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S1:赤いビルヂングと白い幽霊
4.二つの店の関係(2)
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問題は、試聴コーナーの備品である。
現状、MAESTRO神楽坂の収支はプラマイゼロって感じなので、なんらかの備品が壊れたりしても、そうそうすぐには買い替えが出来ない。
だが、試聴コーナーには非常に高価な備品が置かれている。
それは、レコードプレーヤーだ。
件の再注目ムーブのおかげで、以前ほどにはプレーヤーの入手に手こずることはなくなったし、値段もだいぶ落ち着いたが。
それでも、俺が子供の頃は3千円程度で買えた物が、今は最低価格で1万スタートだ。
極貧古物商が、その1万をひねり出すのに、どれほどの努力が必要か? カフェに来て気まぐれに試聴コーナーを使う客には、なかなか解ってもらえない。
そこまで言うなら試聴コーナーなんて撤去してしまえばいいだろう…といわれるかもしれないが、俺はどうしてもここを撤去したくないのだ。
それに関してはシノさんと俺の意見は、珍しく一致している。
最も、シノさんの理由は、ペントハウスのソファでダラダラしてるのとほぼ同じことを、店頭でもやるのに便利だから…、つまり、カフェの客席では出来ないけど、試聴コーナーならパーテーションで見えないから、好き放題にダラけることが出来る…ってことなんだけど。
俺の場合は、カフェ目当ての客に少しでもアナログレコードに興味を持ってもらいたいからだ。
同じ音楽でも、デジタルプレーヤーで出る音と、アナログレコードから奏でられる音には、温かみが違うと思う。
この独特の針ズレとノイズは、世代を問わずに郷愁感がある。
しかしどれほど再注目だ再燃だと言われていても、アナログレコードが過去の遺物で、レトロな趣味であることに変わりはない。
実際、敬一クンとエビセンに確認したところ、どちらもアナログレコードとプレーヤーがなんなのかは知っていたが、自分で使ったことは無いと言われた。
つまり、カフェに来た客がレコードに興味を持ってくれても、プレーヤーの使い方一つ判らないのだ。
菓子パンを食った油まみれの手で、レコードの盤面をいきなり掴む…なんて、わりとあるある案件だったりする。
なので、初心者向けに "アナログレコードの取り扱い方法" とか "プレーヤーの操作方法" なんかをイラストにして、貼り紙を見やすい位置に貼ろうと考えたのだ。
と言っても俺には画才などナイので、ネットで版権フリーのイラストみたいなものを適当に集めて、それっぽい説明文を添えたPOPのような物を作るだけだ。
ぶっちゃけパソコンの扱いだって、成人後に世に現れた新しいツールだから、そっちも最低限の扱い方しか知らないが。
今どきはそんな俺でも、無料のアプリを使ってなんとなく無難な出来栄えの物が仕上がるから、ありがたい。
しかし、それもシノさんが傍に居るときに作業をすると、集めたイラストにいちいちいちゃもんを付けてくる。
正直に言うと、こういったもののセンスに関しては、俺よりシノさんのほうが才能はあると思う。
ただ、シノさんのセンスはハマる時にはシビれるほどビシッと決まるのだが、本人にやる気がナイ時とか、ダルダルモードの時には、腰が抜けるような結果を生むので、場合によっては頼んだことを後悔することになるのだ。
だからこんな些末な事務仕事は、俺がやったほうがマシな結果が得やすい。
だが、シノさんは俺がそういう作業をしていると、特に最初のイラストですら無い線を描いている時などは、歪んでるとかバランスが悪いとか細かいコトに口出汁をしてくる。
ところがこれが、出来上がってしまった状態になると、説明文の内容とか見出しとイラストのレイアウトに気を取られて、ぞんざいなイラストの歪みに意識が向かなくなる。
そもそもナイ画才をイジられるのはココロが折れるし、事務処理なんて面倒をやっているからモチベも下がるが、張り紙の位置だの文字色の変更ていどの話なら、俺の弱々メンタルでもなんとか対応が出来るのだ。
と言うワケで、俺は完成した貼り紙をパウチせずに仮止めで試聴コーナーのパーテーションに貼った。
思いの外、作業が済んだので、それならちょっと気になっていた試聴コーナーの配線もいじってしまおうと、俺は椅子を退かして机の下に潜り込んだ。
現状、MAESTRO神楽坂の収支はプラマイゼロって感じなので、なんらかの備品が壊れたりしても、そうそうすぐには買い替えが出来ない。
だが、試聴コーナーには非常に高価な備品が置かれている。
それは、レコードプレーヤーだ。
件の再注目ムーブのおかげで、以前ほどにはプレーヤーの入手に手こずることはなくなったし、値段もだいぶ落ち着いたが。
それでも、俺が子供の頃は3千円程度で買えた物が、今は最低価格で1万スタートだ。
極貧古物商が、その1万をひねり出すのに、どれほどの努力が必要か? カフェに来て気まぐれに試聴コーナーを使う客には、なかなか解ってもらえない。
そこまで言うなら試聴コーナーなんて撤去してしまえばいいだろう…といわれるかもしれないが、俺はどうしてもここを撤去したくないのだ。
それに関してはシノさんと俺の意見は、珍しく一致している。
最も、シノさんの理由は、ペントハウスのソファでダラダラしてるのとほぼ同じことを、店頭でもやるのに便利だから…、つまり、カフェの客席では出来ないけど、試聴コーナーならパーテーションで見えないから、好き放題にダラけることが出来る…ってことなんだけど。
俺の場合は、カフェ目当ての客に少しでもアナログレコードに興味を持ってもらいたいからだ。
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この独特の針ズレとノイズは、世代を問わずに郷愁感がある。
しかしどれほど再注目だ再燃だと言われていても、アナログレコードが過去の遺物で、レトロな趣味であることに変わりはない。
実際、敬一クンとエビセンに確認したところ、どちらもアナログレコードとプレーヤーがなんなのかは知っていたが、自分で使ったことは無いと言われた。
つまり、カフェに来た客がレコードに興味を持ってくれても、プレーヤーの使い方一つ判らないのだ。
菓子パンを食った油まみれの手で、レコードの盤面をいきなり掴む…なんて、わりとあるある案件だったりする。
なので、初心者向けに "アナログレコードの取り扱い方法" とか "プレーヤーの操作方法" なんかをイラストにして、貼り紙を見やすい位置に貼ろうと考えたのだ。
と言っても俺には画才などナイので、ネットで版権フリーのイラストみたいなものを適当に集めて、それっぽい説明文を添えたPOPのような物を作るだけだ。
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しかし、それもシノさんが傍に居るときに作業をすると、集めたイラストにいちいちいちゃもんを付けてくる。
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ただ、シノさんのセンスはハマる時にはシビれるほどビシッと決まるのだが、本人にやる気がナイ時とか、ダルダルモードの時には、腰が抜けるような結果を生むので、場合によっては頼んだことを後悔することになるのだ。
だからこんな些末な事務仕事は、俺がやったほうがマシな結果が得やすい。
だが、シノさんは俺がそういう作業をしていると、特に最初のイラストですら無い線を描いている時などは、歪んでるとかバランスが悪いとか細かいコトに口出汁をしてくる。
ところがこれが、出来上がってしまった状態になると、説明文の内容とか見出しとイラストのレイアウトに気を取られて、ぞんざいなイラストの歪みに意識が向かなくなる。
そもそもナイ画才をイジられるのはココロが折れるし、事務処理なんて面倒をやっているからモチベも下がるが、張り紙の位置だの文字色の変更ていどの話なら、俺の弱々メンタルでもなんとか対応が出来るのだ。
と言うワケで、俺は完成した貼り紙をパウチせずに仮止めで試聴コーナーのパーテーションに貼った。
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第八章 最終章
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※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
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