだよ」
「ええ~!」
「そうですね、タイムスケジュールは多聞さんの言う通りです。でも俺は毎朝、兄さんと食事が出来るのが楽しいです」
「むむ~う。ケイちゃんにそー言われては、断れナイな」

 シノさんは観念したように溜息を吐き、うんっと頷くと、そのまま壁に貼ってある中古レコード店の営業時間が書かれた紙に歩み寄り、マジックペンで大胆な修正を加えようとした。

「マエストロ」
「なんじゃい?」
「早速、意見を言わせてもらうが、その張り紙はカフェに合わない」
「そーなん?」
「カフェを主体にするのならば、店内のレイアウトは私に主導権がある。壁や扉にポスターの類を無造作に貼らないでくれたまえ」
「んっか~」

 シノさんは腕組みをして、う~んと声を出しつつ考え込むようなポーズを取る。
 だけど、シノさんがこういう格好をして、わざとらしく「う~ん」なんて声に出している時は、大概なんにも考えていない。

「よし、ワカッタ! あとはタモンレンタロウ君と好きに決めてくれたまい」
「ええっ! 俺ェ?」
「うむ。今まで貼り紙の管理をしていたのはレンなんじゃし、そもそもセイちゃんは先刻 "現場の些末な案件" は、俺に相談しないで決めるってゆーてたもん。当然じゃん」
「シノさん、自分が面倒なだけだよねぇ!」
「うむ。働き者の従業員がいると、ラクでいいなぁ!」

 ニイッと逆襲の笑みを浮かべると、シノさんはタブレットを手に取った。
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